025 - 性能さらにさらに追加

 プルクラと走るティグリス村までの競争は、あっという間に終わってしまった。あまりの速さのため、すぐにティグリス村1キリメルト手前まで到達したからなのだが、この競争でいくつか分かったことがある。


 スタートは四足体勢からそのまま四足走行を試したのだが、これは完全にプルクラと同じ速度を出せた。そしてその後は二足走行を試行。この時は若干プルクラよりも遅くなることが分かったが、それでもウマの襲歩ギャロップよりも速く、しかもウマと違い急旋回や急停止も難なく出来る。


「ミアは優秀な……いや、おそらくこの国で一番の遊撃手になれそうだな。ミアが敵を翻弄、私が両断……うん、いいな! な!?」

「あはは……その時はよろしくお願いします……?」


 ティグリス村の手前で、一度人目につかない街道脇の木立に身を隠し、プルクラは巨獣化ギガニマルモード――もちろん命名はミモねえ――を解除、キワタリカメレオンの雑嚢を私とミモ姉で運ぶ。


「しっかし二人ともなんて速さだよ……しかもまだ走れそうなんだろ?」

「まだまだいけるのー!」

「うん、私も体力的には全然いけそうだよ」

「よく分からないけどすごいなお前ら……ってところでさ、ちょっと考えてたんだけど――」


 少し難しそうな顔を浮かべてミモ姉が私たちに言う。こちらを交互に見やり、その顔は不適な笑いに変わった。


「――プルクラのできることがミアにもできるってことはだ、もしかしてミア。お前、巨大化出来るんじゃないのか?」

「は? いやいやさすがにそれ――」

「母さまー、ウチの頭におてて乗せてみてー」


 半信半疑のまま、言われた通りに手を乗せてみる。

 あー……これできるやつじゃん。

 頭の中に大きさまで浮かんでいる。うん、隣に生えてる木と同じ――約5メルトくらいになれそうだ。


「なんかできるみたいだよミモ姉……5メルトくらい……かな」

「大きい母さま見てみたいのー」

「だな! ……いやだめだ。それ巨大化は今はやめとけ」

「え? どうして?」


 なんだかミモ姉が『こいつ何言ってんだ』って表情だ。

 確かに人が巨大化なんて聞いたこともないけど、私の中では出来るという確信があるし、プルクラも見てみたいって言ってる。かく言う私もちょっと試してみたい。


「……お前、そのままでかくなったら胴具も服も全部破けて真っ裸になるけどいいのか? 私は一向に構わないけどな! な!?」

「まっぱだかなのー! ウチとおそろいなのー!」


 無理です。やりません。ごめんなさい。


 普通に考えたら、この『巨獣化ギガニマルモード』って、プルクラはともかく私には使い所がないんじゃないだろうか。胴具や服もそうだけど、武器も巨獣化ギガニマルモードの前では小さすぎて無意味になるよね……。

 せっかく大きくなれるのになんか勿体無い気がするのは、心がプルクラに近づいて毒されてるのかな。


「大きくなるのはまた今度だな。よし! じゃあギルド行くぞ!」

「了解!」

「はいなのー!」


 三人並んで歩き出せば、ほどなく村の入り口が見えてきた。こちらに気づいた門番さんに手を振って、村に向けて走り出す。



† † † † 



「何? ヒール治癒魔法じゃと?」

「はい。プルクラは傷口を舐めて、私の方は患部に手を当てて、です。あと、詠唱は……“野生の治癒ワイルドヒール”って言うと傷が治るみたいです」

「ミアさんは魔法系職号がないにも関わらずヒール治癒魔法が使える、ですか……にわかには信じられませんが……」

「いや、私もこの目で確かめたから間違いないぞアルビ姐さん」


 バイラン様の執務室で詳細を報告すると、一様に信じられないと口にする。魔法というのは基本的に『魔法系職号を賜った人間』だけが使えるものらしい。基本的に、というのは、人によっては魔法系職号がなくとも、例えば喉を潤す程度の水を出せる、焚き木に着火出来る程度の火を出せる、といった『生活魔法』はおおよそ三人に一人は使えるからだ。じっちゃんも実は炉の火を起こすくらいの『着火魔法』を使えたりする。

 しかし、アルビさんの使う『身体強化魔法』や、怪我や病気などを治癒する『生命体に直接関与する魔法』は魔法系職号がないと使えないのだそうだ。


 でも、私とプルクラがヒール治癒魔法を使えるようになったのは本当のこと。どうやって証明したら……そうだ。


「バイラン様、アルビさん。どこか怪我などされていませんか? 実はヒール治癒魔法を使えたのは二人とも『自分自身に』だったんです。他者に試してはいないので、実証も兼ねてやってみたいのですが……」

「ふむ……わしは特に怪我はないんじゃが、よる年並みには勝てんようで、最近膝が痛くての。すっかり杖のお世話になりっぱなしなんじゃ」

「いくらなんでもそういったものは難しいのでは? ……そうですね、私は傷……というわけではないのですが、ここが……」


 とアルビさんが差した指先は右の頬。よく見れば吹き出物の潰れた痕がある。聞けば最近はギルド業務が忙しく――私のせいじゃないよね?――睡眠食事ともに不規則で、肌が荒れ気味なのだそうだ。確かに言われてみれば肌の調子が良くなさそう。目の下には薄らと隈もある。


「ということは……ざっくり言うとバイラン様は『内傷』、アルビさんは『外傷』ということですよね?」

「? あぁそうじゃな。ミアの言う通りじゃ」

「なんかそれが関係あるのか?」

「ほら、プルクラは剥がれた皮膚の『外傷』、私は瞼の腫れ、つまり『外傷じゃないもの』を治せたでしょ? だから、試すならバイラン様には私が、アルビさんにはプルクラが試せばいいんじゃないかって」


 アルビさんの吹き出物には瘡蓋かさぶたができかかってるし、言ってしまえば外傷だから、プルクラの方が適していると思う。


「そうじゃな。ではプルクラよ、手始めにアルビの吹き出物を治してやってくれんかの? その後はミアがわしに試してみるのじゃ」

「わかったのー。アルビおねえちゃん、すわってほしいのー」

「なっ! ……お、お姉ちゃん……す、素敵な響きです……私、姉しかいないからそんな呼ばれ方ハァハァ……」


 少しおかしなテンションになりながら、アルビさんはプルクラの前に正座をして、少し顔を前に突き出す。


「で、ではプルクラちゃん……お願いします」

「はいなのー!」

「! って、そんなに激しく舐めたら……いやん! そこは目ですー! 吹き出物は右だけですぅ〜!! おでこは大丈夫ですからぁ……んっ!」


 こ、これは……私が見ていいもの――と思う間も無くミモ姉に両目を塞がれた。


「ミアにはまだ早いなあれは……って、どうだプルクラ?」

「もうだいじょぶなのー」

「涎がすごいのう……ちょっと待っとれ……“セペリーテ・テレブリス”」


 バイラン様が杖頭をくるりと回した途端、それまで涎まみれだったアルビさんの顔が、布で拭き取ったかのように真っ新になる。


 そして現れたアルビさんの顔は。


「アルビよ、自分の目で確認すると良い……“エフィンゴ・ヴェリタス”」


 さらに杖頭をひと回しすると、アルビさんの眼前に鏡のようなものが浮遊していた。さっきのといい、これがバイラン様の魔法……すごいな。


 浮遊する何かをアルビさんが繁々と覗き込むと。


「っ! 吹き出物も! 目の隈も! 目尻にあったシワも! お肌のカサつきも……全て無くなってます!!」

「……プルクラお前……これはやり過ぎじゃないか?」

「さーびすなのー!」

「はぁ……もはやヒール治癒魔法というレベルじゃないのう。わしも目にしたことはほとんどないが、リジェネレ再生魔法と言っていい代物じゃな」


 リジェネレ再生魔法。私もその魔法は聞いたことがあった。怪我を治すヒール治癒魔法とは違い、欠損部分すら元通りにできる、私にはよく分からない魔法。それがリジェネレ再生魔法だ。


「そ、それってすごいんでしょうか……?」

「アルビよ。お主から説明してやっとくれ……わしはちょっと頭が混乱しとるでな。冷静に話せんかもしれん」

「承知いたしましたギルマス。ではご説明いたします。リジェネレ再生魔法とは――」


 以降、長々と続くアルビさんの説明に、ただただ空いた口が塞がることはなかった。

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