第10話

愛用の航空眼鏡を着ける

久しぶりの外套もだ

荷物は荷車に載せた

ついに出発だ

「いいか、最終確認だ。充分用心し、何かあったら大声で知らせろ、以上だ。出発しろ。」

ビセンテが大声で言う

先に動き出す荷車を観ている

通常の荷車には10日分の食料と交易品が積んである

あとは個人の武器その他

「キングストンはアガルタに行ったことがあるのか?」

「ないぞ、砂漠湖までならある。」

キングストンとルジニキは食料のみの荷車だ

砂漠湖までの食料が積んである

「いくでごわす。」

ルジニキが動き出す

「俺も行くぞ。」

キングストンが続く

「さあ、あなたも出発よ。」

ビィラに促される

振り返ると、ビィラの荷車、後ろにビセンテ、あと数台の荷車が待機している

両腕に力を入れて荷車を動かす

少しの抵抗の後、ガタゴトと動き出す

道のおかげでさしたる抵抗もなく荷車は動く

真っ直ぐな道というわけにはいかず、道にしやすいところを工事したのであろう

少しだけ右に曲がったり、左に曲がったり、岩だらけの場所を進んでいく

ボンボネーラを離れると緑など無くなった

かなり歩いた後、大声が響いた

「休憩だ。準備しろ。」

そこは珍しく木が数本生えている

「トラフォード、穴を掘るのよ。」

ビィラが言う。木の向こう側で、穴を掘る

「キングストンそろそろいいか?」

「こんなものだろう。」

2人で並んで黄色い液体を放水する

「固形物はいいのか?」

キングストンが笑って言う

「朝済ませてきた。」

苦笑いとともに答える

「俺は樽を持ってくる。見張りを頼めるか。」

「分った。」

周りを見ているとビィラがやって来た

「トラフォード、ちょっと離れください。」

「…分かりました。」

林のところに戻るとキングストンが樽を抱えている

「もう一度教えてくれ、中身は何だったかな。」

卑小鬼ゴブリンだったものの残骸だ。」

後ろのビセンテが説明する

「少しでも木を増やすこと、これも大事な目的だ。」

顔を引き攣らせて言う

「ちょっと時間が必要だから、ここで待っててくれ。」

歩き方が変だ

ヴィラが戻ってきた

「ビセンテ様は、おなかの調子も整えています。あなたたちも移動中にできるようにしてください。」

「…それはちょっと。」

「戦いがあったら漏らしますよ。」

キングストンが正論を吐く

みんなが用を済ませた後、樽から小骨や皮の切れ端を穴に投げ込み、土を被せる

「なあキングストン。」

「ああ」

「ちょっと後悔してる。」

「こんなもんだ、すぐに慣れる。」

凄い臭気だ

「出発するぞ。」

大声が聞こえる

食べていた保存食を手に取り、水筒を一口飲んでキングストンに渡す

「助かった。」

「良いってことだ、砂漠湖まではこっちの荷車を軽くしてくれ。」

自分の荷車に戻ろうとしたとき、別の声が聞こえる

蛾人間モスマンだ!」

観ると3匹はいる

荷車から武器をとる

キングストンは長槍を持って来た

「トラフォード投げろ。」

分厚い皮袋から石ころを取り出し、蛾人間モスマンに投石する

ビュッ

外した

距離と速度、角度を調整して次を投げる

ビュッ、ガッ

うまい具合に頭に命中し、褐色の個体が落ちてくる

数回投げたが、それ以降は当たらなかった

しかし、残りの2匹は赤い目を光らせながら去っていった

蛾人間モスマンの落下地点に行くと、こと切れた蛾人間モスマンと槍を持ったキングストン、何人かが集まっていた

ビセンテが言う

「腹を裂いてくれ。」

キングストンが槍で腹を開く

いろいろなものがこぼれてくる

やがて、卵がでてきた

何個もでてくる

ちょうど手に持てるぐらいのそれをビセンテが指差し言う

「槍で切るんだ。油断するな。」

キングストンが慎重に穂先を当てて、卵を一気に切断する

真っ二つになった蠕虫が現れる

が、それはビクビクと動いている

「気味が悪いな。」

「もっとだキングストン。」

「ああ、判ってます。」

ザクリ、ザクリ、一見無造作にみえるが、丁寧に細かく刻んでいく

「みんな、他のも頼む。用心してやるように。」

小刀を取り出してやろうとするとヴィラに止められる

「小刀では危ないわ。」

小刀をしまい、こん棒で卵を狙って振りおろす

ブチャ

卵は潰れた、が、半分ぐらい潰れた蠕虫が飛び出す

次の瞬間、どういうわけが、顔面目掛けて飛びあがってくる

ビジャッ

短剣が蠕虫を貫いている

「あなたは幸運ですわ。」

そう言うとヴィラは2本の短剣を操って、蠕虫を細切れにする

「ありがとう、きっとそうなんだろう。」

どこかで嗅いだような匂いがする

蛾人間モスマン卑小鬼ゴブリンの残骸と一緒に埋められた

毒を持つらしい

…食べなくてよかった

最初の野営地でキングストンやルジキニと食事をする

「トラフォード知ってるか。隻眼の犠牲者は23名らしい。」

「それは氾濫のときの…。」

「ああ、あの日の犠牲者だ。」

「もうっとでごわす。」

「ああ、氾濫のちょっと前から未帰還の者たちが増えていたからな。」

「何か、別の方法があればな。」

「どういうことだ?」

「…分からない。」

「ん、トラフォードはやっぱり変なことを考えてるな。」

「そうだ、ジョリジョリの件はどうなったんた?」

「グディソンやモイシュが調査を続けている。時間がかかりそうだ。結局、隊商の出発までに次のジョリジョリはなかったからな。」

「じゃあ、俺とルジキニは夜間の警戒だ、お前はしっかり寝とけよ。」

翌日、早いうちに起こされる

「トラ、起きるでごわす。」

「お、おはよう。」

「次の穴を掘るでごわす。」

道具を持たされ、離れた場所に向かう

ルジキニは樽を持っている

「とりあえずここにするか。」

一緒に穴を掘る

「するでごわす。」

促されて、朝の日課をする

「朝飯にするでごわす。おいは、すでに食べ申した。食べたらだすでごわす。」

ルジキニは少々時間が必要そうだ

食事を取りに行く

「出発する。」

食事を終えて準備を整えてしばらくすると、声が響いた

ガタゴトと移動を開始する

灰色の薄暗い空、岩と砂の大地。風が吹くと砂塵が舞う

ごくたまに緑が茂る

まだ2日目だ、先は長い

8日目の食事中にキングストンに聞いてみる

「なあ、蒙古死虫モンゴリアンデスワームなんだが。」

「ああ、蠕虫がどうかしたか?」

蛾人間モスマンから生まれるのは分かった。」

「そうだな、卵の中身を見ただろ。あれのでっかいのが蠕虫だ。」

「蠕虫の最後はどうなる?」

「最後?」

卑小鬼ゴブリンみたいに草木が生えるのか?」

「それは、…どうなるかは聞いたことないな。」

「そうか、じゃあ蛾人間モスマンはどこから来る?」

蛾人間モスマンは、やっぱり洞穴迷宮ダンジョンからか?」

「そうなのか?」

「わからん。」

「何にもうわからんでごわす。」

ルジキニが口を挟む

「分ったことと分からんこと。分らんことの方が遥かに多い。」

キングストンが話を締める

翌日、歩き続けると周りの景色が変わってきた

砂と岩、まれに緑だった景色が、ちょっと緑が増えてきた

そして、砂から土と言うべきものへと変化してきた

赤い土だ。そろそろ野営かなと思われたころ、声が聞こえて来た

「ここで野営する。準備だ。」

林というにはおこがましい、何本かの木々ある場所だ

排泄場所の設置、天幕の設営、食事が終わる

だいぶ慣れた

睡眠中に、それは突然の大声で、まさしく飛び起きた

アアーオー

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