第12話

ビセンテがゆっくりと近づいてくる

「トラフォード、ルジキニから聞いたことは本当か?」

「たぶん、あれです。となりに石をぶつける的にしてた木があります。」

「噂で聞いたことがある。人面樹トレントだ。木の怪物。だが、それが蛾人間モスマンの夜襲とどう関係する。」

「わかりません。確かめるなら準備してからです。」

「そうだな、待ってろ。」

ビセンテが連絡をするため天幕へ移動する

「待たせたな。」

ビセンテが戻ってきた

「寝ている奴はみんな起きた。警備中のものには連絡済だ。もういいぞ。」

ゆっくりと立ち上がり、木に近づく

あと数歩のところで、隠し持っていた斧を振りかぶる

ギーッ、バサッ

ガキン

斧が幹に食い込む音と吠える声、飛び立つ音が交錯する

蛾人間モスマンだ。備えろ。」

ビセンテが大声で叫ぶ

斧を手放して全力で逃げ帰る

すぐ後ろに蛾人間モスマンがいる

飛翔音が近づく

地面に体を投げだす

直ぐ上を飛び去って行く

ビュッ

誰かが石を投げている

起きだして走る

「トラフォード。」

ルジキニがこん棒を投げる

受け取る前に首を振って確認する

灰色の蛾人間モスマンが迫っている

受け取りざま、後ろに振り回す

蛾人間モスマンには当たらない

蛾人間モスマンをけん制しながら後退する

ビュッ、ビュッ

ルジキニが投石している

守備網まで下がる

何人かが大楯を上方へ掲げ、何人かが長槍で突こうとしている

蛾人間モスマンが10匹以上はいる

降下してきた蛾人間モスマンに手が伸びて短剣が突き刺さる

「?」

隣にはビセンテがいる

彼の右腕は、長く伸びて空中の蛾人間モスマンの腹を刺している

何だ、どういうことだ、肘が三つある

「止めを刺せ。」

こん棒を両手で握って跳ぶ

あがいている蛾人間モスマンにこん棒をぶち当てる

地上に墜ちたやつにはルジキニが駆け寄る

「トラフォード、離れるな。」

大楯の側でこん棒を振るう

おかしい、蛾人間モスマンが集中しているような気がする

褐色の蛾人間モスマンがこん棒をかいくぐって襲ってくる

やっぱりおかしい

蛾人間モスマンはヤバい顔だったはずだ

またもや三つの肘が伸びて蛾人間モスマンの胴に穴が空く

寄ってくる蛾人間モスマンにビセンテの短剣やルジキニの投石が効果をあげている

「おい、人面樹トレントをやるぞ。」

こん棒を2本持ったキングストンが居た

「ルジキニ頼む。」

まだ数匹、蛾人間モスマンが空を舞っている

ルジキニとキングストンが近くまで迫っている人面樹トレントに向かう

人面樹トレントの枝が動く、ルジキニは躱す

キングストンはこん棒で受ける

ルジキニは幹に刺さったままの斧に取り付いて、次の瞬間には斧を持って離れた

ルジキニが斧を叩き込む

キングストンは枝の攻撃からルジキニを守る

2人は振り下ろされる枝を避けながら、斧を振るう

幹の周りを動いて攻撃を避けている

そうしてるうちに、こん棒を振るい、寄ってくる蛾人間モスマンをせん滅した

人面樹トレントに向かう

「援護する。」

枝の攻撃に、隙を見て跳び乗る

爪を立て、振り落とされないようにしながら、より上に登る

こん棒で手当たり次第に枝を叩き折る。


ヴィラは蛾人間モスマンに止めを刺していた

1匹1匹、首を短剣で深く切り裂く

ズドドーン

大きな音がして、振り返ると人面樹トレントが倒れている

「怪我している。大丈夫だ。息はある。」

「枝を切れ、早く引きずり出せ。」

「何てこった。枝が刺さっている。」

声が聞こえる

駆けつけると、倒木の枝にからまったトラフォードがキングストンとルジキニに救出されていた

トラフォードはビセンテのもとに運ばれる

「意識がないな。」

ビセンテが様子を見て言う

「問題は右目だな」

小刀で航空眼鏡の革を切って注意深く外す

「松明をもっと近くに。」

誰かが松明を近づける

「ビセンテ様、いかがでしょうか。」

ヴィラの質問に答えず、ビセンテは充分に時間をかけて観察する

「枝を抜く、だれか頭を固定してくれ。」

トラフォードの頭が押さえられ、ビセンテが枝を掴むと一気に引き抜く

枝から血と、目玉だったものが垂れ墜ちる

ビセンテはトラフォードの右目の穴をのぞき込む

「枝のかけらはなさそうだ。命は助かるだろう。」

周囲から安堵のため息がもれる

「止血の作業をたのむ。」

ヴィラは薬を塗り、傷を覆う

キングストンが言う

「あのこん棒は蠕虫を見失った木立ちで拾ったものです。」

「そうなのか?ルジキニ。」

「いかにもうぅ。」

「ビセンテ様、どういうことでしょうか。」

蛾人間モスマン達はあのこん棒に戸惑っていた。そして人面樹トレント、動く木の怪物。蒙古死虫モンゴリアンデスワーム

「あのこん棒は人面樹トレントの枝だろう。蛾人間モスマン人面樹トレントと共闘していた。人面樹トレントに隠れて夜襲をかけようとしていた。蛾人間モスマンは卵を産み付け、それは蒙古死虫モンゴリアンデスワーム人面樹トレントもそれらから発生しているのだろう。」

しばらく考えてビセンテが言う

「よし、続きは朝からだ。もう少し寝られるだろう。警戒を怠るな。」


目が覚めると、いや正確には左目を開けるとヴィラが居る

「これは、いったい何が起きた。」

右目がひどく痛む

頭も割れそうだ

「あなたは人面樹トレント戦で負傷しました。」

冷静に続きが語られる

「右目が枝に突かれ、眼球は摘出されました。あなたは右目を失いました。骨折等はないと思いますが、体に異常はありませんか?」

「確か、人面樹トレントに登って戦っていた。その後は思い出せない。」

「ゆっくりしてください。移動は明日になりました。」

「すまない。」

人面樹トレントを見つけて焼却することになりました。みなさんが探索しています。手当てします、少しは楽になるでしょう。」右目にヴィラが手を当てる。気のせいか痛みが引いたような…


次の日は爽快な目覚めだった

右目が無いことが、信じられない

側にある航空眼鏡を見る

「ビセンテさん、おはようございます。」

「どうだ、体の調子は、右目以外で。」

「荷車は曳けそうです。食事すれば。」

「そうだな。食事しながら話そう。」

保存食を齧りながら話す

「君は運がいい。それに命を救われた。その航空眼鏡だ。」

とりあえず腰につけていたそれを指摘される

「そうなんですか。」

「それがなければ、脳まで貫かれていたぞ。」

「父の形見です。」

「そうか、右目も治らないわけではない。」

ビセンテは外套をめくって、肘が3つある右腕を見せる

「それは何ですか。全然知りませんでした。」

「特に言いふらしている訳ではないからな。」

穴が空くほど見つめられたからであろう

苦笑いして言う

「あまり期待するんじゃない。肘が痛むんだ。」

ヴィラがやってきた

「ビセンテ様おはようございます。」

「おはよう。トラフォードはお礼を言ったほうが良い。回復が早いのは彼女のおかげだ。」

「えっ。どういうことでしょうか。あ、おはようございます。とにかく、ありがとうございました。」

「おはようございます。ビセンテ様、昨日の計画通りでしょうか?」

「そうだ、ルジキニは帰還する。残り全員はアガルタへ向かう。」

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