第40話

平地ゆえに雪は降ってない

ボンボネーラどうだろうか

「トラよぉ。」

「どうしたカンプ。」

「キンもめでてえことになりそうだし、おめーもどうだ。」

「どうって、どうなんだ。」

「そりゃあ、あれだ、イドゥナだ。」

「イドゥナか。」

あ~んが脳裏に浮かぶ

「客観的に見て美人だし、黙っているように言われたが、努力してるぞ。」

「えぇっ。」

「文字とか解らない言葉を教えてくれと頼まれて勉強をつきあってたんだ。」

「そうなのか。」

「おめーら獣人は個人差があるけど、イドゥナは平均的だしな。」

「ん、そうなのか、全く分からなかった。」

「おめーは個性的だけど、イドゥナは割と平均に近い。」

「平均に近いほうが良いのか。」

「おう、平均的な顔が美人と思われる。それが人間の感性だ。」

「そうなのか、なんか普通だな。」

「そうだな、ふつーだな。だがな、そのふつーーってのが貴重なんだ。」

「顔だけじゃねえな。性格も平均的なものから尖ったやつまで何種類もある。」

「そうなのか、性格もか。」

「ああ、これは持って生まれたもんで、意識すれば変えられるかもしれんが、大抵のもんは変えることをしない。」

「もって生まれたもの。」

「おめーはあれだな、能力はあるかもしれんが、集団の指導者って柄ではないな。」

「そうなのか。」

「ああ、そういうことは大昔から研究されていた。大企業はより大きくなるために、軍隊はより強くなるために。そういう観点から組織を形成する一人一人をどういった性格でどういった仕事に就けるのがいいか。」

「なるほど。」

「おめーはどこまで行っても一人で完結しそうだな。」

「カンプはどうだ。」

「こういったもんは自分自身についての考察はあてにならん。」

「じゃあ、好きな相手はいないのか。」

「酒だな。」

「人間限定だ。ミュルクヴィズとかにいないのか。」

「…言うな。」

カンプは黙り込んでしまった。


「エマーム、エマーム」

大声で叫ぶ

しばらくすると、バタバタと音がして、一匹の羽民ハーピーがやってくる

「ピーッ、ピーッ。」

「おおっ、元気だったか、お父さんでちゅよ~。」

「けっ、何言ってんだ、やること済まして早く出るぞ。」

相変わらずエマームはいい子だ

ゼルズラは順調に豊かになっているようだ

羽民ハーピーも蝙蝠も蝦蟇も、あとは草原で金色羊を飼えないだろうか

ミュルクヴィズの了解が取れたら、それで人を増やせるに違いない


寒さは残るが、キャロウさんから借りた防寒具はさすがだ

そんなことを考えているうちにボンボネーラに着いた

もう冬も終わりだ


「…そうですか、ゼルズラ近くに洞穴迷宮ダンジョンと。困りましたねえ。」

グディソンが渋い顔をする

「それも重要だが、新型コシュタガンケンが優先だろう。性能を向上させる護謨もミュルクヴィズに頼まなければならない。」

ビセンテが言う

「金色羊もそのあとだろう。山賊の脅威が無くなるまでは人を移住させるのは反対だ。」

ヴィカレージさんの意見も正論だ

「気温があがれば、竜人族の応援も考えられます。」

ちょっとだけ反論しとく

「ミュルクヴィズは人を出したくなさそうだし、応援はパブロペトリだけだろう。しかし、もう少し時間が必要だ。」

ヴィカレージさんの意見で報告会は終了した

天幕に戻ろうとするとビセンテに呼び止められた

「ちょっとこっちに来てくれ。」

工房に行くとヴィラがいる

「まだ内緒だが、ヴィラと結婚する予定だ。」

「あっ、おめでとうございます。」

「ヴィラは妊娠している。」

ヴィラを見ると恥ずかしそうにうなずく

「お腹の子は私たちの子だ。いいな。間違ってもお前の子ではない。」

凄い怖い顔で言われて、頷くしかなかった


「そいで、いつミュルクヴィズに行きもうぅす。」

ルジキニがやってきた

「いや、まだ少し前に帰って来たばかりだ。準備をしないと。キングストンはどうした。」

「あやつはふぬけになりもおううぅした。」

「いきなり大きな声を出さなくていいだろ、落ち着け。」

「おんなにかまけてばかりでごわーっす。」

「とりあえず、カンプと相談するから、それからだ。落ち着け。」

「もおおうっ、許さん。」

ルジキニは怒らすと怖いな


カンプの天幕へやって来た

「おう、なんだ。どうした。」

「ルジキニにせっつかれて。新型コシュタガンケンについてなんだが、どうする。」

「そうだな、大量の羽民ハーピーを連れて、パブロペトリに行く。」

「それから。」

「軽銀コシュタガンケンを動かすが、車輪は木製のままだな。」

「それからそれから。」

「肥料を積んで、そのままミュルクヴィズに行く。」

「ふむふむ。」

「護謨の車輪をミュルクヴィズに作ってもらう。あと、トラは手術を受けてもらう。」

「ほげっ。なんだそれは。」

「なに、大したことじゃない、機械人形を操るために必要なんだ。」

「カンプがやればいいだろ。」

「俺の脳みそは、改造しまくってるからな。さらぴんの脳みそがいいんだ。」

「ええっ。」

「しかし、コシュタガンケンの数に見合う大量の羽民ハーピーは準備できるのか。」

「…何台位ある?」

話をそらされた気がする

「初回製造だが、10台できているはずだ。」

「60匹が、」

「いや、90匹だ。9気筒だ。」

「まさか、1台に9匹の羽民ハーピーが要るのか?」

「そうだが、なにか。」

頭を抱えてしまう

「ちまちま作るのは面倒なんだ。ある程度たくさん作った方が効率が良いんだ。」

カンプはどや顔だ


キングストンに相談する

「…なるほど、それが上手くいけば、当面の問題はなくなるな。」

「そうだろ、お前も行くか。」

「いや、遠慮しとく、ミュルクヴィズに行きたがる男は大勢いる。地図をもって行くと良い。」

キングストンはそう言った


イドゥナに会いに行く、どうしてるかな

「イドゥナ、久しぶりだな。」

「トラフォード、元気してたかニャ。」

見ると体中に袋をぶらさげている

中身は卵だろう

そして、羽民ハーピーの幼鳥達に餌を与えている

「こっちは元気だ、なんか凄いことになっているな。」

羽民ハーピーの大量生産ニャ。」

「おおぅ、ありがとう。とっても助かる。」

「こらジキ、尻尾は餌じゃニャーよ。スト、餌をしっかり食べるニャ。」

「い、忙しそうだな。がんばってくれ。」

立ち去る間際に声がする

「こらフォー、そこにうんちするニャ。ベシッ。」

虐待だろうか、躾だろう、うん、きっとそうだ


「今回の隊商は先行投資です。大量の食糧ですが、これによって、多くのことがなされることを期待します。」

グディソンはやっぱりご機嫌ではなかった

まあ、仕方がない

今回はルジキニ、カンプ、自分とあと8名の野郎どもだ

ミュルクヴィズは男どもに大人気だ

そして、一番最初にミュルクヴィズにたどり着いた道を行く

そして、ミュルクヴィズからパブロペトリに直行する

軽銀試作車には3人が乗り込み、先導する

あとの4台に大量の食糧と水、そして羽民ハーピーの餌だ

問題がないことを祈る


数日後に海まで来た

ううぅ、蝦蟇がいる

「ルジキニ、どうする。」

「ここは見過ごせないでごわす。取れるだけ取りもおおおうぅす。」

気合が入りまくったルジキニは蝦蟇を殲滅する勢いで狩りまくった

「しかし、増えるもんだな。」

「蝦蟇の子もたくさんいましたね。」

「ああ、ここら辺の海も豊かになるかもなぁ」

「いいことでごわす。」

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