第58話

水と食料運搬について簡単に説明し終えると。カンプは次の仕事に移る

「さあ、次の仕事の募集だ。出入り口の設営部隊の募集だ。」



食料の警備はきつかったが、なんとが移動させ終えた

武力行使に来る奴はいたが散発的だ

集団での強奪はなかった

「トラ、あんた、あんまり食べてないじゃない。どうしたの。」

「今は、まだ何とかなっている。カンプ、あの男は優秀だ。が、状況が悪すぎる。食べられる人間の話、情報を集めといてくれ。そして食料を蓄えて脱出する。」



カンプが上司にかけあう

「移動命令がでた。1号を遂行してくれ。」

「その前に条件がある。」

「お前の言いたいことは判っている。だが、無理だ。工業区域は、すでに隔離済みだ。」

「食い物が足りない。」

「アガルタの人員を見捨てるのか。遠くからこっちを頼ってきた人間がいる。」

「ペットと家畜を処分しろ。実験動物もだ。」

「私の権限では決められん。」

「急いで決めろ。」

「…脅迫か。お前、後ろから刺されるぞ。」



簡易的内装が完成し、消毒や出入り口の設置も終わったころ、獣人が喜びにわいている

「何があった」

「生きた動物の肉が配給されたみたいよ。」

「そうか。気づいたか、あと少ししか食料がない。あの容器は偽物だ。」

「ええ、匂いが違う。見た目は同じだけど食料じゃない。」

「残念ながら、俺らは優先度が低い。しかたない。俺が奴等でもそうする。」

「食べれる人間の話は本当みたい。卑小鬼ゴブリンとか呼ばれているわ。目撃情報を集めたし、大体の地図も作ったわ。」



渋い顔のカンプがいる

「どうしてもやめるのか。」

「ああ、守るべき食料がなくなったからな。」

「まだ、仕事はたくさんある。」

「食料もたくさんあるのか。」

「なんとかする。」

「なんとかなるのか。」

「…これからどうする?」

「噂だが食料になる人間がいるらしい。」

「噂だろ。人肉食か。」

「ここに居るとそうなる。」

「…。」

「否定しないのか。」

「今まで助かった。また仕事ができることを祈ってるぜ。」

「トラフォード。」

「んっ。」

「良い名前をもらった。ありがとな。」

「ああ、そうだったか?元気でな。」



目撃情報の地図で、存在確率の大きいところを目指す

「アン、大丈夫か。」

「ええ、何でもないわよ。」

何か、顔色が悪いような気がする


数日後、思わぬものとであう

「これは、鳥人族か。初めて見た。」

「珍しいわ。死んでるようね。羽が焦げている。あっ、卵がある。えっ、温かい。」

「拘束具の痕がある。どこからか逃げて来たのか。」

「子を守る親の心ね。自分が死んでも子供だけは助ける。…もしかしたら雷鳥サンダーバードの鳥人かもしれない。」

雷鳥サンダーバードか、かみなりを出すという噂の。この鳥人、食料にするか。」

「…そうね。あなたの子は責任をもって育てるわ。許してね。」


しばらくして、卵から孵化したのは鳥人だった

「あら男の子。可愛い。嬉しいわ」

言葉と裏腹に顔色が悪い

「アン、本当にどうした。」

「あたいは、西の大陸で仕事したのよ。」

「そうなのか。」

「知ってるとは思うけど、大陸の鉱物資源をめぐる戦い。あそこで使われた素粒子兵器。」「知っている。」

「あたいの人生は残り少ないの。でも、あたいたちの子ができて幸せ。」

「…ああ。」


移動するのが厳しく、野営を続けている

アンは寝込んでいる

「あたいは、もう無理ね。もっと楽しい時間を過ごしたいけど。」

「すまない。アガルタに残っていれば良かった。」

「何言ってんの、こんなかわいい子に会えたわ。」

「すまない。」

「子供には優しくね。あんたは、もう十分強いんだし、子供も強く育てるわよね。きっと。よく聞いて。あたいを殺して食べて。」

「…できない。」

「あんたが手にかけないなら、舌を噛んで死ぬ。」

「…。」

「今夜、お願い。良い夢を見てるときに。」

夜中、これほど震えることはないというほどの手で首を絞める。



ようやくそいつを見つけたときにはフラフラだった

食料が尽き、水もなく

子供には自分の血を与えた

あとは指でも切るかと思ったときにそいつが現れた

緑色のそいつは生意気にも攻撃してくる

体が弱っているせいか、互角の戦いになってしまった

押し倒して、首に全体重をかけるようにして骨を折る



どうやら、また地獄に行き損ねたようだ

林が見える

卑小鬼ゴブリンも見える

水分たっぷりの、これは軟粘涅スライムだな

あの奥に何かあるはずだ



子供に自分が得た知識

傭兵団で学んだことで、偏りがあるが

それらをすべて教えている

「いいか、死にたくなければ、賢くなれ、そして強くなれ。だが忘れるな。他人には優しくしてやれ。」

さすがに2人の母親を殺して食べたことは言えない



林の奥には洞窟があり、そこから卑小鬼ゴブリン軟粘涅スライムがでてくる

トラフォードは安住の地を見つけたと思っていた

子供も問題なく大きくなっていった

ある日、成長した子供に何かを感じたトラフォードは、言った

「おい、お前、遅くなったが、お前に名前を贈ろう。今日からお前はトラフォードだ。」

そうだ、お前は新しいトラフォードだ

トラフォードはもう俺じゃない。俺は古いトラフォードだ。



洞窟から大量の怪物が発生し始めたのは、それからしばらくあとのことだった

卑小鬼ゴブリンが、それこそ山のように湧いて出た

そして、そいつらの2倍、3倍もあるような怪物が何匹も、何十匹もでてきた

そいつらは林を蹂躙し、トラフォードらの生活の痕跡はすべて消し飛んだ

習性で隠れ家と保存食を備蓄していた2人は助かった

しかし、父親は逃げるときに少なくない怪我を負ってしまった

トラフォードはただただ恐ろしく父親につかまって震えていた

しばらく続いたそれが終わると、洞窟からは何もでなくなった

父親は中を探ったが、怪我で体の自由が利かない状況では、探索を諦めざるを得なかった

かって林だったところは、荒れはてた

軟粘涅スライムが草を食いつくし、卑小鬼ゴブリンが小枝や木の皮や根を齧って、ぼろぼろにしてしまった

父親は卑小鬼ゴブリンを探して遠征したが、何も得られなかった

父親は地獄がすぐそこにある、ということをまたもや思い出した

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