第13話
ルジキニに挨拶する
「いろいろ助かった。またここでな。」
キングストンが言う
「そうだ、俺が代わりに行ってくるからな。」
「トラフォードはいい顔になったでごわす。」
「ああ、俺ほどじゃないがな。」
「心配かけたな。」
「お前のおかげで死人は出なかった、右目には申し訳ないがな。」
「
鼻息が荒い
ルジキニは荷車を曳いて出発する
こちらも出発だ
木々の間を抜けて、草原や沼地を越えて行く
最初の休憩で樽を持って穴掘りに行く
「どうだ、隻眼になった気分は。」
「止めてくれキングストン。あいつほど強いわけではない。」
穴を掘る
掘り終わったら2人で並んで空に水滴を散らす
「
「ああ、お前が寝ている間に、周辺の
「斧で一発かましたら、反撃してくるのが
再び移動を開始する
距離感がつかみにくい
視界が狭い
早くなれないと
首を振る動きを繰り返す
片目の
アガルタへの旅は順調だった
たまに野良
時間があるときに航空眼鏡を修理する
左目専用になった航空眼鏡を着ける
周りの景色が変わってくる
砂漠から、草が増えてきた
近づいていくと、同じ種類の草が生えている
ある範囲で決まった草が生えていて、別の範囲で違う草が生えている
草の中に人がいる
何人もいる
やがて、大きな、木製の天幕?たくさんの木の柱と平板で造られたものの前で荷車を止める
ビセンテが大声で呼ぶ
「ボンボネーラから来たビセンテだ。カンプは居るか。」
「おーっ、今行くーつ。」
扉が開いて中から金属兜で髭だらけの男が出て来た
そいつは右目に航空眼鏡を着けていたが、左目は着けていない
いや、そもそもあれはなんだ
左目の箇所には金属の筒が顔から直接生えている
背は低いが上半身は驚くほどでかい
耳も爪も尻尾も毛もない
革でない服を着ている
長袖長ズボン手袋と靴、隙間から金属色が見えている
どういうことだ。本当に人間か?
全神経が左目に持ってかれて、会話は覚えていない
いくつかの倉庫に木材や皮、樽に入った骨、保存食を運び込む
そして、何かを荷車に積み込む
「よし、これで終わりだ。館に入るぞ。」
ビセンテの言葉で我に返る
巨大な館に入る
入り口すぐが相当広い
隊商の全員が入っても余裕だ
「おいサンティ、食事の準備はできたか。」
「うるせぇぞカンプ、とっとと食え。」
サンティは顔以外カンプと同じだ
しかし、その顔はカンプにとても良く似ている
両目とも普通の目に見えるが、どうしてだろう?
なんの違和感だ
横の扉を開けると大きな木製の台があり、人数分の椅子もある
カンプを先頭に中に入る
台には葉っぱではない皿があり、そこに何か載っている
さらに小さな樽、取っ手が付いたそれの中に液体が入っている
「みんな、席についてくれ。」
ビセンテの言葉に従う
カンプの席は端であり、両側にボンボネーラの人が並んでる
「知らん奴もいるだろうから説明する。パンと芋と野菜と麦酒だ。肉はないが、すきなだけ食べてくれ。乾杯だ」
カンプはそう言うと樽の中身を飲み始める
「なあ、トラフォード」
隣から声がする
「どうしたキングストン。声が震えてるぞ。」
「お前も震えてるぞ。」
両名とも人生初の酒だった
しばらくすると、地獄だった
「うおーっ、世界が揺れている。誰か止めてくれ。」
「頭がっ、割れる。頭が割れる。」
「
「ふごー、ごー。」
いろんな音がする
「キングストン。大丈夫か。」
「お前、葉っぱを食おうとしてるぞ、いや、皿か。」
「おっ、どうりでちと硬いと思ってたわ。」
「お前も何で航空眼鏡をしゃぶっている。」
「肉がないのが寂しい…。」
カンプが叫ぶ
「はあっ、これぐらいで酔うたあ、何のために肝臓があるんだぁ。もっと飲め。」
サンティが部屋に入ってきて言う
「はい、もう終わりです。奥の部屋で寝てください。」
ビセンテが命令する
「みんな移動しろ、寝るぞ。」
次の日、寝台の上で目が覚めた
寝台で寝ろと言われたような気がする
隣を観ると寝台の上ではなく、床にキングストンが寝ている
寝台の上にはいつも身に着けている背嚢とか革のベルト、外套が置いてある
起きだして扉を開けて部屋の外に出る
出入口の側に行くとサンティが声をかけてくる
「おはようございます。どのようなご用件でしょうか?」
「あっ、あの、便所です。昨日も行きました。」
「お食事があります。食堂でお待ちください。」
そう言えば、夜中も同じような会話をした気がする
長い廊下の先にそれがある
片方の扉しか開かない
これまた広い部屋で、床に穴が空いてたり壁に穴があったり、座るようになっているが穴が空いていたりする
一応、簡単な仕切りがある
外に出られる扉があるのも昨日確認した
キングストンの様子を見に戻る
半数以上は居ない
キングストンはまだ寝ている
「起きろ、起きろキングストン。」
寝たままだ
仕方がない
「起きろ、
「ウォーッ」
飛び起きたキングストンは、あたふたしている
「トラフォード、俺の槍を知らないか?」
「落ち着け、安心しろ。
やがて、正気に戻ったキングストンは身支度をする
やっと食事だ、麦酒ではなく別の温かい液体が用意されている
それ以外は同じものだった
カンプとビセンテは何かを話し込んでいる
ヴィラもいる
温かいものを飲む
美味い、これは、そうだ塩味だ
塩、どうして知っている?
「トラフォード、どうした。」
「いや、何でもない。」
「トラフォード、ちょっと来てくれ。」
ビセンテに呼ばれた
「彼が例の。」
「そうかお前か。」
カンプに紹介された
ビセンテが続ける
「トラフォードの右目は怪我で摘出した。カンプのような義眼、その左目は装着できないか?」
「ん~、それは無理だな。そうだな、治療法はお前の右腕のようにするしかないな。」
「やはりそうか。」
腕を組んで考え込むビセンテ
そんなことより食事が気になるのだが…
「今日は休暇を兼ねてアガルタの見学だ、全員しっかりと勉強するように。」
ビセンテのそんな言葉のあと、カンプの大声が響く
「まあ、大したもんもねえから気楽にな。」
そうなのか、カンプとビセンテの後ろをトボトボと歩いていく
外の広大な畑を見学する
「ここは見ての通り作物を育てている畑だ。昨日の食事で食べてもらったものは、畑で育ったものから作ったやつだ。」
確か、そんなことも会話に出たかもしれない
「小麦、大麦、根菜、芋、葉っぱもの、あとは肥料になる植物だな。」
肥料?なんだそれは
どういうことだ
「肥料は、何種類かあるが、これは窒素、簡単に言うと肉のもとになる成分ってことかな。」
ここは
「肥料のほとんどはパブロペトリから手に入れている。」
キングストンが反応する
「質問があります。カンプ殿。」
「おぉ、なんでもこい。」
「パブロペトリとはなんでござりまするか?」
キングストンは緊張してるな…
「あいつらは、家守、いや蜥蜴みてえなやつだ。あぁ、鱗とでかい尻尾のやつらだ。海に住んでる。」
「海とはいったい…。」
「大きい湖だ、キングストン、話が進まんぞ。」
ビセンテの一言が飛び出す
「あいつらが肥料と塩、こっちは食料と酒を交換している。」
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