第50話

「これからどうします。」

「どこか安全なところまで歩き続けろ。」

「それから。」

「隠れて、充電完了まで動くな。」

「その時が来たら救出地点まで走る。」

実に簡単な作戦とは言えないような作戦だった

半日歩いたところで敵が1人になった

蒙古死虫モンゴリアンデスワームに食われたのだ

もう半日後、2人目も同じ運命を辿った

しかし、歩き続けなければ、こっちも同じ運命を辿ってしまう

2日目、ダンジョン深層部と思われるとことへ到着する

この穴の先は筒となって、容器に落ちるようになっている

上から見ると、その容器は入口に二本の筒が並んでおり、間に巻き込むように回転している

筒はでこぼこした突起が付いており巻き込まれたら最後、ばらばらになる未来しか想像できない

絶望的だ

「どうする。」

「あのう、蒙古死虫モンゴリアンデスワームが落ちたら、そのすぐ後に虫の上に着地する。ってのはどうですか。」

「後ろからのやつは躱せないぞ、隙間がない。」

「他の虫は来ないですかね。」

よくよく画像を見ると、容器に落ちる筒はいくつかあった。先端が映っている

「運よく来ることを祈ろう。ダメだったら虫に食われる前に飛べ。」

待つほどもなく、後ろから来た

「飛ぶしかねえな。」

「もう一匹来てます。」

映像を見ていた誰かが気付いた。

二本の筒に潰されながら巻き込まれる虫

飛ぶ

虫に掴まるが、上からもう一匹が来る

口を避けて、容器と虫に手足をかけながら這い上がる

容器の端部に手をひっかける

助かった

活動できる状態を確認し、容器上端から落下する

着地に成功する

「トラ、眠いだろうがセントーラス号の中で寝てくれ、起きたら救出作戦だろう。」

お言葉に甘えて、すぐに眠りにつく


「おい、起きろトラ。」

「あぅ、ああ、どうした。」

どうなっている?

寝起きで頭がまわらない


「俺たちの作戦はうまくいったようだ。統合管制室へ行くぞ。」

階段を上って部屋に入る

そこの画面に、いろいろな映像が映し出されている

「判ったことを言うぞ、夜になってダンジョン出口上空まで来た。そしたら、大型怪物が多数発生して、奴らは大混乱だ。」

画像を見ると剛毛鬼トロール単眼角鬼サイクロプスが多数出現している

が、対応している獣人や改造獣人がかなりいい勝負をしている

「確かに大混乱しているが、互角に近い情勢ようだ。」

「おい、あの映像を観ろ。」

そこは、3体の改造獣人が、統率された動きで敵を倒していく

剛毛鬼トロール単眼角鬼サイクロプスものともしない

「こいつら強いな。」

「こんなやつらがいるのか。」

「上からだと判り難いな。」

「機械合成で描画します。」

竜人の一人が手元を動かして、いろいろしている

「これを、改造獣人1号とします。」

大型の怪物の姿が映る

毛と体格で剛毛鬼トロールの胴体だとわかる

剣を持っている

「2号です。」

「なんだこいつは。」

異形に声が上がる

そいつは、手足が3本、頭は2個、胴体は2個の胴体が横にくっついた形で、胴の継ぎ目から手が真ん前に突き出ている

頭の一個は隣の胴体からの手が肩越しに伸びて、その手がめり込んだ形だった

「こいつがハムデンだ。片手、片足の剛毛鬼トロール半身が、単眼角鬼サイクロプスに寄生している。奴は生きてる!」

無言の中、次の言葉が続く

「3号です。」

それは剛毛鬼トロールにしては筋肉質で毛が少ない改造獣人がいる

「こいつは単眼角鬼サイクロプスの体だぞ。どうやったんだ。」

「これは、頭と首と胴体を繋げたんじゃないか。」

「やり過ぎだろ、こいつら。」

まずいな

「2号と3号は剣を持っている。おそらく電撃剣を使える。機械人形メタルゴーレム改が危ない。」

機械人形メタルゴーレム改はどうなってる?」

カンプの声が飛ぶ

「起動します。」

竜人の声が応える

「おめーが寝落ちした後、安全そうなところへ移動させたんだ。」

「何か動いているぞ。」

「立体出力機だが細胞じゃねえな。金属、武器を作っている。」

「ちょっと見れるか。」

竜人が操作して移動して近くで見る

「こりゃ、こん棒だな、しかもかなりでかい。」

豚鬼オークぐらいか。」

「そんな武器を使う怪物かよ。」

機械人形メタルゴーレム改を逃がした方が良くないか。」

「じっとしてたら見逃してくれないだろうか。」

「そりゃ、楽観的過ぎるだろ。」

「自分を降ろしてくれ、なんとしても機械人形メタルゴーレム改を回収する。」

その場が静まり返る

沈黙を破ったのはレナーレの一言だった

「危険すぎる。」

「レナーレさん、今、私たちの切り札は機械人形メタルゴーレム改だけです。これ以外に対抗できる手段はありません。この機会を見逃すことはできないです。」

「レナーレ、俺も行く、地上に降ろしてくれ。」

カンプの声だ

「少し離れたところに降ろします。危険行動は止めてください。生きて戻ってください。」「おう。」

「判りました。」

準備してると話しかけられる

「トラ、言ってなかったことがある。」

「何だカンプ。」

「トラフォード、ずっと思ってたんだが、良い名前だ。」

「ああ、自分もそう思う。」

「もう一つある。」

「ああ」

「俺を背負って移動しろ!」

「…邪魔する気ですか。」


自分の背中に背負子を縛り付ける

それにカンプを載せる

竜人によって、機械人形メタルゴーレム改はすでに動いている

出口を探しているが、まだ遠そうだ

卑小鬼ゴブリン豚鬼オークが多くいて、邪魔だ

「よし、これで体は固定できた。」

「船底に行きましょう。」

キャロウさんがついてきてくれる

準備ができた

カンプが携帯型の操作盤を準備する

「私も行きます。」

「キャロウさん、いいんですか。」

「私のせいでハムデンが生きている。それが許せないのです。」

自分だけではなかった

「ありがとうございます。」

「それと、これが無かったら船と連絡できないでしょう。」

背負っている遠隔操作装置を向ける

機械人形メタルゴーレム改からの映像が見える

「なにがあっても生きて帰りましょう。」

木立の中の広場だろう、開けた場所に降ろされる

ところどころに松明がある

卑小鬼ゴブリンがうろうろしている

「上空に居ます。ご無事で。」

竜人に声をかけられ、手をあげて応える

セントーラス号は上昇していく

木立の陰に向かって走る

あちこちに死体がある

「夜が明ける前には何とかしたいな。」

機械人形メタルゴーレム改はどうなっている。」

カンプが遠隔操作装置を通じて船に呼びかける

「まだ出口には到達していません。移動中です。」

「奴らはどうだ。」

「改造獣人は44号まで確認しました。大型怪物と交戦中です。卑小鬼ゴブリンは見逃されているようです。」

「ただの獣人はいるか。」

「ちょっと前まではいましたが、逃亡または戦死したようです。近くには居ません。」

「全体の戦況は。」

「ハムデン側が立て直しに成功しています。」

「良くねえな。」

「出口付近に行きましょう。」

「見つからねえように移動だ。」

「わかりました。」


出口前の広場に着いた

丸太の逆茂木で出口付近を囲っている

ほとんどの改造獣人が柵の外に居る

剛毛鬼トロールには、丸太のような槍を柵の外から投擲している

単眼角鬼サイクロプスが出てくると、三人組が柵の中に入って対応する

「完璧な戦術だな。」

「想像以上ですね。」

「ボンボネーラの判断が正しかったかもな。」

「…。」

卑小鬼ゴブリンは完全に無視されている

こっちに近づいてきたものをキャロウさんが槍で血祭りにあげる

「とりあえず、トラ、出口近くまで機械人形メタルゴーレム改を連れてこい。」

兜を起動する

出口に向かう卑小鬼ゴブリン豚鬼オーク、そこに紛れて出口を探す

活動下限まではまだまだあるが、放射光線は難しそうだ

おや、後方が騒がしい様子だ

「トラ、隠れる場所を探せ、早くしろ。」

洞窟の壁の窪みに機械人形メタルゴーレム改をめり込ませる

「ちょっとまて、いろいろと停止させる。」

映像も消える

「音だけ拾っている。今、視覚化する。」

脳内に聞こえていた音が消えて、黒い背景に、さまざまな色が同心円状に広がる

小さい円が大きな円になって、濃い色が薄くなって消えていく

それは濃い色で幾つもの同心円を生じさせながら洞窟の奥からやってきた

何かを振り回し、卑小鬼ゴブリンだろうか、犠牲になったものを飛び散らせながらこっちに向かってくる

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