第18話
「でっかい水たまりだ。」
キングストンが感想を漏らす
目の前に海がある
そして向こう岸まで道がかかっている
「あれが橋か。」
「よかったな、壊れてなくて。」
独り言にカンプか答える
「昔、人間は地上にありとあらゆるものを造った。今は戦争と災害でほとんど残ってない。自然に戻ったわけでもないな。草木すら無くなったからな。」
「海に食いモノはいるのか?」
今度はちゃんとした質問だ
「海の生き物は絶滅したって聞いたな。確かめたわけじゃないが。」
ここまでの道のりで草も木もほとんどなかった
海も何もないのだろうか
橋を渡る
真っ直ぐで滑らかだ
荷車はほとんど抵抗もなく進む
橋を渡りきる
こうして考えると、ゼルズラやアガルタへの道も昔の道の跡かもしれない
15日目、少し空気がきれいになって来た
木が、森が見える
そして、ずっと向こうに天に届く柱のようなものが見えて来た
何かが動いている
「警戒しろ。荷車を集めろ。油断するな。」
カンプも荷車から降りる
手に斧を持っている
こっちに向かってきたのは
1匹だけだ
キングストンが弓を構える男に手で合図する
「イドゥナ、やってくれ。」
イドゥナが槍を投げる
警戒しながら現場にたどり着く
腹に深々と刺さった槍、地面に横たわる
「これを見ろ、トラフォード。」
頭や手に傷がある
「お前の爪でやられたような傷だ。」
「キングストン」
「ああ、判っている。近くに
天幕を張って拠点とした
「ここに残る者と森に入るものに分ける。」
キングストンが続ける
「ルジキニ、イドゥナ、そしてトラフォード。一緒に森に入ってくれ。」
「了承したでごわす。」
「当然だニャ。」
「分った。」
全員の顔を観てからさらに続ける
「カンプ、森について来てほしい。」
「しゃあないな、自分の足で歩くか。」
「何としてもカンプだけは生きて帰す、何があろうとも。」
しばらく考えて言い放つ
「そうだな、もし10日たっても帰ってこなかったら、残った者はボンボネーラに帰還してほしい。そして二度とここには来ないと。」
朝、キングストンとルジキニが前を歩き、カンプ、後ろにイドゥナ、そして自分が続く
森の入り口の木は、見たことのない木だった
「みんな、木や草、どうも違う感じがするが、まずは敵の姿に気を付けろ。」
「キングストン、敵じゃニャいかも。」
「まあ、用心するのが一番だ。」
地面、草、木、あと変なものがある
「これは、茸じゃないか。カンプ、違うか。」
「トラフォード。集中しろ。」
「確かに茸だ、だが食えるかどうか判らんからな。」
さらに奥へと進む。時々、キングストンが木に印を付けている
「ニャ、木に何か付いている。」
「イドゥナ、気を散らすな。」
さらに進む。
「むう、キングストン。」
「どうした。トラフォード。」
「あそこの木の枝だが、爪痕がある。」
「…そうだな。全員、上からの攻撃にも注意を払え。」
やがて、背の低い木々がたくさん生えている場所に出た
「まさか、いやしかし、これは。」
「どうしたカンプ。」
「これは葡萄の木だ。」
「なんだそれは。」
空を何か黒い影が飛び、音がするのが同時だった
ギャー、ギャー
「不味い、円陣を組め、カンプを守れ。」
そいつらは大きな翼を持ち、足の爪は大きく、体中羽だらけで、上空を舞っている
降下してくる
ガシィン、ガシィン
キングストンの長槍と爪との闘いだ
ガッ、ガッン
こん棒で対応する
ルジキニは大楯でカンプをかばい、イドゥナは槍を振っている
「キングストン、撤退しよう。」
「おのれ、ここまで来て。」
「不味いニャ。」
「敵が多すぎでごわす。」
敵の攻撃に釘付けだ
「このままの陣形でゆっくり落ち着いて後退する。敵に隙を見せるな。」
目の前に、敵の攻撃が増えた
これは移動することを邪魔している
「キングストン、こっちは包囲されている。」
「ちいっ、罠か、こっち側に移動する。」
結果的に誘い込まれるように森の奥へ誘導される
「くっ、最後にとっておきを飲んじまえばよかった。」
カンプの喚き声が聞こえる
森の奥、少し広場になっている
周り中に敵がいる
枝に留まっている
大勢、こんなにいるのか
威嚇の声でうるさくてしょうがない
「カンプ、すまなかった。」
「ふっ、穴倉から出て、森に死す、か。」
「このまま食われちまうのか。」
「いやニャー、食べられるのはごはんニャー。」
「もうっ、終わりでごわす。」
すっかり観念した男どもと抵抗する女、いや錯乱した女
突過として音が消え、誰かがやって来た
そいつは同じぐらいの背丈だが、すこし華奢で獣人のような耳も毛も鱗も角もない
金色の長い真っ直ぐな毛と変わった色の瞳、よく見ると耳が髪の間から見えている
少し尖っているのは耳か、耳に毛は生えていない
武器も防具も身に着けていない
変わった服を着ている
「カンプ、あの服はなんだ?」
「ありゃ、布だ。」
こそこそと会話する
「なんで
そいつが言葉を発する
「ああ人間だ、ボンボネーラから来た。俺はキングストン、こっちがイドゥナ、ルジキニ、あっちがカンプとトラフォード。」
「ほお、わたしはスタンフォードという。おい、お前、獣人じゃないお前はどこから来た。」「カンプと呼べ、アガルタから来た。」
「アガルタ、そうか、まあいい、何が目的でここに来た。宇宙へ逃げたいようには思えんが。」
「「「「ん。」」」」
「ニャッ。」
全員が驚き、顔を見合わせ、キングストンが話す
「まずはいろいろと説明させてほしい。」
そこは木々に囲まれた広場だが、巨大な円卓と椅子がいくつも並んでいる
椅子に座って、目の前に皿とカップが並べられていくのを見ている
「カンプ、この皿とカップはどうやって作っているんだ。」
「こいつは陶器だな。」
「陶器、なんだそれは。」
「粘土を高温で焼いて作る。土とかいろんなものが必要だな。」
そんな話をしているうちに準備ができたようだ
今、ここにはボンボネーラから来た全員が席についている
そして、スタンフォード達だが、周りの連中はほぼスタンフォードと同じ外観だった
「ようこそボンボネーラの皆さん、と、あと一名。」
カンプが隣で固まった
「ミュルクヴィズは皆さんを歓迎します。まずは食事を楽しんでください。」
「けっ、性格は最悪だが、飯は美味いな、しかも葡萄酒まであるとはな。」
「カンプ、声が大きい。」
「この赤い酒は美味いな。最高だ。」
「キングストン、飲みすぎるな。」
「この黄色いのと茸の奴は美味いニャー、上の赤いやつがうま味を増してるニャ。」
「この焼いた肉は最高でごわす。」
「
「ちょっと熱いけど。汁も美味しいニャ。」
次の日、カンプ以外のほぼ全員が二日酔いだった
自分は葡萄酒を抑えて果物を絞ったものを飲んでいため、ボンボネーラの状況説明をすることになった
「私、トラフォードがボンボネーラの状況、
終わった後に偉い人が喋る、サンシーだったかな。同じような顔で区別もつかない、名前も覚えられない
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