第34話

朝起きると、誰かの重みを感じる

「ふっ、あっ。あ……リュイス。」

「…え~と、ちゃんと順番は守りました。」

「順番?…リュイスさんですよね?」

「それじゃあ。また。」

彼か彼女は服を着ると去っていった

力なく起きると昨日起きた場所のようだ、下に降りて井戸から水を飲む

部屋に戻ると樽がいた

違うな、酒臭いイドゥナだ

「おい、起きろ、今日は出発だ。」

「むーっ、お風呂はいやニャ、でも麦酒は最高ニャ。」

カンプはどうしたんだ

荷物を装甲車に積もうとしたら、中にカンプがいた

「カンプ、どこに行ってた。昨日はどうなったんだ。」

「…聞くな。」

「おい、どちらかが御者をやってくれ。」

返答がない

しかたがない

機械人形メタルゴーレムを自動追尾にして、御者台に上る

コシュタガンケンを発車させる

途中で人に会う

「…サンシーさん」

「…。」

「サンシーさんですよね。」

「もう帰るのかね。また来たまえ。待っているよ。」

本当にサンシーさんだろうか?

違うような気がする


大森林と世界樹が霞んでいく

「あっ、しまった。また、世界樹を忘れてた。」

装甲車からは何の反応もない

道の穴ぼこを埋め終わった

御者台に乗ってコシュタガンケンを走らせる

「退屈だ。」

「…そうか、いいことだ。」

ようやくカンプが反応した

「そうか。」

「ああ、退屈なぐらいが平和でちょうどいい。」

「…ところで、洞穴迷宮ダンジョンについていろいろ解ったのか。」

「そうだな、機械人形メタルゴーレムの記録を調べて、かなり判ってきたが、できたらもっと実例が欲しい。」

「えっと、それはどういうことだ。」

「そうだな。アガルタとモリニュー以外の洞穴迷宮ダンジョンの記録が欲しい。」

「他の洞穴迷宮ダンジョンということはボンボネーラかハムデン。」

「んーっ。」

「ボンボネーラで機械人形メタルゴーレムは見つかってねえし。ハムデンは危険だな。」「そうか。」

どうしたものか


ミュルクヴィズを出発して3日目、イドゥナも通常に戻ったようだ

「麦酒は最高だったニャ。でも、お風呂はいまいち、おいしい麦酒を飲むためにお風呂を我慢したニャ。」

「つまり、風呂と麦酒を交互に楽しんだと。」

「そうだニャ。とっても偉いニャ。」

ん、何が偉いのかよく解らないが

「まあ、ボンボネーラの連中にもミュルクヴィズは最高ってこったな。俺は知ってたけどな。」

「キャロウさん達はどうなのかな。」

「キンに聞きゃな、ならんな。」

キングストンはキンか


6日目、ゼルズラで水と食料を調達する

蝦蟇の子を取って食べる

「これも美味いニャ。」

「蝙蝠も増えてるようだし、いいんじゃねえか。」

「あとは農業と人か。」

「アガルタから募集するか。」

「そんなことできるのか。」

「アガルタの獣人は増加傾向にあると思うぞ。それで増えた獣人がボンボネーラを作ったってのもある。」

ゼルズラを出発する

道もかなり良くなっているような気がする

5日目にボンボネーラに着いた


林の中に入っていき、荷物を降ろす、カンプの天幕に入りきらない

「しょうがねえな。残りは機械人形を使って、ビセンテの工房に持っていく。後は任せた。」

装甲車をコシュタガンケンの保管場へ、広くなっているし、何台もある

確かに増えたな

イドゥナに手伝ってもらい、羽民ハーピーを厩舎に連れていく

水と餌を与えて休憩しているといつのまにかイドゥナは居なくなっていた

たぶん昼寝しているに違いない

とりあえず、共同体ギルドに報告しないと


「よく無事でしたね、トラフォードさん。」

「グディソンさんの準備のおかげです。」

「特に大したことはしてないですよ。」

そこはアガルタにあるような屋敷だった

「ここはいつの間にできたんですか。」

「計画は昔からあったのですが、いろいろあって遅れてました。冬に間に合って良かったですよ。」

「冬ですか、ボンボネーラの冬はどうなんですか。」

「平地と違って結構寒くて毎回凍死者がでてました。今回はかなりの人数が泊まれるので、大丈夫でしょう。」

「寒そうですね。」

「食料の備蓄が重要なので、しばらくはそのあたりを手伝ってくれますか。」

「判りました。」

春までは、地道にがんばるか


「キングストン」

「おお、トラフォード、帰って来たか。」

「戻ったばかりだ、キャロウさん、お久しぶりです。」

キングストンの周りには大勢の竜人族の人たちだ

「ああ、世話になるよ。」

「いろいろと見てください。」

「ミュルクヴィズもボンボネーラも非常に興味深い。」

「俺はもう少ししたらパブロペトリに出発する。その前に話がある。」

「判った、今日の夕方でどうだ。」

「それで良い、できたらカンプも誘ってくれ。」


気を練る

目の前の豚鬼オークが迫ってくる

ジリビリジリビリ

その胸に突き立てられたショベルからは、光と音が発せられる

電撃を受けた豚鬼オークは動かなくなり、ゆっくりと倒れる

「おー、さすがだニャ。」

洞穴迷宮ダンジョンからあふれる卑小鬼ゴブリン豚鬼オークをただひたすら倒していく

「これニャら、剛毛鬼トロールも一撃ニャ。」

「いや、あいつら心臓が止まってもしばらくは動き続ける。」

「げっ、そうニャ。」

「自分が死んでることに気付いてないんじゃないか。まあ、時間がたてばやがて倒れる。」

「さすがだな、トラフォード。

近寄ってくる人がいる。

「ビセンテさん。」

「少し話がある。」

「イドゥナ、後は任せた。」

「任されたニャ。」

ビセンテとヴィラがいる

「よくぞここまで上達した。」

「お2人のおかげです。」

「さらに気を鍛錬し、鍛えることだ。私の言葉を忘れてないか。」

「大丈夫です。この技が気の本質ではないと。求めるものはその先にある。そうは言ってもそれが何かはまだわかりません。」

「今はそれで良い。そのうち解る、たぶんな。君が感じる気はそれの極一部にすぎん。」

「ありがとうございます。」

「ところで夕食の後に工房に来てくれるかな。洞穴迷宮ダンジョンの話を聞きたい。」「分かりました。カンプも一緒に?」

「もうカンプには話をしている。来てくれるそうだ。」

キングストンはパブロペトリに行ったし、ここしばらくイドゥナと一緒に狩りばかりしていた

カンプとビセンテと話すのも久しぶりだな


「そうか、機械人形メタルゴーレムの記録か。」

「そうだぜ、あいつらなかなかやるぜ。」

ビセンテとカンプが盛り上がっている

「その、実例が少ないですけど仮説はあるわけでしょう。」

ヴィラが言う

「まあ、だれかが洞穴迷宮ダンジョンを作った。洞穴迷宮ダンジョンは燐を回収して、怪物を生み出す。」

「怪物はいろいろと役に立つ。」

「そうだ、食料、医療、草木が生えて、環境改善と。」

「ただ、洞穴迷宮ダンジョンも進化していくわけだ。」

「進化?」

「たぶん、最初の内は卑小鬼ゴブリンだけとか。燐が豊富にあると豚鬼オーク剛毛鬼トロールと。」

「ふむふむ。」

「燐の回収は蛾人間モスマン蒙古死虫モンゴリアンデスワーム、蠕虫を産み付けて、蠕虫が洞穴迷宮ダンジョンに戻ってくる。」

「そいつらからは人面樹トレントが生まれて、共闘すると。」

「そのとおりだぜ、こいつをジョリジョリ説と呼ぼうぜ。」

カンプのとっておき、という酒を飲む

みんな盛り上がっているな

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