第16話

「トラフォードさん、学んだこと分かったことを伝えてください。できたら、この場に居ない人にも分かるように。望ましくはトラフォードさんが居なくても分かるように。」

グディソンは難しいことを言う

ボンボネーラに帰って来た

今では、洞穴迷宮ダンジョンからの獲物は訓練場改め狩場まで誘導されるようになった

交代で見張りや誘導係、狩人を置いて、討ち漏らしが無いようになっている

基本的に、穴の中には入らないようになった

ジョリジョリの穴は、調査が進んだ

やはり、片方は洞穴迷宮ダンジョン中心へと向かっている

片方は麓へ向かっている

他にも2本ほど見つかった

枝分かれして、かなり遠くまで繋がっているようだ

「ここは酒がねえのが欠点だな。」

カンプがだべっている

「カンプさん。」

「カンプだ。」

「はあ、カンプ、仕事の邪魔はなしでお願いします。」

木の平板に小刀で文字を彫りこんでいる

「おめーも大変だな。」

「あっ、しまった。」

「どうした。」

彫る文字を間違えてしまった

頭の中で彫る文章と違う考えを思うとダメだな

「失敗しました。」

そうだ、1文字分だけ平らに削りなおして、直すか

「見た目が不細工だな。」

「カンプ、意地悪を言わないで下さい。」

「本当だろ。」

時間もかかる

手間もかかる

収納も大変だ

天幕も木の板でいっぱいになって来た

「おい、トラフォード」

「どうしたキングストン」

「例の山狩り、決まったぞ。明日の朝から出発する。」

「分った。」

「じゃあな。」

カンプが言う

「あーつ、山狩りってのはなんだ?」

蛾人間モスマン蒙古死虫モンゴリアンデスワーム人面樹トレントこの3つは親子みたいなもんで、ジョリジョリ音は蠕虫が洞穴迷宮ダンジョンへの帰還するときの音というのはほぼ間違いないです。」

「それで、なんだ。」

「どこかに蛾人間モスマンの出口があるだろうと。」

「ほうほう」

「興味ありますか。」

「いや、ねえな。」

「そうですか。」

「どっちかと言えば、ジョリジョリだろ。」

「えっ。」

「蠕虫が洞穴迷宮ダンジョンへ戻るところを確認しなくていいのか、どうだ?」

「いや、蠕虫は危ないでしょ。」

「あぶねぇってなら、なおさら倒さなくていいのか?」

「んーっ、でも肥料、蠕虫は怪物の肥料なんでしょ。」

「それを確認するんだよ。」

「あっ、アガルタは枯れた洞穴迷宮ダンジョンという話でしたよね、何か分かるはずですよね?」

「引っ越しのドタバタで、ろくに調べる時間はなかったからな。前に話したぐらいだ。それに興味があるのは俺ぐらいだ。」

新しい訓練場に集まっている

かなりの大勢だ

グディソンが指示する

「みなさーん。調査をお願いします。危険なことをしないように、集まった班は出発してください。」

キングストンが言う

「簡単な挨拶だな。」

「まあ、実際簡単だニャ」

「もっと集中するでごわす。」

「この4人は何か意味があるのか?」

キングストンが答える

「ああ、体力的に同じぐらいの人員で班編成をした。」

「そうニャのか」

「一番距離があるところの担当だ。」

「…ニャに。」

このボンボネーラは山の中腹が洞穴迷宮ダンジョン出口で、大きな洞窟がある

山の上の方、あるいは山の反対側とかに、蛾人間モスマンが発生する洞窟があるのでは?という共同体ギルドの結論である

まずは反対側を目指す

大楯をキングストンが背負い、イドゥナが槍を持っている

自分は人面樹トレントこん棒だ

食料その他を分担して持っているが、ルジキニが大きい荷物だ

「だいぶ歩いたな、小休憩だ。」

キングストンの指示で休む

「まだ大丈夫だニャ―。」

「これから辛くなる。少し食べといたほうが良い。」

「なあ、共同体ギルド蛾人間モスマンをどうすんだ。」

食べながらキングストンに尋ねてみる

「グディソンは現状維持、ビセンテは経過観察、ヴィカレージはせん滅しろと言っている。」「そろそろ行くか、いよいよ登りだ、慎重にな。」

だらだらとした登りが続く

草木のない、岩と砂だけの山だ

砂埃が減ったな

足元に注意が持ってかれる

たまに山肌を眺めるが洞窟らしきものは見当たらない、蛾人間モスマンも飛んでない

ひたすら歩き続ける

「疲れたニャ。」

「そうだな。」

「そろそろ暗くなる。」

「キングストン、野営地を探すでごわす。」

休めそうな場所と確保して、食事を取り交代で寝る

寒いな

星が近い

だいぶ高くまで登って来たからだろう

「トラフォード起きろ、あれを見ろ。」

朝で、弱い光が差している

「おお、なんだあれは。」

ルジキニもイドゥナもそれに目が釘付けだ

向こうの方に雲から真っ直ぐ天に向かって何かが伸びている

遠くに見えるから巨大なものだろう

大木、あんな大きな木はないな、空を支える柱の様だ

やっとキングストンが口を開いた

「全く想像がつかんな。」

「雲を針で縫い付けてるでごわす。」

「こんなに驚くことは一生に一度だニャ。」

「とにかく、調査をつづけるぞ。」

さらに上を目指す

登る、岩だらけだ

「疲れたニャー。」

「もう少しだ、がんばれ。」

誰も何も言わないので、イドゥナを励ます

少しは頂が見えて来た

あと少しだ

そこで、再び驚愕すべきことを発見した

巨大な穴が、山頂から真っ直ぐ下に向かってあいている

訓練場ほどではないが、広場ぐらいの大きさの穴だ

穴底は暗くて見えない

「こんなに驚くことは一生に一度だニャ。」

「さっきも聴いたでごわす。」

「あたいは生まれ変わったのニャ。早速調査するニャ。はやく潜るニャ。」

「だめだ、危険すぎる。今日はこれで引き返す。」

「いやニャー、潜るニャー。」

「落ち着け。イドゥナ、正気に戻れ。」

暴れるイドゥナを3人がかりで取り押さえる

力が強い

「フー、フー。」

毛が逆立ち、太く見える尻尾がピンと立っている

しばらくたって、暴れ疲れたのかようやく収まった

「ごめんニャ、どうかしてたニャ。」

「お前、しばらく休みなしで働け。」

「うー、キングストンはひどいニャ。トラフォードなんか言うニャ。」

「いや、甘すぎる。飯抜きで働かせろ。」

「荷物を全部持つでごわす。」

いろんなところを爪で引っかかれ、血まみれになった3人に責められる

帰路につく

帰り着いたボンボネーラでは騒ぎの真っ最中だった

「いったいどうした。」

キングストンがその場にいたものに尋ねる

「結構ちかいところに2か所、蛾人間モスマンの穴があったらしい。」

「そうか、ありがとう。」

「みんな、共同体ギルドに報告しとくが、今回のことは黙っててくれ。」

「ああ。」

「了解でごわす。」

「分ったニャ。」

天幕に戻るとカンプが居た

「お帰り、トラ。」

「あっ、おじゃまします。」

話題を振ってみる

蛾人間モスマンの穴の話、知ってますか?」

「らしいな。」

「みんな怖がってるみたいですね。」

「前からあるんだろ、今更な話だな。それよりお前らはどうだったんだ。」

「あっと、えーと、そうですね。」

「なんだよ、早く言えよ。」

山頂の話はまだ駄目だったな

どうしよう

「あれです、山の向こうにすごいでっかい、なんか分からない空に伸びる真っ直ぐなやつがありました。」

「南側に?なるほど、そういうことか。」

「その様子だと、カンプは何か知ってますね?」

「そうだな、たぶんそれは世界樹だ。」

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