第17話

「世界樹、それはいったいどんなものですか…。」

「あいつらとは相性悪いんだよなぁ。」

「あいつらって、いったい。」

「あ、すまん。まずは世界樹の話だな。あれは1000年ぐらい前に作られたっけかな。人が宇宙へ進出するための道具だ。軌道昇降機だったか。」

「人が宇宙へ進出…。」

「おめえに黙ってたことがある。何十年か前の話だ。世界が危機に陥った。その時逃げた奴らが居た…っていうか金持ちは全員逃げた。俺とかアガルタの連中は貧乏人よ。まあ、逃げるのを良しとしなかったのもあるけどな。」

しばらく何かを考えたカンプは小さな声で呟いた

「あいつらの生き残りが居るかもしれねえな。」


キングストンが言う

「そうか、世界樹に人が居ると…。」

突きこまれた槍を受ける

新しい訓練場で打ち合わせをしている


新しい武器だ

カンプから借りたショベルだ

土を掘るための道具だが、武器によさそうだ

ということで簡単に刃を付けてもらった

柄は長い、金属製で頑丈っぽい

カンプが言うには

「俺にはちと長すぎたからな、上手く使いこなしてくれ。」

ということらしい


「世界樹、気にならないか?」

接近戦に持ち込まれないように離れて戦わなければ

ショベルを振るう

「気になることは確かだ。」

「ちょっと休憩しようか」

キングストンがルジキニに声をかける

「少し話がある。」

「待ってましたニャ。」

「もうっ、終わりでごわすか?」

イドゥナ、始めるのは遅く、終わるのは早いな

「ルジキニの斧はどうだ?」

これまたカンプから借りている斧に、ルジキニは頬ずりしている

「聞くまでもないな。」

食事処にやって来た

「プラモールさん、ちょっと食べるものありますか?」

調理場の奥で何かしていたプラモールがやってくる

「これを食べてみるか?」

木の皿に葉っぱが載っており、その上に野菜が盛ってある

「これはアガルタから持ち帰ったやつですね。」

「そうだ、量は少ないが、栽培は可能らしい。食べていいぞ。」

テーブルに椅子、以前とはだいぶ変わった

「ニャんだこれ。」

「食えもぅーすか?」

アガルタに行ったキングストンは素早く口に入れる

「問題ない。」

自分も食べる

「早く食べないと全部食っちまうぞ。」

イドゥナとルジキニも恐る恐る食べる

「まあまあだニャ。」

「いけるでごわす。」

もう一度、世界樹について説明する

「金持ちとはなんだ?」

途中でキングストンが質問する

「それを持っていれば、卑小鬼ゴブリンの生肉だろうが焼豚鬼オークだろうが、何とでも交換できるものだ。」

「生肉や焼豚鬼オークを持った方がいいだろう。」

「それだと保存とかややこしいだろう。」

「持ってなくても食事処で食べられるじゃないか。」

「よく知らんが、昔は個人とか家族単位で食事していたらしいぞ。」

カンプから聞いた知識を披露する

「分ったニャ、金があれば食っちゃ寝、食っちゃ寝。し放題ニャ。」

「おっ、たぶんそのとおりだ。」

そういうところは分かるのか

キングストンが言う

「じゃあ整理するぞ、世界が滅びかけた時に人は宇宙に逃げた。金持ちの人はな。逃げない人はアガルタに籠った。と。世界樹には宇宙に逃げた人、かどうか分らんが、誰かいるかもしれないと。」

少し付け加える

「カンプ達は、このままだと全滅する。何か手助けになるかもしれない。」

キングストンが言う

「俺たちのご先祖もカンプ達の先祖が造ったらしいしな。」

「ニャるほど。」

「一肌脱ぐでごわす。」

最後の野菜をルジキニが丸呑みする


「カンプ、世界樹に行こうと思う、一緒に来てほしい。」

畑で使う器具だろうか、小刀のようなものが3つ突き出たようなものを触っている

作業は辞めずに口だけで答える

「嫌だと言ったらどうするよ。」

「金持ちを嫌っているのは分かるが、同じ人だろ。気にならないのか?」

「俺に言わせりゃ、人じゃねえぜ。あいつら世界が滅んでも金さえあればいいんだ。」

「今すぐ返事してくれとは言わないが、考えてくれ。」

「そんなことよりジョリジョリはどうなった。」

「現状維持で詳細な調査をする、という話を聞いた。さすがに山頂の穴は無理だけど、蛾人間モスマンの穴は交代で監視しているらしい。ジョリジョリの穴も監視して記録しているという話だ。」

「怪物の討伐数は記録しているよな。」

「ああ、隻眼の豚鬼オーク事件以降は記録している。」

「俺に考えがある。」


 ビセンテの前で説明している

「カンプの考えでは肥料をジョリジョリに食わせて、怪物の討伐数に変化がでるはずだと。」

「そうなのか、カンプ」

「ああ、トラの説明で合ってる。」

「しかし、隻眼事件のようなことがあっては困る。」

「ここから先は推定だが、肥料が無い方がそういうことが起きるかもしれないぜ。」

「どういうことだ。」

「隻眼は、造るのに手間がかかっている。肥料が多いということは怪物をたくさん作る必要がある。忙しいだろし、そんな手間はかけたくないはずだ。」

「そうか、共同体ギルドに提案しよう。」


「モイシュさん、すいません。仕事増やしたみたいで。」

ここは、最初にジョリジョリの音が確認された場所だ

そこには木でできた開閉可能な蓋が備えられてある

少しな離れたところに、音を聴くための監視場所である天幕がある

「これが最初の実験で、窒素肥料かい。」

「そうです。卑小鬼ゴブリンの皮で包んであります。」

「こりゃ大変だな。」

現場を見たいということでカンプもついて来た

「ここは2~3日に1回は通るね。」

モイシュが呟く

「えーと、4種類の肥料で、量に変化をつけて、5日間と。40日以上は続くんだ。いやはや。」

「モイシュさん、申し訳ありません。」

「まあ、君たちが帰る前には何か分かるといいね。」

「はい、よろしくお願いします。」


カンプはなかなか誘いに乗らなかった

「もしかしたら、誰か残っているかも。」

「だからどうした。」

「もしかして、誰かが残ってたら、酒があるかもしれないぞ。」

「さ、酒か、そいつはあり得るな。そこに飲んだことのない酒があるならば、行かない理由はない!よし、早くいくぞ。」

人間には、情熱をかけるものが必要だ


グディソンはあまり面白そうな顔をしてないが、それでも出発の挨拶をする

「正直、危険だとは思います。しかし、何もしなくても、この世界は危険です。マウリティアを知るために探索をお願いします。キングストンさん、頼みましたよ。」

9台の荷車が出発する

そのほとんどが水と食料になる

あのあと、キングストンは何度か下見をしている

方位と距離を考えて、片道20日、往復40日と考えているようだ


野良卑小鬼ゴブリンを仕留めたり、軟粘涅スライムを拾ったりして旅は進む

カンプに質問する

「カンプに質問があるんだが、軟粘涅スライムを入れると下から水が出るあの樽はどういう構造なんだ?」

荷車の上から答えが返ってくる

「そうだな、一番重要なのは活性炭だな。」

「なんだそれは。」

「お前らから仕入れた木材をアガルタで加工して作ったものだ。」

「木からそんなものを作っているのか。」

「ほかのものも作っているぞ、例えば茸を栽培している。」

ボンボネーラでもアガルタでも見なかったが

「アガルタの人間は日陰もんだからな。食生活は栄養バランスをとる必要がある。」

「何だかよく分からないな。」

知識というか技術が段違いだが

「ボンボネーラとは比較にならないけど、斧とか鋸とか、どうやって作っている?」

「ボンボネーラは薪さえ貴重だからな。アガルタは発電機を持っている。磁極力発電機ってやつだ。発電機の電気で機械を動かしている。斧や鋸も機械で造った。」

「発電機?」

「1500年ぐらい昔に電気を無から作る方法が見つかった。俺の体も使ってるぜ。」

カンプはお腹を自慢げに叩く。

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