第27話

木立の間で気功を試みている

ようやく立つ許可が下りた

左腕を動かすことは禁じられている

肩と肘が自由に動かないように固定されている

右の手のひらに集中する

暖かい、それを掌全体、肘、肩、首と移動させる

次に左肩、接合面、何か引っかかりがあるような気がする

左肘、左の手のひら、移動も滑らかでなく、小さくなったような気がする

右の手のひらに戻す

汗が額ににじんでいる

「ピーッ。」

鳴き声で上を見ると羽民ハーピーだった

警戒されているようだ

「久しぶりだね。トラフォード。」

「モイシュさん。こんなところで何してるんですか。」

羽民ハーピーの卵を探しているんだよ。あいつら、そこかしこに産みっぱなしだから。新鮮だったら雛が生まれるよ。君もあっためるかい。暇だろ。」

「確かに暇ですけど、療養中です。」

「いいから、いいから、はい、これ。」

卵をもらった。少し歩く、歩きながら気を体に取り入れるように想像する

呼吸から取り入れ、足の裏から取り入れ、手のひらから取り入れる

「プラモールさん。」

「どうした。トラフォード。」

「これは、いったい何を。」

「蝙蝠を取りに来たんだよ。君も付き合うかい。」

しばらく歩くと蝙蝠の養殖場に来た

厩舎に入る

蝙蝠の出入り口があり、人が出入りする扉がある

「勝手にでて、食事はしているけど。それだと大きくなりにくいんだ。」

外の樽に餌が入っている

「これは大きそうだな。」

厩舎の中には木の枝、横棒、止まり木があり、鈴なりに蝙蝠がいた

簡単に大きそうなものを捕まえると、手早く頭をひねって息の根をとめる

皮袋に10匹程度を納めて外にでる

「今日は蝙蝠を要望されたんでね。暇だったら食べに来たらいい。余ってたらだすよ。」

「ありがとうございます。」

プラモールと別れて、洞穴迷宮ダンジョン出入り口に向かう

そこは、直接中が覗けないほど、隙間のないよう仕上げられた壁があった

頑丈そうな壁、出入り口近くには屋根もある

複数枚の上下に稼働する扉、狩場である広場手前にも扉がある

広場の柵は体の小さい卑小鬼ゴブリンだったらギリギリ通れそうだが、大物は通れそうもない

数か所あるひな壇は、弓兵や槍を投げれるように設置されている

しばらく見ないうちに、魔改造された戦場がそこにあった

「ヴィカレージさん。」

「おお、どうしたトラフォード。散歩か。」

「体力の回復を期待しての散歩です。」

「君はどう思う?」

「?」

「これだけ充実した設備なら、この前の2倍、いや3倍でも対応可能だと思うのだが。」

確かにそんな気がする

大盾や大槍、長槍、弓矢もかなり多い

周辺のあちこちに保管して使えるように準備してある

「確かにその通りだと思います。」

「私も問題ないと思うのだが、何か違和感がある。というか違う気がする。」

「どういうことですか?」

「判らない。ただの直観だ。」

「そうですか。」

「しかし、得てしてそういう直感の方が正解であることもある。」

特に言うこともない、というか言えなかった

「まあ、できることをするだけだ。準備して待つ。」

「ヴィカレージさんのような人がいることが頼もしいです。」

「腕が鈍って口が上手くなったようだな。」

「話が聞けて良かったです。それでは。」

「ああ、そのうち訓練がてら来てくれ。」

狩場を後にする


「どうですかあ、立派なもんですよねえ。」

グディソンが自画自賛だ。前はこんなものはなかったはずだが

ボンボネーラの広くはない平地、その隣の傾斜地が階段状になっていろいろな植物が植えられている

アガルタから持ってきた芋や根菜、ミュルクヴィズから持ってきた野菜

緑の間にぽつぽつと人がいて何かしている

「ちょっと窮屈そうです。」

「ん~っ、そういう見方もありますけど、繁栄していると思ってください。」

モノは言いようだな。

「ところで、君はゼルズラに何かしました?」

「えっ、報告はしましたよ。」

「もう一度、ここでお願いします。」

「パブロペトリで蝦蟇の卵を入手しました。食料として有用な怪物です。おそらく洞穴迷宮ダンジョン由来のもと思われます。これをゼルズラの湖に放ちました。沼地、湿地帯、そこで食料が手に入るとなると、ゼルズラを開拓することが可能です。」

「将来的に、その話は現実になると思います。」

「え?!」

「今すぐという話ではないですから、焦らなくてもいいですよ。少しずつ準備してください。」

散歩生活も慣れてきた

卵は肘の間に収めている

気の周し方も上達した

天幕の外で木から気をもらっているときビセンテとヴィラがやって来た

「ほう、ずいぶん上達したな。」

「見て判りますか?」

「私には見えないがな。」

…なんだそれは

「そろそろ腕がつながったろうと思ってな。」

「お願いします。」

横になって、腕を吊っていたものや固定していたものを外していく

「ヴィラ、頼む」

「はい、ビセンテ様」

ヴィラが左腕に掌をあてて様子を探っているようだ

温かい

「大丈夫だと思います。」

「そうだな。視たところ筋肉もそれほど落ちてなさそうだ。これからしばらくは簡単な動き、慣れたらすこしずつ負荷をかけていくことだ。無理して新しい腕を壊さないようにな。」

「ヴィラ、先に行っててくれ。」

「はい、ビセンテ様」

ヴィラが行くのを見送る

「まだ何かあるんですか。」

「ああ、君と同じ時に10人ぐらいは治療したからな。」

「そうですか、大変ですね。」

「君はヴィラと何かあったかね。」

「え?何のことですか?何かって、何もないですけど。」

「そうか、ちなみに今までに妻をめとったことは。」

「ここに来るまで女を見たことがありませんでした。」

「ここでイドゥナとかヴィラと付き合ったりとかは。」

「何もないです。ご飯をもらっただけです。」

下の世話は、含まれないだろう

「そうか、君は運がいいな。希少な精を持ち続けたおかげでこれほど回復が早いのだろう。女に使うにはもったいないからな。もっと気を鍛錬したらこんなこともできるぞ。」

ビセンテは左手の指を伸ばして、五本の指先を集める

「ふんっ。」

かすかな気合とともに指先に光と音

「バジバジッ!」

「これは、いったい、なにが。」

「気を極めればこんなこともできる。鍛錬したまえ。だが、見た目に惑わされるな。気の本質はこれではない。私が言ったことを忘れるな。」

立ち去るビセンテの背中から後光がさしているようだった


「ヒーッ、ヒーッ。」

誰かが死にかけている

そう思って飛び起きた

そこには割れた卵の殻とそこから孵った羽民ハーピーの雛らしきものがいた

どうしようか

そうだ食事処に行こう

「プラモールさん。」

「おう、羽民ハーピーの雛じゃねえか。食うのか?」

「違います。あげれるものはありますか。」

「そこの解体した卑小鬼ゴブリンのあまりと屑野菜とかでいいんじゃねえか。」

「ありがとうございます。」

卑小鬼ゴブリンの耳とか鼻でいいのかな。細かく刻んでやろう

あとは、野菜の根っことか皮だな

これも細かく刻んでと

「おーっ、すっかり親子してるな。」

「はい、こういうのもいいかもしれないです。」

「獣人同士ってのも相性があるからな。」

「そうなんですか。」

「そうよ、しばらく付き合って身籠ったら番になるが、できなかったら別れちまうな。」

「子供ができなくても結婚していいんじゃないですか。」

「そればっかりじゃ子供が減っちまうだろう。」

「あっ、そうですね。」

「アガルタの住民は何でもありらしいぞ。あそこは産めよ増やせよだからな。」

「何でもありって。」

「ああ、子供を引き取って育てる機関があるし、当事者と関係者が同意すれば何でもありだ。」

「そうなんですか。大人の世界ですね。」

「お前も大人だろ。ボンボネーラの共同体ギルドは結婚が推奨だな。こっちは人間関係を重視しているし、教育する場もないからな。だれかが面倒見なきゃならんしな。子供を親が面倒みるのは理に適っている。」

「そういうものですか。」

「そういうことだ。」




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