第25話

キングストンが金属管を拾いに来ると剛毛鬼トロールは膝をついたまま抵抗していた

金属管を両手に持って振り回している

大盾が剛毛鬼トロールを囲っている

「大槍はどこだ!」

探すと、広場の方で豚鬼オークに対応している

「盾を貸せ。」

盾を借りると後ろに回る

剛毛鬼トロールは金属管を長い腕を使って振り回している

広い角度で振り回しているが、規則的になっている

合間をぬって、盾を後頭部と肩の間の首の骨にぶつける

骨を折ったはずだ、首はあらぬ方向に曲がっている

金属管を持った手はまだ振られている

「抑え込め。」

大盾が2人、3人と体重をかけると、剛毛鬼トロールもようやく横になった

「首を斬れ。」

振り下ろされた斧がようやく頭を胴体から切り離した

大量の血が噴き出す

剛毛鬼トロールは、しばらく動き続けた


使えそうな金属管を集めて戻るとそこに居たのは金属管を持ったイドゥナと倒れたルジキニだった

「イドゥナ、金属管を持ってきた。」

一目見たイドゥナは金属管を剛毛鬼トロールに放つ

その剛毛鬼トロールは刺さった金属管から血を流していたが、手に金属管を持って抵抗していた

投げられた金属管を防ぐ

イドゥナを目を合わせると小さくだがしっかりとうなずく

イドゥナもキングストンも同時に金属管を構える

わずかに早くキングストンが金属管を投げる

それをはじいた剛毛鬼トロールだったが、時間差で来たイドゥナの金属管は対処できなかった

それは腹に突き刺さる

「大盾!」

キングストンの叫びが効いたのか

大盾が剛毛鬼トロールに迫る

だれかの大盾が金属管を深く押し込んだ

金属管から勢いよく血が噴き出す

「トラフォードは?」

最後の剛毛鬼トロールを探すと腹に何かをひっつけたまま暴れているのを見る

「イドゥナは止めを刺してくれ。俺はトラを助ける。」

イドゥナに金属管を1本渡すと、残りの4本を持って最後の剛毛鬼トロールへと向かう



『どうしてこうニャやった。』

心の中で叫びながら、イドゥナはルジキニを守っていた

自分の投げた金属管が防がれた後、ルジキニが金属管を手にもって突っ込んだ

金属管を奥深く突き刺そうとルジキニが粘る

後ろの剛毛鬼トロールはトラフォードが防いだ

剛毛鬼トロールがルジキニを引き剥がそうとするのを金属管で防ぐ

大盾部隊も剛毛鬼トロールを囲って動きを止めようとする

血がドバドバと金属管端から吹き出す

「ガーッ。」

ルジキニは金属管を捻って揺らして、細かく動かして内臓を痛めつけようとしている

剛毛鬼トロールが大盾を振り切り、ルジキニを殴り飛ばす

地面に倒れたルジキニに駆け寄ると息をしている

大丈夫だ

直後キングストンの声が聞こえる



最後の剛毛鬼トロールに左腕が肘まで腹にめり込んだトラフォード

理解するのに時間がかかった

剛毛鬼トロールは両腕でトラフォードに攻撃を加えている

右手一本で頭への攻撃を防いでいる

大盾が援護しているが、急がなければ

金属管を構えて投げる

腹に刺さる

グワッ

腹に刺さった金属管を、剛毛鬼トロールは引き抜きにかかる

大盾が押さえつけて邪魔をする

大盾を振りほどき、金属管を手にする

ホガーッ

大声を挙げて引き抜いて、次は金属管でトラフォードを滅多打ちにする

「斧を貸せ。」

大声で叫ぶ

「トラフォード!そいつから離れろ。」

しかし、もはや声など聞こえていないだろう

意識を失った親友にもう一つの手段をとる

「許せ!」

斧はトラフォードの二の腕に振り下ろされ、腕を失う引き換えにその体は自由となった

キングストンはトラフォードを抱きかかえるが、金属管の直撃を頭にもらう



2か所からの大量出血で剛毛鬼トロールの動きはほぼ止まった

剛毛鬼トロールはゆっくりと膝をつき、倒れこむが、最後の抵抗か手をついて四つん這いになる

『早くとどめをさして、トラフォードを助けに行くニャ。』

大盾が押さえつけた剛毛鬼トロール、その上から首に金属管を突き刺す

首の骨を砕いた金属管

『ふっニャ!』

金属管を持って右に左に大きく傾ける

頭は左右に振られ、首の皮が破れ、頭が垂れる

まだこれほど残っていたのかと大量の血が流れだす


「トラフォードは?キングストンはどこニャ。」

叫びながら最後に残された剛毛鬼トロールに向かう

そこには金属管を振り回す剛毛鬼トロールと、大盾の隙間から見えるのは地面に横たわる血まみれの男たちだった

「フーッ、死んでもらうニャ。」

少し距離があったが、渾身の投擲で一本目の金属管は首に直撃した

近くの金属管を拾う

息がしにくいのか、金属管を抜きながら大口を開けている

二本目の金属管はその口の中に吸い込まれた

「キングストン、トラフォード。しっかりニャ。」

キングストンは大丈夫そうだが、トラフォードは大怪我だ

かろうじて残った左腕の根元を皮ひもで縛る

出血を止める



カンプが豚鬼オークの足を切り飛ばした直後、ビセンテから声がかかる

「カンプ手伝ってくれ、重傷者が出たらしい。」

広場を見るとまだまだ小物が残っているが、大丈夫だろう

「分かった。今行く。」

倒れた豚鬼オークの首を断つと同時に言う

カンプとビセンテ、そしてヴィラは誘導路に向かう

その先には横たわったトラフォードがいる

「おいおい、やべーなこれは。どうするよ。」

ビセンテは冷静に右目周りを調べて、次に左腕の断面を調べる

「何とかなるだろう。」

「何とかするニャー。」

泣き顔のイドゥナにビセンテが言う

「あいつを連れてくるんだ。」

指さす方向には口から後ろに金属管が抜けた、しかしうろうろと歩いている剛毛鬼トロールが居た

「カンプ、剛毛鬼トロールの左腕、これくらいの長さかな。切り取ってくれ。」

右手を調べたビセンテがカンプに言う

「ヴィラ、ここで手術だ。道具を持ってきてくれ。」

ヴィラが荷車に積んだ道具を準備し、剛毛鬼トロールを横にしてカンプが待機している

いまだにビクリ、ビクリ、剛毛鬼トロールの体が部分部分動いている

「先に目の治療だ。」

ビセンテはトラフォードの右目から義眼を取り出す

最初は軽く抵抗したが、つるりと義眼は取り外された

ビセンテは剛毛鬼トロールの目を取り出す

小刀を使い、外周に大きめに切り込みを入れると最後にざっくりと深く突き刺す

軽く小刀を揺らすように組織を切り離すと剛毛鬼トロールの眼球が取り出される

視神経、筋肉を適当な長さで切ったあと、位置を合わせて掌でそっと押し込む

瞼を引っ張って、眼球を覆う

「完了だ。次は腕、カンプ頼む。」

カンプはトラフォードの右腕を見て、大体の長さを目測する

剛毛鬼トロールの腕に軽く刃先を当てて印をつける

そのあとは一気に斧を振り上げ、腕めがけて振り下ろす

ザグン

カンプの斧はいともたやすく腕を切り離す

ビセンテは腕の断面を見比べて、剛毛鬼トロールの血で洗う

ヴィラが剛毛鬼トロールの骨の欠片を持ってくる

カンプの切り口から骨だけを少し切り出していた

それをビセンテはトラフォードの腕の骨に差し込む、いったん抜いて今度は切り取った剛毛鬼トロールの腕の骨に差し込む

今度は腕ごと向きを合わせてトラフォード左腕に取り付ける

骨の欠片が両方の骨をつなぐ様に取り付けられる

ヴィラが剛毛鬼トロールの皮を剥ぎ取っており、それで腕の継ぎ目をぐるぐる巻きにする

次に添え木を当てて、腕と肩、体をぐるぐる巻きにする

ぼこぼこに殴られ頭は、一部剛毛鬼トロールの皮が貼られて、薬草をつけて皮で巻かれる

「完了だ。」

ビセンテは誇らしげに宣言する

「ビセンテ様」

「どうしたヴィラ。」

剛毛鬼トロールを見ていたヴィラが震える声で告げる

「左目です。」

一瞬なにを言われたか解らなかったビセンテだが、トラフォードの顔を見ると間違いに気づき、照れ隠しに言う

「手足や目を失ったもので、剛毛鬼トロールから移植しても良いものはいるか?足は6本、目と腕は5つあるぞ。知り合いでもいいぞ。早く連れてこい。」

顔を引きつらせながら数人が手を挙げる

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