第42話

食事はとてもおいしかった

奇妙なことに、食事を持ってきた人は誰も名前を教えてくれなかった

下の世話をする人も何も言わない無言だった

夜はかならず薬を飲んだ

朝の目覚めは悪かったが、夜が怖かった

あるときは、番号の書かれてある紙が朝になったら落ちていた

食事を持ってきた人が素早く片付けた

何の番号だ?


ウェンブリーがやってきた

「どうだい調子は、といっても自分ではわからないか。」

「そうですね。」

「ちょっと検査しようか。」

そのまま違う部屋に連れていかれ、何か大きな筒に入れられる

しばらくするとウェンブリーが言う

「よし、固定具を外そう。」

またも薬を飲まされた

器具が外され骨に響くものが消え去った

薬と、固定具の痕に何かを貼られる

「君の了解が得られれば、子種を保存させてほしい。」

「何か今更のような気がします。夜、何かしていましたよね。」

「あれは、希望者が多いから仕方なかったんだ。排卵する薬を飲んで一晩に2名までにした。もう終了した。」

「えつ、じゃあ、いったい何人。」

「僕にも守秘義務がある。君の子種は、今後の人工授精で希望者に使う。」

「お断りします、もう十分でしょ。」

「ただねえ、賭博酒場には君の名札が出てるらしいよ。」

「…。」

病院をでられるまで薬を飲み続けた

ようやくでられるときに、お腹の大きなリュイスがやってきた

「トラフォードお元気。」

「ああ、たぶん元気だ。そっちは。」

「検査、検査でいやになるわ。でも決めたの。」

「いったい何を。」

「生まれてひと段落着いたら男性器を取るわ。」

「…自分は、きっとここにはいられない。」

「良いのよ。たまに会いに来てね。」

「…。きっとここは天国だ。」

「そうね。わたしがそうしてあげるわ。」

荷物を受け取って病院の建物を出ようとすると、マクシミールがいた

「トラフォード、待ったわ。」

「…何か用か。」

「冷たくしないでよ。カンプから頼まれてるの。」

「どういうことだ。」

「リュイスはまだ病院を出られないから、あなたの面倒を見るように言われているの。」

「そうなのか。」

「手術の目的を果たしてないでしょう?さあ行くわよ。」

連れていかれた先はモリニューのダンジョン、その傍にある小屋だった

「ここはあれか。」

「知ってるの?リュイスの実験室よ。」

中に入ると機械人形がある

「あなた、間接的に機械人形をあやつったそうだけど、次から直接操るのよ。」

「?」


目の前に卑小鬼ゴブリンが迫る

手を握って繰り出す

それは顔面に当たり、たやすく顔にめり込む

両手で卑小鬼ゴブリンの体を支えて、遠くに放り投げる

それは岩壁を超えて、マクシミールの近くへ落下する

「やばい、自分に当てそうになった。」

マクシミールの隣には兜を被った自分がいる

兜と脳に埋め込まれた接続端子を介して機械人形を自分の体のごとく操っている

走る、目の前に豚鬼オークが迫る

指手をまっすぐにして、斜め上に突き出す

豚鬼オークの胸に突き刺さると心臓を破壊する

マクシミールから声が飛ぶ

「活動限界に気をつけてね。」

兜から目の上にまで覆われたものが左目の網膜に直接何かを表示しているらしい

赤い柱が活動量であって、短くなりすぎると最小限の動きしかできない

とりあえず、かなり上達したな

走って石壁にもどり、飛び上がる

着地の音に重量感がある

歩かせて小屋に入れようとすると苦情がでる

「ちょっと、きれいにしてから小屋に入れてね。」

マクシミールは厳しい

機械人形を綺麗に清掃していると、カンプがやって来た

「トラ、戻ったぞ。」

「カンプ、久しぶり、…じゃない、よくも騙したな。」

「おいおい、怒るな。おめーには貸しがあったじゃねえか。」

「貸し?」

「ああ、助けたろ。山賊から。」

そういえばそんなこともあったような

「まあ、これで水に流せるよな。マクシミールもありがとよ。」

「えぅ、ええ、いいのこれくらい。」

「おおそうだ、大事なことを忘れてた。」

「なんですか。」

「お前、あの電気のやつ、ビリビリするの無しな。」

「えっ、なんでそんな需要なことを。今ごろ言うんだ。」

「まだわかんねえけど、自分の技で脳を焼きたくないだろ。」

「敵は、どうするんですか。」

「機械人形に任せろや。」

なにか納得いかない


ボッビズで食事だ

「カーッ、ここのメシと酒は最高だ。」

「蝙蝠が名物だけど、羽民ハーピーの手羽先も美味しいのよ。」

「それではいただこう。」

キャロウさんも一緒だ。

「今、竜人さん達のために、いろいろと手直ししているのよ。」

マクシミールが説明する

「ほら、ここまで下半身が大きいと、通路とか椅子とかいろいろとね。」

「おめーが下半身というと変な意味にしか聞こえねえ。尻尾と言え。」

「まあ、これは立派な方が尊敬されるが、切られても命に別状ない。」

「おお、そうなのか。」

「立派なのがいいのは、やっぱり一緒よねえ。」

「何の話だ。」

「ただ、体重の移動というか、重心が変わるから慣れるのに大変だ。」

「冗談はさておき、観光も兼ねて、パブロペトリとミュルクヴィズ間は共同運行だなぁ。」

「おう、よろしく頼むぜ。」

「ああ、仲間も喜んでいる。」

「早く次の段階に行きたいですね。」

「まあ、車輪も完成してねえし、安定して俺らの手を離れてからだな。」


「快適だな。」

「快適だ」

「以前は、ゴロンゴロンだったのがゴロゴロゴロゴロぐらいになりました。」

「そうか、言われたら、そうかもな。」

護謨付き車輪が付いた軽銀製のコシュタガンケンを運転してボンボネーラに向かっている

キャロウさんとカンプと自分だ

全部の護謨付き車輪が完成していないが、先行してボンボネーラに報告するのだ

「カンプ、地図の複製はできたんですか。」

「ああ、道の悪いとことかを修正した地図を作ったぜ。俺の目は電子制御だから、そういうことは得意だ。大量に複製して、配って来た。」

「凄いですね。」

「おめーの育ったところだっけ、そのあたりも見当がついてるぜ。」

「そんな話もしましたっけ。」

「ああ、機械人形やゴブリン大量生産にはダンジョンが必須だからな。」

「なんですかその話は。」

「キャロウよ、聞いてくれよ。トラはゴブリンを地上に放ちたいらしい。」

「ほう、それはいったい何故に。」

「ゴブリンから草木が生えるだろ、そしたら、蝙蝠や羽民ハーピーが生きていける。そしたら人も生きていける。」

「なるほど、では、機械人形は?」

「どうもな、ダンジョンも肥料がねえと怪物を作れねえんだ。そのためには蒙古死虫モンゴリアンデスワームがダンジョンに戻る必要がある。」

「なるほど、機械人形にその蠕虫の路を整備させると。」

「ダンジョンが枯れちまったのは、そういった回収経路が閉じたりしたんじゃないかと。たぶん」

「そんな話でしたっけ。」

「まあ、色んな情報の寄せ集めからの推論だ。」

「トラフォードさん、さすがですな、只者ではないと思ってはいましたが。」

「やめてください。トラフォードでいいです。鱗が逆立っちゃいます。」

「キャロウさん、海です。どうです、こっちの海は。」

パブロペトリとは同じだろうか、海に着いた

「こんなに蝦蟇がいるとは思いませんでした。」

「まあ、あって困んねえし、取れるだけ取って行こうぜ。」

海沿いにも拠点があっていいかもしれない

ここはゼルズラから近かったような気がする

ボンボネーラについて、いろいろと説明する必要がある

誰から説明したらいいのだろうか

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