第56話
「あの日のことは覚えているよ。最初は地震かと思ったけど、世界樹を見て異常が起きているのが判った。」
スタンだったか、サンシーだったか、どっちでいいわな
「世界樹は無事だ、電力を配分して維持装置の点検を完了した。あと1000年は大丈夫だ。」
その場を後にして病院に行く
この医者はウェンブリーだったか
「この手紙は確かに預かった。でも、彼の存在は禁忌になっちゃってね。彼の子孫たちについては調査対象だから、何か知ってたら、教えてくれないかな。子孫たち同士で恋に落ちないようにしないと。」
しばらく考えてから、心当たりを話した
宴会は辞退した
かなりいい酒を貰ったが、飲む気がしない、大浴場に入ってから寝た
翌朝出発した
ボンボネーラに着くと、呼び止められる
「そこで停まれ、両手をあげて、降りてこい。」
「キン、ひさしぶりだな。」
「カンプじゃないか、ずいぶん久しぶりだな。」
林の周りには巨大な弓が設置された櫓がある
「あの弓は、あれか、」
「ああ、ミュルクヴィズからの弓だ。」
「…。」
「どうしたカンプ。なんだ。いったいどうした。…泣いているのか?何かあったのか。」
「キングストンさん。どういうことですか。」
「はい、カンプが泣き止まなかったのでコシュタガンケンの中の酒を飲ませました。落ち着くかと思って。」
「続けてください。」
「それで、報告書を見つけたので持ってきました。」
「カンプさんは落ち着きましたか。」
「すごい勢いで飲んで、ほんとに、浴びるほど。で、寝てます。」
報告書を少し読んで、次に最後から少し読んで、グディソンは言う
「カンプさんが目覚めたら、トラフォードさんのお葬式をしましょう。」
「?!」
次の日、ボンボネーラの外れに、穴が掘られ、ゴブリンの臓物等が投げ入れられる
「彼の遺体がありませんので、このまま埋めてください。」
グディソンが言い、何人かが穴を埋める
「これを目印にしてやってくんねえか。」
折れたショベルをカンプが差し出す
「特別ですよ、木が生えて来たら取り外します。」
グディソンが言って、キングストンがショベルを突き刺す
キングストン夫妻が去り、ルジキニが去り、赤ん坊を2人抱っこしたイドゥナが去ろうとすると、カンプが航空眼鏡を渡してくる
「これは、あれかニャ、あいつの。」
「そうだ。取っとけ。」
「ありがとニャ。」
イドゥナが涙目で返事する
「俺は今まで、嬉しいときも、楽しいときも、悲しいときも、普通のときも飲んでいた。」
秘蔵の酒を飲む
「そんな俺があの日以来、全く飲む気がおきなかった。」
とっておきの酒を飲む
「だが、ようやく飲む気力が湧いて来たぜ。」
「カンプ。」「どうしたビセンテ。」
「少し話がある。」
工房に入るのは久しぶりだった
ヴィラがいた
「お久しぶりです。カンプ様」
「ああ、久しぶりだな。」
「お前はこれからどうする。」
「そうだな。どうするかな。アガルタにでも顔を出してみっか。」
「そうだな。それもいいかもな。」
「何か話があるのか。」
「この子を見てくれ。」
「ヴィラの子だ。」
「可愛い子じゃないか。」
「まあ、そうだ。ちょっと全身を見てくれ。」
「ん、なんだ。どうした。」
「いいか、よく見てくれ、注意して全身を見てくれ。」
「おいおい、いったいどういうこった、説明してくれ。」
「自分の目で見てくれ。」
「俺もよく見たが信じられないんだ。」
「ん、目が2つ。鼻が1つ、鼻の穴が2つ。口が1つ。」
「顔だけじゃなくて全身を見てくれ。」
「ん、ん、んんんん。」
「気づいたか。」
「これはどういうこった。」
「わからん。」
「じゃあ、もしかして。」
「ああ、そうだ。イドゥナの双子もそうだ。」
「そうなのか。」
「ああ。」
「このことは誰が知っている。」
「ここに居るものと、イドゥナ、ルジキニ、そしてキングストン夫婦だ。赤ん坊の世話を手伝ってるからな。」
「いいか、ミュルクヴィズに行って詳細を聞いてくる。あいつらは何か知ってるはずだ。」
「グディソンに言った方が良いと思うか。」
「重要事項だからな。知らせるべきだな。」
「早速行ってくる。」
「ああ、俺も準備する。」
翌日、装甲車Ⅱは出発した
「おいウェンブリー、話がある。重要な話だ。」
ミュルクヴィズに着くなり、まっすぐ病院に行ったカンプは早速切り出した
「おまえ、このことを知ってたな。これだからおめーらは嫌われるんだぞ。排他主義の秘密主義者め。」
「カンプ君も気づいたかい。こっちでも騒ぎというほどでもないけど驚きをもって受け入れられたよ。」
「なぜだ。」
「そもそも、我々は異種族と婚姻関係を結んだことはなかった。というか子を成さなかった。今回は初めての事例だし、子供ができたのは彼との子種を得たものだけだ。」
「他の獣人の子はできなかった。というわけか。」
「残念ながらそうだ。」
「ちょっとこの目で見てみたい。」
ウェンブリーが連れて行った先には赤ん坊とマクシミールがいた
「この子がそうか。マクシミールの子か?」
「私の子は他の人が養育しているわ。これはウェンブリー先生の子よ。」
「良く見せてくれ。裸に剥いてもいいか。」
「あなたがそんな趣味だとは思わなかったわ。」
「こんな状況で笑えねえ冗談はよせ。親友の子に何をするっていうんだ。」
カンプは赤ん坊を裸にして、隅々まで検査して言った
「同じだ、あいつの、獣人の子らと一緒だ。」
「あら、やっぱり複数なのね。」
「そうか、素晴らしい発見だ。歴史的快挙だ。」
「先生よ、ふざけるのは止めてくれ。これからどうしたらいいんだ。」
「私、思うんだけど。毎年、毎年じゃなくてもいいけど。いろんな子をここに連れてくるってのはどう。私たちが行くのはいろいろとあれだし。来てもらえると嬉しいわ。竜人の子や、普通の獣人の子、そして彼の子達、もちろんミュルクヴィズの普通の子も、一緒に遊んで学んだりしたらいいんじゃない。子供のときの経験は貴重よ。」
「あいつのことも教えるのか。」
「そうしないとその子達同士で結婚したらまずいじゃない。」
「…ひとつ教えてくれ、どうして奴は女にモテてたんだ。」
「そうねえ、私たち、同じ顔じゃない。彼って、なんか珍種というか、珍獣というか、珍品というか。」
「とりあえず、珍にこだわりがあるのは判ったぜ。…やつには言ってねえよな?」
「あら、そんなこと言えるわけないじゃない。」
「珍品か、やつは自分がモテる男だと思い込んでたからな…。」
グディソンは報告書を読みながら思い出す
彼と初めて会った時のことを
「そうですか、ずっと徒歩で来たわけですか。遠かったでしょう。」
彼は、素手でゴブリンを倒しながら、何もない荒野を彷徨い、ボンボネーラにたどり着いたという
あまりの非日常的な世界の影響からか、まだ人間性が戻ってなかったような状況だった。記憶にも混乱があるように思える
素手で2匹を相手にするのは、ヴィカレージが鍛えてる連中並みじゃないかしら
「旅に出る前は、どうでした。どのような環境でした。」
「旅に出る前?」
「そう、どこからかを出発した訳でしょう。」
「そうするしかなかった、そうでなければ死んでいた。」
同じ言葉ばかりを繰り返す
話が進まなかった
とりあえず、覚えている一番古い記憶から話してもらった
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