第24話

「その剛毛鬼トロールは隻眼ほど大きくはないが、強い。何よりもこちらの攻撃が通らない。いや正確に言えば、攻撃したそばから、その傷が治っていく。」

「ビセンテさんは、何と?」

「ビセンテは負傷した。昨日、ようやく剛毛鬼トロール洞穴迷宮ダンジョンに押し戻して、扉を閉めた。グディソンらは対応策を協議している。」

カンプと話す

剛毛鬼トロールは強いんですね。」

「そうだな。首を切り落とすしかねーな。」

「難しそうですね。」

「おめーにとってはいい機会だ。右目が治るかもしれねーぞ。」

「ビセンテさんに相談しましょう。」

ビセンテは工房で横になっていた

ヴィラとグディソンが居る

右腕がいつにもましてがちがちに固定されている

「ビセンテさん、大丈夫ですか。」

「ああ、肩を痛めただけだ。」

剛毛鬼トロールを倒します。右目を直してください。」

「策はあるのか。」

「あります。」


金属管を準備しながらカンプが言う

「しかし、良く思いついたな。」

「いや、カンプからショベルを貰ったろ。ショベルの柄が金属管になっているから。それにパブロペトリの工場は金属管だらけだった。」

「これで剛毛鬼トロールの血を抜くと。完璧だな。」

金属管の片端をするどく研ぎながらカンプが言う

「水道でも作ろうかと思って持ってきたが、切り札になるとはな。」

「では、作戦を説明する。」


ヴィカレージが大声で言う

「最終目的は剛毛鬼トロールの首を切り離すことだ。そのために剛毛鬼トロールを地面に倒す。立ったままだと斧も剣も届かない。槍だと傷口がすぐに塞がってしまう。横になってもらうために、剛毛鬼トロールの体力を削る。この金属管を突き刺し、大量出血を狙う。」

横の金属管を手に持ち高く掲げる

「大楯と大槍もこれを念頭に置いて動いてくれ。」

グディソンが締める

「明日の朝から始めます。訓練場に集まってください。戦闘員は朝の食事はなしです。今日の夕食はお腹いっぱい食べてください。解散。」

食事処でご飯を食べている

イドゥナ、キングストン、ルジキニと自分だ

「今日はお腹が破れるほど食べるニャ。」

「腹を破るのは剛毛鬼トロールで充分だ。明日破れば良い。」

「イドゥナは緊張感がないでごわす。」

金属管投げで優秀な順位がこれだ

イドゥナとキングストンが投げるが、ルジキニと自分は金属管を持つ係だ

「明日は水だけでごわす。」

「水はいいのか?」

自分の質問にキングストンが答える

「腹を怪我したとき、食い物があると化膿するからな。水は大丈夫だろ。あと、出すものを出さないと、戦いの最中に漏らすぞ。」

「キングストンは言葉が下品ニャ。」

「お前が言うか。」

緊張感がほぐれて笑いが起きる

明日に備えよう

このような時間が続くように


キングストンが槍を構える

翌朝、洞窟出口から誘導路を通じて卑小鬼ゴブリン豚鬼オークが出ている

剛毛鬼トロールの姿はまだない

「今から緊張したら体が持たないニャ。」

「しかし、数が多い。」

「確かに、これでは剛毛鬼トロールが出てきても近寄ることすらできない」

自分も同意する

広場の柵越しに長槍で対応しているだけだ

向こうでグディソンとヴィカレージが相談している

グディソンがやってきた

「正直、こんなに数が多いとは思いませんでした。あなた方は剛毛鬼トロールが出てくるまで待機です。大盾と槍部隊で卑小鬼ゴブリン豚鬼オークを片付けます。」

ヴィカレージの指示で一か所だけ作られたひな壇に弓兵が準備し、大盾と槍部隊が柵を移動させて中に侵入する

剛毛鬼トロールが来たぞ!」

出口からの伝言が伝わってくる

やっと来たかと緊張した雰囲気が支配する

次の言葉に、だれもが驚愕する

剛毛鬼トロールは三匹、繰り返す剛毛鬼トロールは三匹。」

「まずいな、まずは一匹しとめる。それから次をやってくれ。」

ヴィカレージが指示する

「広場に入れる前にやれ、急げ。」

柵を動かし、大盾部隊の後から入る

「金属管部隊を援護しろ、通路で剛毛鬼トロールを足止めしろ。」

戦線が分断されてしまった

「ちっ、しょうがねえな。少しは手伝うか。」

「どうするんだ、カンプ。」

「柵に隙間を開けてくれ、出てくるやつを仕留める。」

ビセンテが支持を出す

「弓兵は豚鬼オークを狙え。卑小鬼ゴブリンはこちらで処理する。柵の隙間に誘導しろ。その柵を少し動かせ。」

振り返るとヴィラに言う

「お前はカンプを援護しろ。私の護衛はいらない。」

そして大声でいう

「応援を呼べ、予備の大槍を準備しろ。」

キングストンが叫ぶ

「金属管を投げろ。」

通路と広場の境目で、3匹の剛毛鬼トロールと対峙している

大盾が壁となり、剛毛鬼トロールの足を止めている

隙を突いて、大槍が剛毛鬼トロールの腹に穴を空けている

しかし、穴は見る間に塞がり、それほど良い結果を得られていない

自分らは一番端の剛毛鬼トロールに金属管の攻撃を集中させている

すでに4本の金属管命中し、血を垂れ流している

しかし、勢いは衰えない

「もっと通路に押し込め、背後が持たない。」

キングストンが大盾に指示する

「金属管!」

イドゥナが振り返り、金属管を渡す

数歩の助走をつけて、放たれた金属管は剛毛鬼トロールの首筋に命中する

大盾部隊は剛毛鬼トロールに盾ごとぶつかって動きを抑える

剛毛鬼トロールは挟まれた手を強引に抜いて、首の金属管を引き抜く

抜いた金属管を放り投げる

投げられた金属管は動きを封じられているため、それほど勢いは無かった

しかし、自分らの後ろで卑小鬼ゴブリン豚鬼オークの攻撃を防いでる守備兵

その背中に刺さる

「くそ、腹を狙え、盾で金属管を押し込め。」

首筋の傷は小さくなって出血も減っていく

キングストンも次の金属管を放つ、脇のかなり下に刺さる

大盾がぶつかり、うまい具合にハイプを押し込んだ

太い血管が破れたのだろう、ドバドバと大量に出血する

出血した剛毛鬼トロールは体を揺らし、膝をつく

「後は任せた。次に行くぞ。」

言葉も待たずにイドゥナが投げた金属管は2匹目の剛毛鬼トロールの腕に刺さる

腹を守られた

「!?」

「キングストン、金属管があと2本しかない。」

「こっちを使え、ルジキニ。」

ルジキニが4本の金属管を持ってくる

「待ってろ、回収してくる。」

キングストンは落ちた金属管を集めに行く

イドゥナが次の金属管を投げる

胸に刺さったが、骨で止まったようだ

出血は少ない

さらに投げる

腕に刺さる

剛毛鬼トロールは腕に刺さった金属管を抜いて振り回し始めた

盾の上から振り下ろされる

大盾部隊が下がってしまう

もう一匹が迫ってきた

イドゥナが背面に回り込む前に、2匹の剛毛鬼トロールが背中合わせに立つ

「不味い。ルジキニ、金属管をくれ、3方向から攻撃しよう。」

ルジキニが金属管を渡す

ルジキニも金属管を構える

3人がばらける

2本の金属管を振り回す剛毛鬼トロールの正面に立つイドゥナ

周りを取り囲む大盾

側面を狙うルジキニ、イドゥナが投げる

剛毛鬼トロールが両腕と金属管で防ぐ

ルジキニがわき腹に突っ込む

見事に金属管が刺さった

ルジキニが力の限り押し込んでいる

剛毛鬼トロールはたまらず、持ってた金属管を落としてルジキニを引きはがそうとする

もう一匹の剛毛鬼トロールもルジキニに攻撃しようと振り返る

『今しかない。』

自分は渾身の力で金属管を構えてその無防備な腹に突進する

金属管が刺さる

そいつはルジキニから自分へと標的を変えた

太い腕が目の前に現れる

自分の手の上から金属管をつかみ、抜こうとする

右手が金属管ごと潰されそうな力で締め付けられる

顔が手で捕まれる

抵抗むなしく金属管はじわじわと抜けていく

太い血管を傷つけたであろう

金属管の挿入口から大量に血が流れる

このままでは抜ける

『この野郎!』

自分の左手を金属管が抜けた傷口に突っ込む

『むっ!』

ギャアー

手の爪で臓物を切り裂こうと、あらん限りの力をこめる。

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