第14話

カンプの話は長い

「実際は、おめえらみたいな獣人が隊商を組んでやっている。アガルタの連中は穴の外に出ないからな。」

「?」

質問しても理解が追い付かないし、とりあえず黙っとく

「外に出ないというか、出ることができないわけだ。ボンボネーラからは木材や骨と皮を貰って、こっちは塩とか道具とかを提供している。」

そこでカンプは周りを見回す

遠くに、働いている獣人が居る

「こっから、大事な話をするか。」

ビセンテが付け加える

「まず、座ってくれ。みんな、今から言うことは機密事項だ。話を聞いた後は、ボンボネーラに帰還するまで一切黙っとくことだ。トラフォード、しっかり聞いて覚えとくように。」

「了解したでござりまする。」

キングストンの緊張が移った

カンプが話し出す

「この国、マウリティアと呼んでいる。元々は俺たちみたいな人間しか居なかった。海にパブロペトリの連中が住むようになり、それを参考にお前らのような獣人ができた。パブロペトリの連中を造ったのは宇宙から来た奴らだ。お前らを造ったのは俺たちだ。遠い遠いご先祖の話だ。もっとも宇宙から来た奴らと俺らのミックスがパブロペトリの連中で、俺らと動物のミックスがお前ら獣人だ。しかし、この3つは結婚しても子供ができねえ。そっから色んなことがあった。病気、大気候変動、飢饉、戦争。世界の生き物はほとんど滅亡した。俺らは地下に住むようになった。地下で生き延びたが、それも限界に近付いている。」

「どういうことでおじゃりまするか?」

キングストンが緊張に耐えかねて質問する

「俺らも色々試みたが、最後の計画が失敗した。…ってこれはトップシークレットだ。忘れてくれ。俺の体は、ほとんどが機械だ。アガルタの他の連中も似たようなもんだ。機械が壊れて直せなくなる日は近い。もうあいつらはやる気がない。酒に溺れているだけだ…。」

ビセンテが沈黙を破る

「いいか、カンプは英雄だ。我々に協力してくれる。」

「まあ、そんな大そうな事でもねえよ。あいつらは外に興味を失ったが、俺はまだ興味がある。」

畑の見学を終えて、建物の裏手にある巨大な山に向かう

「ここがアガルタ、というか、穴があって、仲間が住んでいる。元は洞穴迷宮ダンジョンだった。」

カンプに言われたそこは穴がいくつか開いている

ふと見ると金属色の何かが岩に埋もれている

「そいつは機械人形メタルゴーレムだな。引っ越した時からそこにあったな。」

カンプが言う

「ちょっとこっち来い。」

連れていかれたところは大きな穴だが、奥は金属色の扉のようなもので閉じられている

その横にも小さな扉があり、使い方のよく判らないようなものがいくつかある

カンプは椅子に座り、そのうちのひとつを手に取り、金属兜を脱いで別の全体を覆う兜をつける。何やら手で操作している

大声で叫ぶ

「ここは、穴の中のものを出すときに使うやつだ。基本、人間は出ることしかできない。中に入れるものは殺菌、消毒で生き物は死んじまう。そうら、これでいい。」

しばらく待つと小さな扉が開いて目玉と何かが出て来た

「これは見た目だけ人間の目ん玉だ。とりあえず、こいつを入れとけ。」

目玉を受け取った

「これは航空眼鏡用だ。」

透明な丸い板を受け取った

カンプが大きな声で叫ぶ

「ここから木材や皮と骨を入れている。まあ、使うことはないと思うが。」

「使うことはないというのは、どうしてですか?」

好奇心で聞いてみる

「穴の中はせめえ、大きいものをそのまま入れるのは邪魔なんだ。獣人に切ってもらってから中に運び込む。」

館に戻るとビセンテが言った

「明日はボンボネーラに向かって出発だ、食事にはもう少し時間がある。各自準備をして休憩だ。」

キングストンに言う

「ちょっと手伝ってくれ。義眼を入れる。」

右目の傷跡を見てもらう

「どんな感じだ。」

「そうだなあ、特に出血もねえし、いいんじゃね?」

なんか適当な返事が返ってくる

「そのまま入れていいのか?」

「入りにくいな。」

「汚れてねえか。」

「洗うか。」

「口の中に入れるって。」

死角から声がする

「何してますの?」

ヴィラに問い詰められる

冷たい目が向けられる

まるでゴミでも見るかのように

慌てて義眼を取り出す

「あっ、いや、玉をしゃぶってました。」

眉をひそめたヴィラはやがてしゃべりだす

「しょうがない人たちですね、ついて来てください。」

ヴィラに連れられてどこかの部屋に入る

ヴィラは何かを取り出して差し出す

「カンプ様の秘蔵の蒸留酒です。誰にも言ってはいけません。」

容れ物に液体が入ってる

「これに入れてください。」

「えっ。」

「早く義眼を入れてください。」

義眼を入れる

「横になって。」

指示されたとおりにする

しばらくたったら顔の上に差し出される

「ご自身で右目を開けてください。そのあと少し沁みるかもしれません。合図をしたら義眼を入れます。」

「キングストンさん、トラフォードさんを押さえつけてください。」

「おおっ。」

「入れます。」

「グアアーッ。アーッ。」

食事の席でビセンテが宣言する

「明日は出発だ。今日の麦酒は一杯だけだ。」

「「「そんなーっ。」」」

怒号がとどろく中、隣のキングストンに言う

「酒はもういい。さっきの十分だ。」

「俺が貰ってもいいか。」

キングストンが喜ぶ中、カンプの声が聞こえる

「明日からおめーらに同行することになった。よろしく頼む。」

隣にサンティがいる

「俺は出張するが、あとはこいつに任せる。」

食事は昨日と同じメニューだった

サンティが一人一人に声をかけている

カンプは既に酔っている

「サンティさん、トラフォードです。」

「よろしくお願いする。」

「いくつか教えてほしいことがあるのですが。」

「そうか、よろしい。挨拶が終わったら、話をする時間がある。少し後でな。」

急いで残りの料理を平らげる

「どーすんだー、トラフォード。」

「知りたいことがある。」

軽く酔っぱらいをあしらう

やがて、サンティがやってきて、声をかけて来た

「来たまえ、トラフォード。」

後をついていく

部屋に入るとサンティが椅子に座る

「座るといい。」

この部屋は机と椅子、棚しかない

物が少ない

ヴィラに案内された部屋はいっぱいモノがあった

「サンティさんは見た目がカンプさんと似てますよね。」

笑って答えがくる

「ああ、アガルタの住人は同じ規格の体だ。もっとも、わたし自身は穴の中だが。」

「教えてもらっても良いですか。」

「特に隠すこともない。我々は地上で生きていけない。大昔に、地下に避難したんだ。いろいろあってね。」

話は続く

「いろんなものが足りなかった。というより何も無かった。知恵をあつめて、地下に適応したのだ。食料不足には、自らの体を小さくすることで対応した。病原菌や汚染物質にはクリーンルーム化で対応した。閉鎖空間で生きられるよう、自らを生物学的、機械的に改造した。」

「すいません。話が難しいです。」

「そうだな、この体は人形だ、本当の私は地下深くに居て、この人形を操っている。」

「夜中に会ったとき…。」

「知っている。記録を見た。この人形は自動で動いている。あれは機械が対応したのだ。」

「この世界、マウリティアに何があったのでしょうか?」

「そうだなマウリティア、正確にはこの星だが、壊滅的な危機が何度もあったのだよ。君ら獣人はその多様性ゆえ生き延びた。我々は文明を維持するため努力した。逃げたやつらもいたが…。」

「逃げた奴らとは?」

その問いに返事はない

「今まで生き延びてきたが、主役を君たちに譲って、我々は退出するかもしれないな。」

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