第53話

まっすぐに、地図上の地点へ行く

セントーラス号は快適だ

いや、車いすが快適なのか

それとも神経が感じないのが快適なのか

「よお、どうだい、故郷へ凱旋するってのは。」

「そんないいもんじゃない。」

「いい思い出ぐらいはあるだろう。」

「父との思い出ならある。」

「まあ、いろいろあるわな。」

その口調に何かを感じたのだろうか

カンプの口は閉じる

「そろそろこの辺ですね。」

「確かに木々がある。」

「ああ、これが洞穴迷宮ダンジョンです。人も怪物も見当たりません。」


船を林の外に降ろして調査隊がダンジョンに入ることになった

「私が行きましょう。」

キャロウさん

「俺も行くぜ。」

カンプ

「自分も行きます。」

あと数人が洞窟に入る

入り口近くの地面に3つの石が並べてある

なんだったかな

思い出せない

「ふーん、まあまあだな。」

「なにがまあまあか判りませんが。普通の洞穴迷宮ダンジョンのような気がします。」

「見事に何もいねーがな。」

「おいトラ、調査は俺らに任せて、お前は休んでいてもいいんだぞ。」

「いや、働いているのは機械人形メタルゴーレムだし、平気だ。先へ進もう。」

特に何もなく、洞穴迷宮深層部ダンジョンコアへ至る

途中にあったのは大型怪物の白骨死体が、数体だけだった

一旦、セントーラス号へ引き上げる


「…そうですか、状況は判りました。」

レナーレさんが続ける

「せっかくだから、トラフォードさんに今後の計画を説明してもらいましょう。」

「それでは卑小鬼ゴブリン植林作戦について説明します。」



「トラフォード、やったニャ、今日は卑小鬼ゴブリンの頭が当選したニャ。」

「ああ、配給制度はなんとか機能しているけど、頭か。」

「贅沢言わニャい。さ、頭を割って、脳みそを赤ちゃんにあげるニャ。」

「ああ、しかし、自分らは頑張りすぎたんじゃないか。」

「4人ぐらい少ないほうニャ。キングストンとこは6人ニャ。」

「しかし、昔だと脳みそは危なくて食わなかったのにな。」

「豊かな時代の話は終わったことニャ。前を見て生きるニャ。」


ん、最近は夢を見ることが多くなったな

いや、寝ている時間が増えているような気がする

機械人形メタルゴーレム機械人形メタルゴーレム改の2台を投入して作業しているから、贅沢は言えない

やることなくて退屈だ

ここしばらく、兜と、簡易型の発声装置だけで過ごしている

竜人たちは本当によくやってくれてる



「ねえ、子供たちの将来は何を目指してほしい。」

「えっ、何を言っている。それは本人達に決めさせるべきだ。」

「私に似たら時間はたっぷりあるけど。あなたに似たら人生短いわ。」

「リュイスほど長生きできなくても、短くても良い人生はあるはずだ。」

「あと、パパと結婚したいと言っても私は許すわ。あなた、長生きして重婚してね。」

「…。」


えぅ、いやに現実感のある夢だった

悪寒がした

ひさびさに狂気を感じたな

だいぶ工事が進んだ

蒙古死虫モンゴリアンデスワームの回収容器に肥料を投入するための直通路を掘り終えた

洞穴迷宮深層部ダンジョンコアの解析もかなりすすんだ

卑小鬼ゴブリンの試験製造に成功したらしい

あと少しだ



工房の天幕を除く、何か紙を必死に読んでいる子供がいる

「どう思う、トラフォード。」

「どう思うと言われても。」

「あの子は勉強ばかりしているのよ。」

誰だったかな、あぅ、ビセンテさんとヴィラさんだ

「君から何か助言をもらえないかな。赤の他人でもないわけだし。」

えっ、ビセンテさん、いまさらそんなことを言われても…



「おいトラ、見つかったぞ、3体目の機械人形メタルゴーレムだ。喜べ。」

「ああ。カンプか。」

「しっかりしろ。聞こえてるか。」

「助かった。これで実行できるな」

「肥料運搬の自動運転を仕込むから、開始まであと少しだ。待ってろ。」



カンプが酒をあおっている

「カンプ、…。」

「…なんだ。」

「ずっと聞きたかったことがある。」

「ああ、どうした。」

「…賭博酒場の夜のことだ。」

「…聞くな。」

「…。」



ふっ、また夢か

「トラフォード、聞こえているか。」

「ああ、よく聞こえる。」

卑小鬼ゴブリンが出始めたぞ。成功だ。」

「よかった。次の段階に移ろう。」

「なに、聞いてないぞ。次の段階だと。」

「ああ、言ってないからな。」

「みんなに説明する。」



「君に言っておくことがある。」

「ウェンブリー先生、何でしょう。」

「実は、君が生きていることが不思議だ。」

「自分もそう思います。」

「いやそうじゃない。」

「えっ。」

「君の肺と心臓が動いている理由が良く分からない。」

「そうなんですか。」

「ああ、いろいろ調べたが、心臓はともかく、呼吸ができている理由が理解できない。」

「それは、いったい。」

「もしかしたら、剛毛鬼トロールの左腕が作用してるからかもしれない。」

「そうですか。」

「ただ、今後もその状態が続くかどうかも解らない。」

「…。」

「君が望めば、寝台に固定して、補助具を使って延命することも可能だ。もちろん、夜のお薬を飲むことも可能だ。いや、是非そうしてほしい。」

「お断りします、感謝しています。しかし、それは、生きているという状態じゃない気がします。」

「食欲、性欲、睡眠欲、すべて満たされるよ。君は与えられた状況に満足すべきだ。」

「おっしゃる通りです。でも、自分の我儘をとおさせてください。」

「…。」



「…トラフォード君。本気かね。」

「本気です。最後の望みです。」

「レナーレよ、どうかホーソンにお願いしてくんねえか。」

「しかし、…いや解った。」



白い光だ

「あなたは誰ですか?」

「学習したのね。」

「そりゃそうですよ。」

「急ぎ過ぎなのは学習してないわね。」

「認めます。」

「どう、私と一緒に、」

「お断りします。」

「あまり良い結果にはならないわよ。」

「そうですか。未来が判るのですか。」

「それは、…まだ起きていないわ。」

「このままだと起きるわけですね。」

「あなたにはもっと忍耐力が必要よ。」

「分かってますが、えっと、一緒って?」

白い光は急に消えた。



「トラよっ、トラ、トラフォード。」

「ん、どうした、カンプ。」

「どうしたじゃねえよ。何かわりーのか。」

「いや、ちょっと考え事をしていた。」

「そうか。」

「もう一度言わせてください。卑小鬼ゴブリンが地上に拡がることで、その死体に草や木が生えます。今のままでもいいんですが、卑小鬼ゴブリンをこの船に大量に格納し、さらに広い範囲にばら撒くことをしたいんです。」

いやな予感もするけど、もう止められない

やるしかない

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