第23話

朝の食事には干し肉を焙ったものだ

「これは、卑小鬼ゴブリン干し肉だ。」

「ボンボネーラかアガルタか、あるいはそれ以外か。」

キングストンが言う

「なあ、蝦蟇ってすげえ食材じゃないのか。」

「ああ、それな。ホーソンにお願いしたから、今日は卵を持ち帰れる。」

「やったな。育て方は聞いたのか。」

「あとで説明する。ところで、護衛を準備してもらった。」

「どういうことだ。」

「お前が見つけたあいつらだ。」

「あいつら。」

「賊かもしれねーな。」

カンプが口を挟む

倉庫で肥料を積み込む

窒素肥料、燐肥料、カリウム肥料、そして塩

最後に樽に入った蝦蟇の卵

準備完了だ

コシュタガンケンは隊列を組んで出発する

護衛は一番前に5名、一番後ろに5名だ

護衛の速度に合わせているので、それほど早くもない

そして、道の補修もやることになり、たまに止まって、穴を埋めたり、岩をどけたりする

周りに注意を払っていたが、賊らしき人間は見当たらない

夕食時に聞いてみる

「カンプ、賊は見たか?」

「いーや、いなかった、と思う。」

「そうか、どうして賊なんかやってる?アガルタなり、ボンボネーラなり、どこかに住めば良いんじゃないか。」

「そうか、おめーは分らないか。」

カンプは苦笑いして話を続ける

「いいか、賊は他から奪って生きている。まあ、これは悪いことだな。だがな、悪いことは楽しいわけだ。」

「そう、…なのか?」

「自分は楽をして、他の人の稼ぎを奪うわけだ。」

「それが良くないことは分る。」

「あいつらは自立できない弱い存在だな。」

「弱い?人を襲って奪うのに?」

「自立できない、ってのは他者に依存しているからだ。それは弱い。弱いと楽な方に流れてしまう。単なる暴力の話じゃない。」

「弱いままではだめなわけか。ボンボネーラも自立しようとしている。」

「そうだ、アガルタとパブロペトリの間は荷物が奪われることがしょっちゅうあってだな。そんなときはだなぁ…。」

「そんなときは。」

ごくりと唾を飲み込む

「やるべきことをやるだけだ。」

カンプは斧を突き出して見せた。

2日目、護衛の人と仲良くなった

「そうなんですか。コシュタガンケンについて調査も兼ねている訳ですか。」

キャロウさんは口を開けて牙を見せながら言う

「そうです。羽民ハーピーに荷車を曳かせるなんて見たことも聞いたことも触ったこともないです。」

「ミュルクウィズのおかげです。」

「ほんとですね。そうそう、蝦蟇は洞穴迷宮ダンジョンの怪物みたいです。」

「えっ、そうですか。」

「確証はないですが、いつのまにか、見かけるようになりました。」

「確認しますが、海に食べられる生き物はいますか?」

「いません。我々の養殖場であれば食べるものを養殖できますが。海の生物は大昔に絶滅しましたから。」

「でもいつの間にか、蝦蟇が出現したと。」

「そうです。あなた方は陸側しか見ていないでしょうが。パブロペトリは海に面しています。いつの間にか、そこに蝦蟇が現れたわけです。」

…興味深い

2日目の夕食で話が弾んだ


3日目の朝、護衛さんたちはここまでだった

「キャロウさん、ありがとうございました。」

「そのうちボンボネーラとかアガルタに行ってみたいです。」

ミュルクヴィズも良いとこだけど

「それでは出発だ。」

キングストンの声で出発する

キャロウさん達が手を振って見送ってくれる

「なあ、トラ。」

「聞こえてる。カンプ。」

今日はカンプとイドゥナを組み替えている

「アナログ時計は分るか?」

「なんだそれは。」

「えーとだな。1から12の数字が円を作っていると考えてくれ。」

「目の前が12だ、右となりが1、その次が2、右横が3。」

「なるほど、次が4、5、真後ろが6だ。」

「そうだ、7、8、左横が9。」

「10、11、12で真ん前。」

「で、人によってバラバラだとわかりにくいから、進行方向が12時の方向。」

「そうするとカンプが後ろ向きで6時の方向。」

「ああ、やっと本題だ、キングストンに伝言、5時の方向に人影、4人。」

「復唱、5時の方向に人影、4人。」

前の車の荷車にはルジキニが居る

「ルジキニ、キングストンに伝言、5時の方向に人影、4人。」

「了解でごわす。復唱、5時の方向に人影、4人。」

伝言が伝わっていく

やがて、返事が返って来た

「トラフォード、キングストンから伝言、この速度を維持、警戒を怠るな。でごわす。」

「復唱、この速度を維持、警戒を怠るな。」

「カンプ、聞こえたか。」

「ああ、警戒を続ける。4人のままだ。」

しばらく走る

「カンプ、変化はないか。」

「ないな。4人は必死について来ようとしている。」

「そいつらは襲ってくるつもりか?」

「どうかな。挟み撃ちにでもすれば話は別だが。偵察かもしれんな。」

「トラ、奴らは諦めたようだ。動きを止めた。」

「判った、伝言する。」

「ルジキニ、キングストンに伝言、4人は動きを止めた。」

「復唱、4人は動きを止めた。でごわす。」

間をおいて、指示が来た

「トラフォード、キングストンから伝言、もうしばらく、この速度を維持、でごわす。」

「復唱、もうしばらく、この速度を維持。カンプ、この速度をしばらく維持する。」

「ああ、あいつらは変化なし。そろそろ見えなくなる。」

しばらくすると前の車が止まった。キングストンもやって来た

「おい、轍消しを取り付ける。」

それは一昨日作ったもので、木の枝を束ねたものだ

荷車の後ろの両脇に取り付ける

設計上は車輪の跡を消してしまうはずだ

「これで逃げ切れるかな。」

「完全には無理だろう。」

カンプが答える

「本気で狙われたら、防ぐ手立てはない。時間の問題だ、覚悟するしかないな。」

結局、その日は松明をつけて、夜遅くまで走った

朝、ルジキニ、ヴィラ、そして自分の順番で出発する

特に変わったことのないまま、その日は過ぎた


6日目、無事にゼルズラに着いて、樽を持って、湖に来ている

実は卵から蝦蟇の子供が孵ったのだ

その子供は頭でっかちで、手足が無く、尻尾のみである

その尾をせわしげに動かして泳いでいる

蛾人間モスマンに食われないかな。」

「水の中だったら大丈夫じゃないか。」

「餌は足りるかな。」

「小さい虫とか水草で何とかなるだろう。」

「このまま食べるのはダメでごわすか。」

「こんなにかわいいのに何言ってるニャ。」

イドゥナは母性に目覚めたようだ

湖に蝦蟇の子を流し入れる

ついでに近くにわんさかいる軟粘涅スライムを樽に詰め込む

水分補給と羽民ハーピーの餌用だ

「終わったようだな、よし戻るぞ。」

ゼルズラをでて6日間、ほぼ問題なかった

賊らしき者は見えず、野良卑小鬼ゴブリンを倒すぐらい

幸運なことに蛾人間モスマン蒙古死虫モンゴリアンデスワームにも遭遇しなかった

ボンボネーラに着いた

妙に騒々しい

何かあったのだろうか

荷物を降ろして、羽民ハーピーを厩舎に連れて行く

報告しようにも人がいない

訓練場に人が集まっていた

「戻ったばかりですまないが状況を説明する。」

ヴィカレージが話し出す

「最近の人口増加に伴って燐肥料の投入を続けていた。順調に卑小鬼ゴブリンの討伐数も増えていた。それに従い豚鬼オークも数が増えていた。」

ヴィカレージはそこで疲れた顔を見せた

「一昨日、剛毛鬼トロールが現れた。」

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