第26話

「目が覚めても卑小鬼ゴブリン豚鬼オークがいたでごわス。」

ルジキニが言う

「最後の1匹まで戦ったでごワス。」

「それで。」

「戦い終わった後、手足や頭が良くなるぞーと言いに来た連中がいて、連中はボンボネーラ中に言いふらしていたでゴワス。」

「ん、あたま?」

「それで見に行くとトラがぐるぐる巻きで寝てたでごわす。もぅーれつに心配したでごわす。」

「ああ、心配かけた。」

少々誤解があったようだが、ルジキニは言いたいことを言って去っていった


「お前の左腕が剛毛鬼トロールに取り込まれていた。」

キングストンが神妙な顔をして言った

「そうか、自分も腕が抜けなくて感覚が無かったのは覚えている。」

「お前が殺される前に腕を切り離した。すまなかった。」

「自分も同じ状況だったらそうする。正しい判断だ。こうやって腕も新しくなったし気にするな。」

「腕を切ったあと、剛毛鬼トロールの攻撃で気を失った。俺が気が付いた時はお前の治療が終わった後だ。イドゥナとルジキニに起こされて一緒に天幕に運んだ。」

「迷惑かけた。」

「じゃあな。」

キングストンが爽やかに去っていった


「で、どうしてここに居る?」

人の天幕で祝杯をあげているカンプに苦情を言う

剛毛鬼トロールから、おめーの腕になる部分を切って、その後、10人ぐれーの治療をやったな。俺がやったのは斧で手足をぶったぎるだけだったけどな。これは自分への褒美だ。俺のおかげで良くなった奴は社会貢献ができるってことだな。おめーも含めて。早く元気になれよ。俺の秘蔵のとっておきを飲ませてやる。あばよ。」

やっと静かになった


ビセンテとヴィラがやってきた

「目と腕の治療をする。ヴィラ頼む。」

「はい、ビセンテ様。」

ヴィラは手を右目にかざす

「何かあったかいです。」

「大丈夫です。視神経も筋肉もつながろうとしています。次に腕を。」

今度は腕に手をかざす

「何か、なにかあったかく、ピリピリします。なんですかこれは。」

「骨、神経、血管、筋肉、問題なさそうです。」

ビセンテが言う

「これは手当てしているだけだ。…実は気功という技だ。興味があるならヴィラに教えてもらうと良い。」

2人は去っていった


「トラ~。あ~ん、するニャ。」

食べ物をもったイドゥナが着た

「いや、その言い方ははずかしすぎるだろう。やめてくれ。」

「ニャんと!今更ニャ。これぐらいニャンともニャいニャ。」

「いや、にゃーにゃー言われても困る。」

「4日間目を覚まさなかったニャ。口を無理やり空けて水だけ流し込んだニャ。」

…そうなのか

「迷惑かけた。だからと言ってあ~んは困る。」

「下の世話もしたニャ。大きいのも小さいの綺麗にしたニャ。」

「……。」

「あ~ん。」

口を開けずには居られなかった


「時間をかせいで、増援を待つべきだった。」

ヴィカレージが説教をしに来た

「…ルジキニは危ないところでした。」

「イドゥナがなんとかしただろう。」

「金属管もありませんでした。」

「そのうちキングストンが来たはずだ。」

「敵が多すぎました。」

「最初に判っていたことだ。無謀にも手を突っ込むべきではなかった。治療後に剛毛鬼トロールを解体したが、君の腕は欠片も見つからなかった。完全に吸収されていた。危ないとこだったな。」

「すいません。」

「腕を切ったキングストンに礼を言いたまえ。まあ、剛毛鬼トロールは解体後に塩漬けにした。今度怪我したら、何か付けてもらえ。」

「…はい。」

怪我する前提なのか


「あの後いろいろ判りましたねえ。」

グディソンが説明する

「ボンボネーラも最近は人が増えています。そういう人が蛾人間モスマン出口を監視していたのですが。」

「はあ。」

「力試しに蛾人間モスマンを殺していたらしいですよ。」

「そうですか。」

「出現数のかわりに討伐数を報告していたようですねえ。」

「それはちょっと。」

「ジョリジョリ洞ですが、」

「そんな名前ですか。」

「私が勝手に言っているだけですねえ。中を観たら肥料は卑小鬼ゴブリンの皮に包まれた状態で何個も残されていました。」

「つまり、蠕虫が帰ってなかったと。」

「音を確認するはずなんですが、それもされていなかったようですねえ。」

「…ふうっ。」

「事故が起きるときはこんなものです。ありえないようなことが、いくつも重なって、大変なことが起きるのです。」

「そうですか。勉強になります。」

「今はたま~に剛毛鬼トロールがでてきます。」

「どう対処しているんですか。」

「武器を取られないように、金属管はやめてます。意外と賢いようですから。斧で足を切り飛ばして、動けなくします。次に腕を切って、最後に首を斬ります。」

「はあ、なるほど。」

洞穴迷宮ダンジョン理論はほぼ間違いないですねえ。」

洞穴迷宮ダンジョン理論?」

「あれ、トラフォードさんが言い出したんじゃないですか?肥料を少しずつ増やせば、出現する怪物も質量ともに順調に増加する。何か極端なことがあれば、強い怪物が出てきて環境を変えようと抵抗する。」

「そう…でしたっけ。」

「早く社会復帰してくださいねえ。やって欲しいことがたくさんありますからねえ。」

重圧を残してグディソンは去った


何回目だろうか、ビセンテとヴィラがやってきた

「ヴィラ、目の覆いを取ってくれ。」

「ビセンテ様、わかりました。」

今残っているのは、目と腕だけだ

他の傷は治っている

右目の覆いが外され、液体をかけられて綺麗にされる

「開けてみたまえ。ゆっくりとだ。」

瞼の動きが悪いような気がする

ゆっくり、少しだけ目が明いた

まぶしく感じる。ヴィラとビセンテがこっちを覗き込んでいる

「視えます。右目が治りました。」

目をキョロキョロさせようとして鈍い痛みを感じる

顔を顰めたのを気づかれたのかビセンテが言う

「目玉を動かすのにも訓練が必要だ、ゆっくりと忍耐強く動かしたまえ。」

「判りました。」

「ヴィラ、気功を教えてやってくれ。」

ビセンテはヴィラを残して行った

「これは分かりますか。」

手を右目にかざす

「何かほんのりとあるのが判ります。」

「これを使えるようになれば、早く治ります。」

「教えてください。」

「右手を挙げてください。手を開いて。」

言われたとおりにする

「目を閉じて。何か感じますか。」

掌になにかピリピリしたもの伝わってくる

「これが気というものです。体の外なので外気功と称します。手を降ろして、目を閉じてください。」

左肩から温かいものが二の腕まで降りてくる

「このあたりの流れを良くすれば、完治も早いです。」

「どうすれば良いのですか。」

「体の中で、これを動かします。内気功です。右手でやってみます。」

右手の掌にあったかいものが入ってくる

それは腕の中を移動する

肘、右肩、首、左肩、傷跡、左肘、左掌から、それは抜けていった

「これを自分でできるようになるとよいでしょう。」

「判りました。寝るほど暇なので、必死にやります。」

「足や胴体、頭にも回せるようになるとなお良いでしょう。」

ヴィラは助言をくれて去った


「ちょっくらミュルクヴィズに行ってくらあ。」

カンプが来ている

「あいつらに、肥料と塩を届けにな。」

「そうですか。」

「コシュタガンケンもついに4馬力から6馬力だしな。」

「なんですか、それは。」

「言ってなかったか?羽民ハーピー4匹を6匹に増やしたんだわ。ついでに荷車の幅も広げたやつを作った。積載量は増えたが、荷車が重くなっちまったのが残念だな。速度をあげるのは難しいしな。4気筒エンジンから6気筒にクラスアップだな。フッフッフッ。」カンプは自分の世界に浸っている

そんなことを言いに来たのか

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