第57話

「おいお前、名前は?」

「バスビー傭兵団K30」

「名前は。」

「バスビー傭兵団K30、これが名前よ。」

「おい、そんな名前はねえだろ、しょうがねえぁ。俺がつけてやる。アンだ、アン,フィールド。」

「次、お前、名前は?」

「バスビー傭兵団S34」

「またかよ。お前は、…トラ,フォード。」

「トラフォード。」

「はい、次のやつ。」


南から海を渡ってやって来た

避難民の護衛だ

避難民は自走する箱部屋に入っており、元の住処から船に乗り、ここまで運んできた

いつの時代にも理不尽に力を行使するやつらがいて、対価を得て、そいつらに対抗するのが傭兵の役目だ

依頼主の依頼は時には命に代えても遂行する

生まれた時から傭兵団に居る

最初はみんな名前があったらしい

数が増えて名前を付けるのが煩わしくなったのだろう

よく知らないが、戦争で滅茶苦茶になったらしい

そのときの傭兵団が、戦争が終わっても共同体として全員の生活を支えて来た

感謝はしている

が、俺は今回が最後の任務だ

片道切符だった

拠点に残るもの、この作戦に参加するもの

この作戦終了後はどうなるか決まっていない

とりあえず、最終到達目的地で、残っているものが集められている

出ていくあてのあるやつらは出て行った

「あんた、これからどうすんのさ。」

「T20か、」

「今日からアンと呼んでよ。」

「ああ、じゃあ、俺はトラフォードだ。」

「で、どうすんのさ。」

「帰る手段もない。帰る気もない。あそこはもう駄目だろう。残ったやつらには気の毒だが。」

「あたいもそう思う。で、どうすんのさ。」

「しばらくここで様子を見るさ。」

「あたいもそうするよ。」


「おーい、食料と水の配給だ、列を作れ、容器を準備しろ。」

さっきの男が大声で叫んでいる

「水と総合栄養食だ。一日分だ。大事にしろ。」

何かを箱から出している。巨大な貯水槽から蛇口が出ている

「容器がないものはこれを使え、無くすなよ。明日も持って来い。」

おや、これは木の器だ

「そのうち仕事をしてもらう。」


「ここはいったいどうなってんだ。」

水と食料を食べながら話す

「なんか地下都市らしいわよ。」

「地下に何かあるってことか。」

「避難民も全員入っていったわ。凄く広いんじゃない。」

「俺たち獣人は入れないって訳か。」

「仕方ないじゃない、あいつら、外に出ると死んじゃうらしいわよ。水と食い物があるだけましよ。」

「難儀なものだな。」


「今から、新拠点の探索隊を説明する。希望者はあとで詳細説明があるから残るように。」

食料配給の場所で新たな動きがあった

「俺は参加する。アンはどうする。」

「あたいも行くわ。ここに未来があるようには思えないわ。」


「俺はカンプという。新拠点を探すための捜索隊、その隊長だ。異論は認めん。」

「なんだ、あいつじゃないか。」

「そうね。あいつしかいないのかしら。」

それは、想定以上の激務だった

健脚に自信があるものも次々に体調不良で脱落する

弱った人間は最小限の物資だけで帰還する様に言われる

「カンプだけ天幕よ。どう思う。」

「一応、依頼主だからな。」

野宿に慣れているとは言え、砂漠の気候はきつい

やっと広い洞窟を見つけた

「苦労したかいがあったな。こいつはいいんじゃねえか。」

カンプがそう言うが、お前は苦労してないだろ



「そうだな。街道整備をしながら戻るか。」

箱部屋が通れそうな道を確保しながら帰還する

帰還すると、大分人数が減っている

「どうしたのかしら。」

「途中で死んだか、逃げたか。」

「あなたはどうするの。」

「逃げるって、どこにだ。どこにも逃げ場はない。今のところはな。」



しばらくは街道整備と、洞窟の調査が仕事だった

やがて、洞窟内の拡張が始まった

合わせて、洞窟周辺の開拓も行われている

「アン、外はどうなんだ。」

「やっと、井戸から水がでたわ。」

「良いじゃないか。」

「まあまあね、そっちは。」

「落盤でまた一人死んだ。仕方ない、事故だ。」

「なかなか厳しいわね。」

「支柱が足りないんだ。だが、もっと酷いときもあった。それを思うとましだ。」

「そうね、昔は酷かったわね。」

「知ってる?」

「何がだ。」

「今日来た新人が言ってたけど。食べられる人間が出現するらしいわよ。」

「詳しく。」

「なんか、そいつが言うには、荒野で出会ったらしいわ。人間の子供位で、喋らないし、凶暴、でも殺して食べたら、食べれないこともないらしいの。」

「ほんとか?共食いじゃないだろうな。」

「さあ。共食いでも良くってよ。お腹がふくれるのなら。」

「戦場じゃあ、しょっちゅうだったな。」



「いや、だから、この定着率、食料供給量。ちゃんと相関が取れてるだろう。」

「アガルタの人口増加を考えると、獣人への食糧供給は増やすことはできない。決定事項だ。」

「けっ、じゃあ、納期を伸ばせよ、労働力なしに期日までに準備を整えろってのは無理だぜ。」

「それをやるのがお前の仕事だ、カンプ。」

「ふざけやがって。」

ヴィーッ、ヴィーッ!

「警報が鳴ってるぞ。」

「ちょっと待ってろ。通信を切るな。」

カンプはしばらく待つ

男のもとには情報が流れてくる

「実験室にて検体が逃亡。逃亡時に電気火災発生。汚染の可能性あり、繰り返す汚染の可能性あり。各自気密服の着用。気密服の着用。」

「カンプ、緊急時手順2号だ。解ったか。」

「緊急時手順2号かよ。やべーな。判った。」


「おい集まれ、重要な話をする。いいか、耳をこっちに向けろ。よそ見すんなよ。」

「何だろな。」

「トラ集中よ。」

「手順2号だ、これは拠点、この地底都市アガルタを放棄して新拠点に移るかもしれない。そう考えて準備せよ。という命令だ。」

「どこだ、新拠点て。」

「まさか、ただの洞窟よ。」

「最初に言っとく、1号、実際の移動命令がでたら、大混乱だ。てめーらの食糧配給はもっとも優先度が下がる。」

「おいおい、そんなことを言うか。」

「何を考えてるのかしら、この男。」

「で、今ある水と食料を先に新拠点に移す。その仕事を受けたいやつはいるか。当然、ありとあらゆることが起きるかもしれない。それを解決できるだけの人間を募集する。」

「トラ、まさかやるとは言わないでよ。」

「いいや、アン、これはやるべし、だ。」

「危険すぎるわ。」

「おいお前、やる気があるのか。」

「やるぜ、最初に言っとく、俺は傭兵だ。食料を奪おうとする奴は俺を殺してから奪え、もっとも死ぬのは俺じゃない。」

「付き合うわ。あたいはアン、傭兵よ、このいかれた男はトラフォードよ。」

そのあと、何人かが手をあげた

「よ~し、地獄の悪魔に愛される奴等よ。指示を言うぞ。よく聞けよ。」

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