第15話

「しかし、荷車は改良の余地があるな。」

上からカンプの声が聞こえる

「カンプさん、歩きますか。」

「カンプで良い、トラフォード」

カンプは荷車に載って、自分がそれを曳いている

「何で、歩きはダメなんですか?」

「朝、ビセンテが説明してたろ。」

「何でしたっけ?」

「俺の膝は消耗品だから、なるべく使いたくない。移動をそちらもち、ってのが条件だ。」

しぶしぶ納得する

「昨日、サンティさんと話したんですが。」

「トラ、誰か聴いてるかもしんねえ。その話題はなしだ。」

「えっ、何を話せば。」

ガタゴトと荷車は進んでいく

「そうだな、洞穴迷宮ダンジョンの話はどうだ。」

「あの、軟粘涅スライム卑小鬼ゴブリン豚鬼オークですか。」

「アガルタに引っ越した時は、洞穴迷宮ダンジョンは枯れてたからな。」

「枯れてた…。」

「何も出てこねえ、って意味だ。」

「そうですか。」

洞穴迷宮ダンジョンは最近の話なんだ。少なくとも100年前には無かった。」

「そうですか。カンプさんも知らないと。」

「カンプで良い。」

言葉に詰まる

「隻眼、やつを調べた。」

「えっ、あの豚鬼オークの隻眼ですが。」

「そうだ、正確には頭蓋骨を調べた。」

「何か分かりました。」

「手術の痕があった。知能が高いという話から、おそらく、脳オルガノイドのバイオチップが埋め込まれたはずだ。」

「どういうことですか。」

勝手に話が続く

「昔、アガルタの枯れた洞穴迷宮ダンジョンを調べた。」

「人工子宮や培養槽、立体細胞出力機があった。」

「話が難しすぎます。」

「簡単に言うと軟粘涅スライム卑小鬼ゴブリン豚鬼オークなんかを造る場所が洞穴迷宮ダンジョンの奥底にある。」

「そうですか、肥料はどうしてるんでしょう?」

「肥料だと?」

「えっ、作物を育てるのに肥料が必要でしょう。」

「肥料か。」

「怪物を造る肥料がいるでしょ。」

「可能性としては、蒙古死虫モンゴリアンデスワームだな。」

「蠕虫…。」

「おめーが見つけたんだろ。蛾人間モスマン、蠕虫、人面樹トレント、調べる必要があるな。」

カンプはそう言うと手に持った斧を見て笑みを浮かべる。

結局、カンプは休憩のたびに、片っ端から木の枝や幹や根っこに斧をぶつけていた

「カンプさん」

「カンプだ。」

「すいません。ゼルズラが見えてきました。」

草原が広がっている

「ほおーっ、良いとこじゃねえか。」

「あの向こうに見える木、まさか全部に斧をって、やらないですよね?」

「ああぁ、さすがにそんなことしねえよ。たぶんな。」


「なぜそこにいる。」

「遅いでごわす。」

「待ちくたびれたニャー。」

そこには斧を持った2人が居た

ビセンテが言う

「ここで野営して、明日の朝に出発する。彼がカンプだ。こちらがルジキニとイドゥナだ。」「よろしくな。」

「おはつでごわす。」

「イドゥナ、です。んニャ。」

2人はビセンテと話をして、そのあとビセンテとカンプはどこかに行ってしまった

食事をしながらイドゥナに尋ねられる

「トラフォード、ちゃんと右目があるニャ。」

「これは作り物の目玉だ。」

「そうだ、大変だっだ。」

キングストンが偉そうに言うが、大変だったのはお前じゃない

「似合ってるでごわす。」

「そ、そうか。」

褒められているのか

「斧を持って来たということは、人面樹トレントを倒したのか?」

ルジキニとイドゥナに聞いてみる

「大変だったニャー、ひたすら斧を振りまくりニャ。」

「嘘でごわす。」

大げさに言うイドゥナに反論するルジキニ

「ごめんニャ。木を避けてゼルズラにたどり着くこと優先したニャ。」

なぜ噓をつく

「ゼルズラの検証が出来てない範囲をやってたでごわす。この野営地はたぶん大丈夫でごわす。」

ゼルズラでの野営は、警備の人員を増やしたが、無事に朝を迎えた

今までと同じように移動する

「それにしてもゼルズラは水が豊富だな。」

カンプが言う

「ゼルズラは食べ物が無いそうです。」

「惜しいな。湖があって沼地があって、森がある。」

せっかくなので聞いてみる

「カンプとビセンテの付き合いは長いのですか。」

「数年前にビセンテはアガルタにやって来た。しばらくは畑をやってたぞ。種まきが得意でな。お前さんも知ってるだろうが、長い右腕でパパパーッと。」

カンプが手を握ったり開いたりするが、よく判らない

「アガルタの前はどこに?」

「どうだろうな。どこかの洞穴迷宮ダンジョンで再生治療を会得したんだろう。」

「再生治療、なんですかそれは?」

洞穴迷宮ダンジョンの怪物を使うらしい。そいつの手足の移植、もしかしたら、目の移植もできるようだ。」

「そんなことが。」

「あの腕も怪物の手を二本使って肘を追加したという話だ。」

「なんでそんなことを…。」

「そりゃあれだ、強くないと怪物にやられちまうだろ。」

自分の幸運を忘れていた

この世界で生き延びることは難しい

アガルタは例外としても、卑小鬼ゴブリン豚鬼オークに勝たなければ、食べるものが無い

ゼルズラを出て2日目、人面樹トレントの枝を拾った場所にいる

荷車はかなり離れたところに置いてある

ビセンテが言う

「さっきの説明のように斧を持った1名と護衛2名で人面樹トレントのあぶり出しを行う。護衛は蛾人間モスマンに注意。蒙古死虫モンゴリアンデスワームが出現した場合、すぐさま荷車まで撤退だ。始めろ。」

ルジキニが斧を振るい、イドゥナが長槍、自分が人面樹トレントこん棒で護衛

あと大楯を背負う

「いくでごわす。もぅん。」

バキッ

根っこに切れ目が入る

変化が無い

「違うニャー。」

「そうだな。次のに行こう。」

別の目標へと移る

「もぅん。」

ベキッ

枝が叩き折られる

やはり変わらない

「次行くニャ。」

さらに別の目標へと移る

人面樹トレントだ。」

「こっちだー。」

向こうの班が見つけたようだ

急いで行くと3人が戦っている

蛾人間モスマンも蠕虫もいない

人面樹トレントだけだ

大楯で枝の攻撃を防ぐ

斧が根っこを断ち切る

無理をしない

「イドゥナ。」

「ニャッ。」

「周りに他の敵はいるか?」

蛾人間モスマンも蠕虫もいニャい。人面樹トレントだけ。」

「おぅ、警戒を頼む。」

大声で叫ぶ

「敵は人面樹トレントのみ。あせるな。慎重に。」

大楯が枝の攻撃を受け、斧を持つものが根っこを攻撃する

度重なる根っこへ攻撃で、ついに人面樹トレントが倒れる

が、別の木に引っかかって、斜めのまま止まる

「俺が根っこをやる。」

突然、カンプが現れた

「おめーらは枝をやれ。」

言ったとおり、根元で猛然と斧を振るい始めた。枝をルジキニが断ち切る。

「イドゥナ、盾を頼む。」

こん棒を両手で持って、襲い掛かる枝に対応する

枝を折る、折る、折る

やがて、枝も根っこもない人面樹トレントは、たまにぶるるるんと振動するだけになった

「おい、こっちに来てくれ。」

声のした方に行くと、穴がある

ここから移動してきたようだ

穴をのぞいてみるとかなり深く、どこかに続いているようだ

「少し静かにしてくれ。」

地面に耳を当てる

「音はしない。」

穴の中を確認し、鼻を突っ込む

「少し臭う。蠕虫の匂いだ。」

ビセンテが言う

蒙古死虫モンゴリアンデスワームが出てくる可能性がある。速やかに移動する。」

あれから残りの木を全て確認したが、人面樹トレントは一本だけだった

斜めの人面樹トレントは放置された

継続して観察するようだ

「このあたりだろ。」

「いやこっちでごわす。」

ゼルズラを出発して8日目、ここは蛾人間モスマンを倒した場所だ

キングストンとルジキニが相談している

「ここは全部叩っ切る。」

いらだったカンプが宣言する

「待ってくれ、もう少しだ。」

キングストンが止める

「きっとここニャー、若木も生えてるニャー。」

ビセンテが言う

「ちょっと離れてくれ。」

腰ぐらいの若木が数本生えている

短剣で一つずつ枝を切る

3本目の木がおかしい

嫌がるそぶりを見せる

「これか、ちょっと掘ってみてくれ。」

土を掘っていくと、羽毛が出て来た

木の根っこが繋がっている

蒙古死虫モンゴリアンデスワーム蛾人間モスマン人面樹トレント、これらは繋がっている。そして、おそらくジョリジョリも。」

ビセンテの言葉に一同は沈黙する

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