第19話

「簡単に自己紹介とミュルクヴィズの説明をしておこう。私はサンシーだ。ミュルクヴィズの住民は、遺伝情報は同一だ。同じ遺伝子を持つ。君らより200年ほど後の時代に造られた。きわめて長生きだ、男でもあり、女でもある。軌道昇降機は見たかね?もう使われてはいないが、この宇宙港の維持管理をしてきた。まあ、この50年くらい船は出ていない。同じ造られた者同士、仲良くしていこう。」

「ちっ。」

だれだ舌打ちしたのは、隣か、カンプじゃないか

「サンシーさん、質問があります。難しくてよく判らないのですが、スタンフォードさんと双子かなにかですか?」

「スタンも私も同じ遺伝子を持つ。人工子宮で造られた世代だ。年齢が違う双子みたいなものか。まあ、スタンの方が若干年下ではあるが。」

説明が続く

「人間は、生きるために宇宙へ逃げた。この宇宙港は孤立した。この数十年、我々は必死に努力してここまできた。それはあなたがた獣人も一緒だと思う。隠れていた奴らは別として。」

「おい、おめーら文句があるならはっきり言いやがれ。」

カンプが口撃する

「何を興奮している?事実を述べたまでだ。」

「カンプ、落ち着いてくれ。」

「けっ。愛玩生物風情が何を偉そうに。」

「君たちが困っているなら手を貸そう。両者の未来のため、マウリティアを発展させよう。」「けっ、差別主義者が。」

カンプが聞こえるように言う

「…というわけで、洞穴迷宮ダンジョンから発生する怪物に、肥料が影響を及ぼすかどうかの実験中という状況です。」

「なるほど、スタンはどう思う?」

「モリニューの洞穴迷宮ダンジョンを調査する必要がある。といったところでしょうか。」

「そこの矮小なる鉄くず君は言うことあるかね。」

「このガリガリが!そういうおめーらは金持ちの奴隷か召使いだろ。ゴミじゃねえぞ。俺ら金は無くともきれい好きなんだ。だから、部屋の中に引きこもってる。そんでもって、アガルタの外の仕事は獣人に任せている。農業主体で、獣人とか蜥蜴野郎と必要なものを取引している。以上だ。」

カンプがブチ切れた

一気に説明を終わらせた

サンシーとだれかが小声で話をしている

「肥料は地底人殿がお作りか?」

あれ、サンシーの言葉が変わったぞ

「いや、肥料は蜥蜴どもから手に入れている。」

「竜人族は我々と交易してくれるだろうか?」

「やつらもそれなりには物入りだからな。欲しいもんはあるだろうよ。」

「少し時間が必要だな、しばらく滞在してミュルクヴィズを堪能してくれ。」

長い会議が終わって夕食となる。またも巨大なテーブルに座っている

「キングストン、他のみんなもそうだが、飲みすぎるな。判ってるよな。」


次の日、ほとんどの連中は二日酔いだった

カンプとイドゥナで観光、じゃなかった見学中だ

「イドゥナは昨日も一昨日も同じように食事してたな。」

「ニャッ。」

「酒は飲んでたな。」

「…。」

「昨日は正気だったんだな。」

「…気づかれたニャ。」

「おまえも仕事しろ、なんでさぼってんだ。」

「ごめんニャさい。」

一瞬だけ耳も尻尾も力なく垂れるが、すぐに復活する

「ニャに、ニャに、この果物。」

「ニャに、ニャに、この野菜。」

「ニャに、ニャに、この獲物。」

そこは食事を作る共同の調理場だった

人の頭ぐらい大きさで翼、羽毛のない皮が骨のような指の間に張っている

「これは食用蝙蝠です。」

またも、同じような顔だ

「美味しいですよ。」

「こっちの羽根の生えた肉はニャんですか?」

羽民ハーピーの手羽先です。」

かなり大きい腕ぐらいの肉だ

「この長丸いものはニャに?」

羽民ハーピーの卵です。」

人の頭の半分ぐらいのものある

「蝙蝠と羽民ハーピーは養殖してます。」

「?」

「なんだそれは?」

蝙蝠の養殖は羽民ハーピーに比べると普通だった

森の中に洞窟があり、そこが蝙蝠の巣になっていた

案内してくれた人によると、野菜の屑や傷んだ果物、小さな虫とかを食べるらしい

そして問題の羽民ハーピーだ、放し飼いのものは森の警備をしてくれる

しかし、卵用の羽民ハーピーは大きい建物の中にいた

たくさんの羽民ハーピーが繋がれていた

それは足と胴体はあるが、翼と頭が無かった

「なんだこれは?」

「卵を産むぐらいに大きく育ったら、頭と手羽先を切り落として先に食べてしまいます。若いから美味しいですよ。」

「そういう問題じゃない気がする。」

「決められた量の流動食を毎日与えると、しっかり卵を産みます。」

「いったいこれはニャんだ。」

「頭が無いから、それほど動くこともありません。」

「奴ら人間じゃねえな。」

ここで何度目か、カンプがお怒りです

向こうからサンシーさんみたいな人が歩いてくる

「サンシーさん。」

「スタンだが、ああちょうどいい、牧場に行こうか。」

「牧場?」

そこは、広い草原で何かコロコロしたものが動いている

「あれがそうだ、ようやく研究の成果がでたんだ。」

そこは、角が一本クルリと曲がっており、毛も長いのだろうクルクルと巻いている生き物がいた

「これも羽民ハーピーとか蝙蝠と同じように我々が造った生き物だ。」

「ニャんと。」

「えっ。」

「綿だけだと寒いんだ。毛織物とミルクを得るためのものだ。最大の特徴は妊娠しなくても、雄であってもミルクをだす。」

「ミルク」

「お乳」

「ミュルク」

「われわれは、自分自身を深く知って、それを活用したんだ。ちなみに金羊毛と命名したよ。」


ミュルクヴィズの住人は木に住んでいた

正確には寝るときは木の枝を利用して作られた寝床で寝ている

ここは、小さな虫が多い

羽民ハーピーや蝙蝠の餌になる

そこに戻る途中にスタンさんと思われる人が歩いてくる

「スタンさん。」

「サンシーだが、キングストンに聞いて君たちを待っていたんだ。少し話がある。」

そして彼は驚くものを見せてくれた

「これは地図だ、我々は人工衛星の管理もしている。動いている衛星の画像を紙に筆写したものだ。」

「ここがミュルクヴィズ、ボンボネーラがここ、アガルタがここになるかな。カンプさん、間違いないかな。」

「おお、ああ、間違いない。手書きの地図なんか見たのは久しぶりだぜ。」

「竜人族はどちらに住んでおられるかな。」

「パブロペトリはこのあたりかな。」

「すいません、ゼルズラ、砂漠湖はどこですか。」

「ああ、湖か、そりゃあ、この辺だな。」

4つの目印の真ん中あたりにゼルズラはあった

「…君たちと友好的に付き合う用意がある。」

サンシーさんが口調を改めて言う

「おおぅ、良いじゃねえか」

「やったニャ。」

「素晴らしいことです。」

「ただし、条件が2つ、肥料を欲しい。もう一つ、100万kW級の発電機が欲しい。」

「磁極力発電機か。」

カンプが難しい顔になった

「いいか、今日だけは絶対に飲酒厳禁だ。」

「キングストン、お前もだ。」

明日、最終日の会議は素面で出席してもらう

「おれは関係ねーからいいだろ。」

「あ、あたいもニャ。」

「カ、カンプは、鉄の肝臓だから、まあ良し。イドゥナは、視察を済ませたけど、やっぱり駄目だ。」

キングストンが非情な結論を下す

「ギャー、人種差別ニャ。ひどいニャ。」

「今日は乳製品をお出しします。」

食事の説明でイドゥナの声は遮られた

「まだ量が少なく貴重ですが、全力をあげているのですぐにたくさん食べれるようになります。」

「次はいつ来るか判らないのに。」

キングストンが愚痴をこぼす

「これが、芋とバターです。これがお乳のスープです。これがピザです。果物はあちらからお取りください。」

「おおうめー。」

「すごいぞ、凄いぞこれは。」

「生きててよかった。」

「食の奇跡だ。」

酒を飲めないことは忘れ去られた

一人だけ酒を飲んでるにもかかわらず、カンプの顔は優れない

「なあ、トラ、俺が死んだら骨を拾ってくれるか。」

「なんの冗談だ、第一、骨は残っているのか?」

「ハッ、そうだな、つち、きぬた、あぶみくらいかな。」

「なんだそれは?難しすぎるぞ。」

「気にするな。大したもんじゃない。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る