第20話

朝の食事は3日とも同じだ、パンと豆と卵と果物

赤い果物は焼いてある

意外と美味い

きっと明日も同じだろう

ミュルクヴィズを見学するものは昨日を酒で台無しにした奴らだ

こちらは、カンプとイドゥナ、ともう一人の案内で洞穴迷宮ダンジョンを見学してから会議だ

朝からの会議だったが、見学も何もしないままではミュルクヴィズのことが分からないので、急遽予定は変更された

付き添いの人がやって来た

「はじめまして、リュイスです。」

やっぱり同じ顔、なんとなく若い顔だ

移動しながら会話に花が咲く

「リュイスさんはお若い感じですね。」

「リュイスで構いません。213歳です。」

「…。」

「おめー、年上だったのか。」

「私は人工子宮からではなく、親から生まれた世代です。」

「えーと、普通に妊娠、出産して生まれた。という話ですか。」

「若い世代はみんなそうです。人工子宮は実験用になりましたから。」

「あの金羊毛ですか。」

「金羊毛のフル生産に入ってます。」

「みなさん長生きなんですね。」

「そうですが、病気にはなります。細胞分裂が無制限というだけです。だから、健康に気を付けて生活しています。」

「ほーっ、どんな生活だ。」

興味を魅かれたのかカンプが話に入って来た

「食生活だと、例えば朝は炭水化物、たんぱく質、ビタミン。特に豆と卵はしっかり食べます。」

「肉を食えばいいだろ。肉を。」

見事に無視される

「夜は少量の赤葡萄酒と食物繊維たっぷり。」

「茸と野菜か。」

「肉の生産量自体は多くありません。農地の広さに限界があります。洞穴迷宮ダンジョンからの肉は興味を魅かれますが、健康のために食べすぎはよくありません。」

「んーっ、そうなのかい。」

「肉体が必要な分だけ食べればいいのですよ。食べすぎは体によくありません。」

「飲んだり食ったりするのが楽しくねえのかい。」

「酒精の分解には限界があります。飲みすぎは体を害します。」

「おめーらとは友達になれそうもねえな。」

「良き隣人、だとご理解ください。」

リュイスさんは微笑む

「話は変わりますが、紙と筆とは何ですか?」

「それは?」

「地図を見せてもらいました。」

「ああ、それは羽民ハーピーの羽毛から作っています。あと卵の殻。」

「それで紙ができるわけですか?」

「そうです、筆記具は油墨を使うのが良いでしょう。煤と胡桃油で作れます。胡桃がとれるまでは時間がかかるのでミュルクヴィズから入手した方が良いかと思います。」

凄いためになる

きっといい人に違いない

「リュイスは男、それとも女ニャ?」

「おうおう、それは気になるな。いってーどっちだ。」

「両方ですよ。」

リュイスさん明らかに笑っている

「それはあれか、両方とも付いているのか?」

「男性器と子宮、胸もあります。」

「仲間だニャー。あたいも胸が4つあるニャ。」

イドゥナが喜んでいるから、良いか

「ただ、最近の若い人は、どっちかにする人が多いですね。」

「ん。何だそりゃ。」

「自分が男を望むなら、卵巣を取ります。女を望むなら、男性器を取ります。」

「げっ。」

「痛いニャ。ヤバいニャ。」

「世も末だな。おめーら根性あるぜ。」

カンプが言っても説得力が無いんだが

「たいしたことありません、元に戻すことも可能です。性を交換したい者同士で移植手術をするのです。」

「そんなにお手軽なのか。すげーな。」

「男性でも女性でも、好きな人が出来てから自分の性を選べます。」

リュイスは少し頬を赤らめた

ん、恥ずかしがる要素があるのか

突然、緑の山が見えて来た

「あれがモリニューの洞穴迷宮ダンジョンです。あなたがたの話が本当なら、巨大な縦穴があるわけですか。」

「たぶんそうです。」

「ここの怪物は羽民ハーピーの餌になっています。」

「どうして誰も気が付かなかったんだ。」

カンプが尋ねる

「お恥ずかしい話ですが、あなた方の劣化種だと思っていました。言葉も通じませんし野蛮な連中だと思ってました。」

「それで羽民ハーピーの餌に。」

「ひでえな、誤解かどうか分かんねえな。おめーらの本心だろ。」

「人種差別ニャあ?」

少し先に洞窟があり、そこから溢れた怪物が外に出れないように石垣が積んである

羽民ハーピーがこれでもかというほど石の上にとまっている

「たまに弓の練習に誰かが来ているはずです。」

ちょっと向こうの岩の間に光るものがある

「おや、何かありますね。」

近くで見たそれは逆さまに突っ込んで動けなくなっているようだ

機械人形メタルゴーレム。」

カンプが誰に言うともなくつぶやいた


会議の前にボンボネーラの意見を統一する打ち合わせがあった

「…じゃあトラフォードの意見は蝙蝠、羽民ハーピー、紙の製法、油墨の入手、金羊毛、農業関係の手助けと。」

「どこで農業するんだ、ボンボネーラは無理じゃねえか。」

「カンプの言うとおりだ。今もカンプに手伝ってもらってるが、制約が多すぎる。」

「キングストン、ゼルズラを開拓したいと思う。」

「それは、共同体ギルドの意見をまとめる必要があるな。とりあえず金羊毛以外の見本を入手して具体的な内容を共同体ギルドで決める。というのはどうだ。」

「あとは、カンプの意見が聞きたい。発電機はどうすればいい。」

「ぶっちゃけ、発電機は最重要資産だ、磁極力発電機なしではアガルタが立ち行かない。今の時点で確実なことは何も言えない。」

「そうか、判った。肥料は何とかなるか?」

「まあ、パブロペトリが遠いだけだ。蜥蜴の巣だ。」

意見をまとめて会議に臨む

「…こちらとしては肥料の輸送を確立して、交易を実施します。発電機については目処が立ち次第、連絡いたします。が、今の時点では約束できることはありません。」

キングストンが見事に交渉している

「ミュルクヴィズはその将来を期待して、以下の項目を遂行します。ただし、肥料との制約で具体的な協力の程度は変わります。」

やっと会議が終わった

「アガルタ、ミュルクヴィズ、パブロペトリ、ボンボネーラと、都市名でいうのもめんどくさくねえか?」

カンプが突然提案してきた

「どういうことだ、カンプ」

「キングストン、お前はボンボネーラの住人だ。そして獣人だ。けどアガルタの住人で獣人も大勢いる。穴の外だけどな。穴の中は俺らみたいな人間だ。そして、ここミュルクヴィズはサンシーの一族とでも呼べばいいのか。」

サンシーが言う

「なるほど、一理ある。我々は森上人とでも呼んでくれ。森神人でもいいぞ。」

「アガルタ連中は、そうだな、洞穴人でどうだ。」

「みんなに恨まれないか。」

「地底人とか地下人、土中人でよいだろう。」

「機械人はだめなのか。」

「髭人間だろ。」

「うるせーぞ、てめーら、わーた好きにしろ。」

カンプはへそをまげた

宴会が始まった

明日はボンボネーラに向けて出発する

酔う前にキングストンに言う

「ミュルクヴィズ優位な内容だったが、良かったのか。」

「しかたない、ボンボネーラが発展する前はなにもなかった。獣人には何もなかった。ここまで来た。さらに進む。それだけだ。」

今まで一番豪勢な食事だ

明日からはこの飯を夢に見るだろう

誰かが大声で叫ぶ

「さて、ここで音楽隊の紹介です。皆さん拍手を森上人です。」

なんだ、さっそく使っているぞ

手に手に楽器、音が出る装置を持って、何人か前に立つ

みんな同じ顔に見える

「曲は、お泊り処ミュルクヴィズ」

赤い砂漠の街道を

冷たい風が耳をなでる

焼茸の甘い香りが

辺り一面に広がる

一筋の光が向こうに見える

頭が痛む 目がかすんできた

もう眠たくなってきた

木立ちに女が立っていた

羽民ハーピーの声が聴こえた

俺は自分に問いただす

ここは天国なのか それとも地獄なのか

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