第55話

トラフォードさんが、時間稼ぎをしている

なにか状況を打開せねば

あ、発声装置、壊された

トラフォードさん

なんてことだ

真っ二つじゃないか、もう助からないかも

何とかしないと

何とかしないと

何とかしないと

「はああん、あいつだったのか?実は3回とも全部?まさかな。」

「ほっとけ。悪あがきだ。」

ん、ん、ん

気のせいか、トラフォードさんの上半身が動いている

目の錯覚か?

いや、たしかに左腕が動いている

何かするつもりだ


「あんたがハムデンか。」

「何だお前、黙っとけ。」

「やめろ。」

「3度も死んだはずなのに、死にぞこないめ。」

「残念だったな。不死身のハムデン様さ。」

落ち着け、左腕をよく見るんだ

「…だが、おまえの負けだあああぁー。」

大きな声で、鍵の外れる音をごまかす

おっと、こいつは騙されないな

ガジャン。

いや、騙されたのか

どっちでもいい

竜人の鱗を舐めるな

「簡単に切られて堪るか。」

トラフォードさん、ご武運を


背骨を切られて、足で腹を踏みにじられたようだ

止めとばかりに上半身が蹴られた先にそれがある

まさが、左腕が動いてくれるとは

頭痛がひどいな

耳鳴りで良く聞こえない

あと少しだ

「…だが、おまえの負けだあああぁー。」

鍵を外して檻の中に入る

操作、操作と

「逃がすと思うか。」

ハムデンが入ってきたのだろう

世界が激しく揺れているような気がする

おかしいな。操作したはずなのになんでだろう

あぅ、鍵だ

鍵を閉めないといけない

よく解らないが、蹴られたり、手でつかんで叩きつけられたりしているようだ

おっ、扉の鍵だ

左手の指を動かして鍵をかける

「ああーっ、なにするんだ、てっめめー。」

あと少しだ

ハムデンは唐竹割りでもするようだ

自分を手でつかんで小机に載せる

やった。天の助けか、天祐だ



尻尾を剣に巻き付けて、改造獣人1号と対峙している

力勝負だと負けてしまう

くっ、これまでか

「ブーン。」

音がして檻が下に下がっていく

改造獣人が反応した

「?」

一瞬の隙をついて、剣をもぎ取る

体当たりで相手を押し倒す

剣を手に取り、立ち上がった相手とにらみ合う

急がなければ

やつの手を切り裂く、左手を切り落とす

逃げる相手の背中を切り裂く

階段から船底へ奴は逃げた

逃げ足は速い

扉を閉めて、手動で鍵をかける

「映像は、トラフォードさんは?」

檻の映像で探すが、ハムデンしか見えない

「隙間から落ちたのか。」

手動でセントーラス号を操作し、パブロペトリへ進路を向ける

「高度上昇。トラフォードさん、敵は討ちます。」



その日のことをカンプはよく思い出せない

親友だと思ってた男に裏切られたような気がしたのと

大量の報告書、手紙と託された思い

整理がつかない

セントーラス号は帰ってきた

竜人が何人も死んだ

生き残ったのはレナーレ艦長だけだった

親友も死んだらしい

凍った敵は何もしゃべらなかった

死の詳細は不明だ

ハムデンらしき死体はおぞましいものだった

もう一人いたはずだが、帰還の混乱で見失った

檻から死体を取り外して、それから着陸だったため、気を取られてしまった

あと、卑小鬼ゴブリンが生き残っていた分を殺処分するため

混乱の最中に逃亡したものと思われる

怒りをぶつけられるものは何もなかった

後始末と親友の手紙、パブロペトリ分が完了すると、カンプはミュルクヴィズへ向けて出発した

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