第21話

「昨晩は最高だったな。」

カンプが言う

「ああ、食事が良かった。」

「生演奏なんて聞いたことねえな。」

「アガルタでもそうなのか。」

「そりゃあ、生活に余裕があって、そのうえでの音楽とか芸術だ。」

「芸術か。」

「芸術、文化、そして文明だな。」

「それは、あの音楽の感動を何て言えばいいんだ。」

「あー、言葉にするのは難しい。というのは、それは言葉を超えたところにあるからだ。」

「カンプ、尊敬するぞ。」

「まあ、当然だな。」

「自分で歩いてくれたら、もっと尊敬するぞ。」

「おお、そうだパブロペトリまで肥料を取りに行かなきゃな。」

尊敬の度合いが低下した

「こっちは何を提供する。」

「アガルタからは農産物、酒だったな。」

「それは、困るな。」

「ボンボネーラからの木材も流していたな。」

「木材か、紙が量産出来たら欲しがるだろうか。」

「そうだな。聞いてみる価値はあるな。」

「ミュルクヴィズからの農業開発がうまくいけばいいな。」

荷車は進んでいく

「あっ。」

「どうした。」

「世界樹を見損ねた。」

「軌道昇降機か、ルジキニは登ったらしいぞ。」

「登れるのか。」

「時間が無かったから、全力で登って全力で降りたらしい。地上で吐いたと言っていた。」

「…何をしている。」

海を観て、橋を渡り、ボンボネーラに帰って来た

疲れた体を癒す間もなく報告しなければならなかった

グディソンがまとめる

「キングストンさんの判断は、それで問題ないでしょう。」

ビセンテが言う

「荷物の詳細をあとで教えてくれ。今後の対応を決める必要がある。」

そろそろ終わったようだ

「さて、トラフォードさん。何か言うことはありませんか。」

「ゼルズラのことですか。食料を生産できるようにすれば、新しい拠点になります。蝙蝠と羽民ハーピー、金色羊です。この3つをゼルズラに導入する必要があります。あと様々な農業技術です。」

「確かに、良い考えだと思う

しかし、ボンボネーラの発展もまだまだという点は考慮する必要がある。優先度は低い。」

ビセンテが冷静に言う

「もう少し良い材料がいりますね。それまでは保留です。トラフォードさんは肥料調達に取り組むことを優先してください。」

グディソンが最後通牒を宣告した

「カンプさん以外はもういいですよ。」

ビセンテの工房に来た

ヴィラが居た

荷物の整理をしているようだ

「ヴィラ、申し訳ないけど、紙と油墨を分けて欲しい。」

「わかりましたわ。何に使いますの。」

「ミュルクヴィズ、今回の隊商の報告を記録するためだ。」

「大事に使ってくださいね。」

「判っている。ところで、洞穴迷宮ダンジョンの肥料変更実験の結果は知ってるか?」

「実験自体は終わっているはずよ。結果をまとめていると思うわ。」

「ありがとう、礼を言うよ。」

工房を出て、久しぶりに自分の天幕に帰還する

よく見るとカンプの荷物の方が多いな

荷物を置いて食事処に向かう

誰かいるだろう

「モイシュさん、久しぶりです。戻りました。」

「ずいぶん時間がかかったね。聞いたよ。大成功じゃないか。」

「それは今後の状況で変わっちゃうんですが。」

「そりゃあ、聞いてはまずい内容かい。」

「特に秘密ではないですけど。」

「まあ、それはいいよ。でも今日ぐらいは大成功と言っても良いんじゃないか。」

「ええ、まあ、それより聞きたいことがあります。」

「あれだろ、ジョリジョリの話だね。」

「そうです。」

「正式な報告はもう少し後になると思うけど。結論はでたみたいだよ。」

「教えてください。」

「一番影響が大きいのは燐肥料だったね。これを増やせば卑小鬼ゴブリンが増加するということが判ったよ。」

「じゃあ減らしたら豚鬼オークが増えると。」

「そうだと思うけど、減らすといってもジョリジョリが通常仕事してる分までしか減らせない。つまり今までの普通の状態だよ。」

肥料もジョリジョリも行き詰まってしまった

この数日、考えに耽っている

「おいトラ、ちょっと防具を付けてこい。」

カンプがやって来た

新しい訓練場で話をする

「どうだこれ、土を掘る道具だ。ショベルだ。」

それは柄が長く、金属製で頑丈そうに見える

「俺にはちと長すぎだ、上手く使いこなしてくれ。」

少し振り回すと、なかなかいい感触だ

「少し刃を付けたぞ、まあまあ切れるはずだ」

何かの葉っぱのようにも見える部分は削られて凶暴な刃が縁どられる

「少しやるかあ。」

そういうと、斧に皮を巻き始める

こっちも刃を隠すように皮を巻く

「反対側の柄で殴るのは無しな。」

「不利じゃないですか。」

「本番じゃねえんだ。訓練だ。いくぞ。」

重量のある斧が休む間もなく叩きつけられる

ショベルでうける

はらう

突く

やばいな、カンプは力が余ってるぞ

「ほれ、ほれ、ほれ、ほれ。」

「あっ。」

斧でショベルを弾かれ、さらに斧を突っ込まれる

腹に当たった斧に後ろに押し倒される

「俺の勝ちだな。」

カンプが得意げに言う

「ゲホッ、いい考えが浮かびました。手伝ってください。」


長かった、ボンボネーラでの許可を得て、貴重な肥料を分けてもらって、再びミュルクヴィズに来た

「おい、本当にやるのか?」

「今さら何を言ってるんですか、最後まで付き合ってくださいよ。」

カンプが斧を見ながら渋っている

「あれからやりましょう。こっちに連れてきます。」

ショベルの柄でけん制して、羽民ハーピーを誘導する

「やってください。」

「ちっ、悪く思うなよ。」

カンプが斧を水平に振る

羽民ハーピーの頭が宙を舞う

ミュルクヴィズ側は簡単に許可が出た

ここでは羽民ハーピーは余っている

4体の羽民ハーピーがいる

しかし、首から上はない

カンプの斧はさすがだ

キングストンが言う

「一応、傷口の治療は終わった。しかし、薬を塗って羽民ハーピーの皮を貼るとは。この光景を一生忘れることはないな。」

「まさか、腕まで切り落とすとはな。さすがトラだぜ。」

血まみれのカンプが言う

「しょうがないだろ、本体の皮が一番いいはずだ。それに、腕で抵抗されると面倒だ。」

「意外と上手くいくもんだな。大人しいし、静かだ。」

さて、これからが本番だ

教えてもらって首無し腕無し羽民ハーピーを加工した

これからいろいろ試さないと

羽民ハーピーの食事は軟粘涅スライム卑小鬼ゴブリンで良いことが判明した

しかも、少し色が濃い軟粘涅スライムが良さそうだ

取り扱いを考えたら、二の腕を少し残して切断するのが良いことも分かった

皮ひもを何本も束ねた綱で縛って荷車に取り付ける

立たせておいた方が好ましいのも発見の一つだ

横にすると、胃からあふれてくる

立ちっぱなしでも睡眠のできるようだ

荷車に首無し、腕なし羽民ハーピーを結わえる

棒で胴体を押す

歩き出す

傾けると傾いた方に進む

素晴らしい

これはなかなか良いんじゃないだろうか

「ギャー、やばいニャ、ひどいニャ。トラフォードの人でなしニャー。」

全力でイドゥナが非難する

「まあ、いいじゃないか。なあルジキニ。」

「楽ちんでごわす。」

羽民ハーピー4体が曳く荷車だが、車輪は4つあり、羽民ハーピーを操る長椅子が最前に設置されている

後ろの3人が騒ぐ中、設計と製造を務めたカンプが言う

「どうだ、羽民ハーピーの操りやすさは?」

「これで充分すぎるほどだと思うぞ。」

「道の幅が広ければ、羽民ハーピー6匹も大丈夫だがな。」

「それは、道の整備も必要になるだろう。」

後ろからキングストンが答える

「ところでよう、名前を付けねえか。」

「名前か。」

「首なし腕なし車ニャ。」

羽民ハーピー荷車でごわす。」

「羽車。」

「俺さまが命名してやる。」

カンプがドヤ顔で言う

「コシュタガンケン、良い名前だろ。」

そうなのか

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