第51話

何事もなく、そいつは通り過ぎる

「機能最小で動かすぞ、できる限り離れて出口に向かえ。」

まわりの卑小鬼ゴブリンに紛れて、外へ、出口へと急ぐ

しばらくすると、カンプの声が小さく響く

「こりゃでかいな。」

「何でしょう、二角鬼ですか。」

「やっぱり皇鬼オーガだろ。」

洞窟の出口を見ていると、少ししてそいつが出て来た

洞窟から出ると、背伸びする

確かにでかい

どうだろう、剛毛鬼トロールの2倍ぐらいあるかもしれない

そいつは両手にこん棒を一本ずつもって近くの逆茂木を叩き壊す

改造獣人からの丸太が次々と飛んでくる

2本のこん棒が丸太を、小枝でもあるかのようにはたき落とす

「おいおい、信じられねえもんを観ちまった。」

3人組も様子を伺っているようだ

しばらくその状態が続く

「こりゃあ、形勢逆転もありかな。」

膠着状況が終わったのは丸太を投げつくしたのと、豚鬼オーク剛毛鬼トロール、たまにいる単眼角鬼サイクロプスが包囲網から抜け出してきたからだ

皇鬼オーガは近くのもの見境なく破壊し始める

3人組以外の改造獣人たちでは単眼角鬼サイクロプスに太刀打ちできないようだ

3人組は指示をだしている

改造獣人は守備の陣形を整えて、持久戦の構えだ

3人組は皇鬼オーガをやるようだ

「おい、機械人形メタルゴーレム改はどこまで来た。」

「もう出口の側で待機しています。いつでもいいですよ。でも、ぎりぎりまで様子を観ませんか。」

「確かに、皇鬼オーガがどうなるか気になる。」

皇鬼オーガとの戦闘を見て、隙を見て脱出ですか。」

皇鬼オーガが改造獣人を一掃してくれませんかね。」

キャロウさんがみんなの希望を口にする

改造獣人側は一気に劣勢になる

3人組は形勢を挽回するために、皇鬼オーガの撃退に向かう

皇鬼オーガのこん棒を1号と2号が受けて、3号が攻撃している

ときたま剣撃が光っている

電撃剣で皇鬼オーガに傷を付けている

「これは、時間は必要だが、皇鬼オーガを倒すかもしれねえな。」

「仕方がないですね。」

「この隙に機械人形メタルゴーレム改を回収するか。合図をしたら、走ってこっちに向かわせろ。5、4、3、2、1、行け!」

兜から見える視界は松明で照らされた広場だ

走る

広場に出る

死体や丸太を避ける

「やべえ、避けろ、4時の方向だ。」

カンプの声に機械人形メタルゴーレム改は体を丸めて転がるが、攻撃を受けたようだ、視界が激しく揺れて消える

「カンプ、操作を代わってくれ。」

返事も聞かず、飛び出す

機械人形メタルゴーレム改は投げられた剣に当たったようだ

3号が機械人形メタルゴーレム改に迫っている

皇鬼オーガには1号と2号が対戦中だ

柵を飛び越え、先に剣を拾う

3号の体は単眼角鬼サイクロプスだ、目の前に立つと圧迫感がある

「おとなしくしろ、そいつを渡せ。」

「渡したらどうする。」

時間をかせぐ、カンプがやってくれるだろう

「お前に言う必要はない。」

「その体は調子いいか。」

様子を伺う

引き延ばして、隙を突くんだ

「ああ、お前もこうなりたいか。」

「よくハムデンは生きてたな。」

会話をつづけるんだ

「何っ、お前、そうか、その腕は剛毛鬼トロールの腕だな。」

あと少しだ

「腹を刺したのにな、頭にするべきだった。」

「…てめえ。殺す。」

「良いのかハムデンがやられるぞ。」

そいつは、後ろを振り向いた

皇鬼オーガは近くに迫っており、1号と2号が苦戦している

ハムデンの口に自分が投擲した剣が突き刺さる

3号はこっちを見る

投げ終わった後の隙に3号の右腕が飛んでくる

「ビリリッ。」

久しぶりの気は相手に伝わっただろうか、自分の脳にも伝わったようだ

意識が消え去る



「畜生、トラのやろう。起動しろ。起動しろ。起動しろ。来たっ。」

現場を見ると、トラフォードと改造獣人が対峙している

すぐ側では皇鬼オーガと2体の改造獣人が戦っている

トラフォードが隙をついて投げた剣が皇鬼オーガと戦っていた改造獣人に刺さったようだ

すくさまトラフォードと別の改造獣人が殴り合う

が、1発で動きが止まった

機械人形メタルゴーレム改を立ち上がらせる

意識を失っているトラフォードを担ぐ

早足でこっちに向かわせる

ちらっと見ると、皇鬼オーガが暴れている

「巻き込まれる前に逃げるぞ。」


意識が戻ると白い光だった

「マッシャか?」

呼びかけるが違うようだ

「トラフォード。」

そいつは鳥人だろうか、しかし、自分よりもかなり痩せていて、羽は羽民ハーピーのような大きなものだ

たぶん、飛べるのだろう

「そう…だが。だれだ。」

「あなたは、よくやりました。もっとも、もう少し待っていればさらに良かったとは思いますが。あなたには忍耐が必要です。急ぎ過ぎです。」

「よく言われる。…そうか。自分は、…死んだのか。」

「そうですね。死を望みますか。あなたは多くのことを成し遂げました。ここで死んでも、だれもあなたを責めないでしょう。」

「…いや、違う。そんなんじゃない。死を望んではいないし、何かを成し遂げようとしたわけじゃない。ただ、やり残したことがある。」

「これから先、死ぬよりも大変なことが待っていますよ。それでも、死を望みませんか。」

「…。」

「悪いことは言いません。私と一緒に来ませんか。」

「それは死ぬのか。」

「今までの生とは異なります。」

「また、今度でいいか。」

「同意はしませんが、同情します。いっしょに逝きましょう。」

見かけは良い人っぽいけど、懐かしい感じがするし

でも言ってることが、あれだな

「あーっ、えーと、いや、かな。」

「そうですか。残念です。…それでは。」

いったい、だれだろう



「どうかな、先生。」

カンプの声だ、しかし、変だな

何も見えないし、声が出ない

それに、なんか、動けないぞ

「そんなに外傷はないんですが、どうしてでしょうね。」

おい、動け、動け、動け、動け、動け、声よ、でろ

なんでだ

聞こえている

聞こえているぞ

「ここでは、これ以上できることはないです。ミュルクヴィズに行かれてはどうですか。」

えぅ、あそこは、なんとなくだが、行きたくない

いやだ

いやだ

いやだ

いやだ

いやだ

いやだ

「そうか、ここじゃ手の打ちようがないか。済まねえけど、船で送ってくれねえか。」

そんなに重症なのか

どういうことだ



「なあ、トラ、独り言だけどよ。聞いてくれよ。」

聞いてるぞ、カンプ

「倒れたおめーを機械人形メタルゴーレム改に運ばせて船に乗ってな。」

ふむふむ、それで

「意識の戻らねえお前をパブロペトリで診てもらってたんだ。」

そうなのか

「とりあえず、ミュルクヴィズでも診てもらうから諦めんな。」

そうか、大丈夫だ

でも、ちょっとあれだな

「ハムデンはなあ。おめーの投げた剣が顔に刺さって、改造獣人1号がハムデンを連れて逃げたとこまでしかわかってねえ。」

そうか、殺ったのか、な?

「おめーと相打ちになったやつは、皇鬼オーガにやられた。皇鬼オーガは目に見えるもの、動くものをすべて破壊しようとする。今もどこかで暴れてるんじゃねーか。」

とんでもないやつだな

「残った改造獣人も逃げるか殺られるかでハムデンは壊滅状態だな。まだ大型怪物がうろうろしている。」

なんてことだ

「それでな、洞穴迷宮ダンジョンからは何もでてこねえみたいだ。」

うっ、やっちまったな

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