第8話

「少し話をさせてください。」

「どうしました、トラフォードさん。」

グディソンがこちらに顔を向ける

「ここに来る前、小さな洞穴迷宮ダンジョンに父と自分は居ました。そこは、他の人は居ませんでした。でも、父が言うには大勢居た痕跡があると。きっと、卑小鬼ゴブリン達にやられたに違いないと。」

「その洞穴迷宮ダンジョン豚鬼オーク卑小鬼ゴブリンがたくさん出てくるのかね。」

ビセンテが質問する

「そんなことはありませんでした。でも、たまに、信じられないほど、多くのやつらが湧いて出てくる、そんなことがあると、父が言ってました。」

氾濫スタンピードか。」

ヴィカレージが唸る

対策案が練り直された

広い訓練場の周りに、隠れている

あれから大変だった

洞穴迷宮ダンジョン出口を警戒しながら、大量に出てくるかもしれない怪物に備えた対策

ようやく準備が終わり、交代で警戒中だ

「トラフォード、来ると思うか?」

キングストンが小声で言う

「どうでもいいニャ。もう柵づくりは嫌ニャ。」

「お前には聞いていない。」

「自分も、鋸を引くのはこれっきりにしたい。…隻眼が来るかは判らない。だだ、イドゥナは気を付けろよ。」

「ニャ?」

「そうだな。卑小鬼ゴブリンにしろ、豚鬼オークにしろ、あいつらは男だ。」

「あいつらに誘拐されるなよ。」

「ニャニャ!」

「子供を産まされる、って話だ。」

「…皆殺しにするニャ。」

小さい音が聞こえてきた

やがて大きな音となり、卑小鬼ゴブリンが柵の間から、訓練場に入ってくる

駆け込んできたが、広いが誰もいないことに戸惑っているようでもある

訓練場も柵で囲まれている

豚鬼オークも出てくる出てくる

数十匹いる

訓練場の半分ほどが卑小鬼ゴブリン豚鬼オークに占められた

「矢を放て!」

ヴィカレージが開始の声をあげた

喚き声や怒声がとびかう

入り口には多くの矢が飛んでいき、倒れた卑小鬼ゴブリンがそのまま障害物となっていく

そこから少し離れたところに、柵を乗り越えようとする豚鬼オーク、その胸に長槍を突き立てる

引き抜いても、まだ倒れない

上方に狙いをつけ、もう一度突くと、喉に突き刺さる

血が溢れる

隣ではイドゥナが下から、卑小鬼ゴブリンの足に槍の穂先を突き立てる

よじ登ろうとする卑小鬼ゴブリンの首にキングストンが槍を刺す

そうやって、包囲を破られないよう、柵を死守する

どれくらい時間がたったのだろう

敵の数が半分以下になったころ、入り口近くで大きな音がした

「キングストン、隻眼だ。」


外へ向かおうとするものを殴って止めていたが、制止することはできなかった

地面に倒れたやつ、わっちの周りの取り巻き以外は外へ向かいやがった

どうする?

仲間を止めなければ

決して早くはない足で、外へ向かう

遠いな

足が重い

外が近い、明るい

なんだこれは、外への境をでても両側に壁がある

戦っている物音がする

進むしかない

矢が飛んでくる

仲間の死体が、山となっている

遅かった、もう止められん

死体の壁に突っ込む

片手に一体、両肩にも一体、合わせて三体の死体を身にまとう

死体の壁を乗り越えた向こう側は、多くの仲間がやられていた

逃げ場がない、引き返せない

片側の壁にあらん限りの力で突進する。


柵をぶち破った隻眼が、血まみれで卑小鬼ゴブリンの死体をぶん投げる

槍を持った男が直撃をくらい、動かなくなる

イドゥナが槍を投擲する

それは隻眼が掲げた卑小鬼ゴブリンに突き刺さる

「包囲を維持しろ!」

誰かが叫ぶ

「トラフォード、行くぞ」

キングストンが大楯を構えて前進する

自分も置いてあった盾に身を隠して後を追う

卑小鬼ゴブリンの攻撃を盾で受け止める

他にも大勢が、大楯で囲み始める

「このやろう。」

まだ息がある卑小鬼ゴブリンを踏みつけ、足爪で首に穴をあける

死体を越えて前に進む

「大槍を使え!」

たぶん、ヴィカレージだろう

大声で指示がとぶ

「盾を開けろ。」

斜め後ろに下がる

後ろから大槍が突き出される

邪魔をしていた豚鬼オークが力尽きて倒れる

前に進む

少しずつ押し込んでいく

卑小鬼ゴブリンに大楯を押し付ける

前からも大楯が迫って、挟まれたそいつはやがて動きを止める

「トラフォードぅ。」

前を見るとルジキニが居た

「もうっと押し込もう。」

しばらく粘った

次の豚鬼オークが倒れたところで、壊れた柵まで戦線を押し戻していた

「これで大丈夫だ。今から隻眼を追う。」

ヴィカレージが宣言する

トラフォードが目をぎらつかせて言う

「俺が行きます。」

ヴィカレージが命令する

「4人で1組だ、盾2つ、槍2つ、槍は多めに持っていけ。あと、大槍組を1つ連れてゆけ。絶対に隻眼を逃がすな。残り大槍部隊は範囲網の中をやるぞ。突入の準備をしろ。」

4人と1組が追跡の準備をし始める

隻眼を追う

包囲をやり直す間に、20人ぐらいは奴を追いかけたようだ

戦闘跡と、死んだ卑小鬼ゴブリン豚鬼オーク、負傷者が続いている

ヴィラが居る

「隻眼はどこ行った。」

キングストンが叫ぶ

「向こうへ、林の外へ向かってました。」


壁をぶち壊して、暴れまくった

そこから先は覚えていない

気づいた時には、林の外が見えていた

あれが本当に外なのか

暗い、じめじめした、狭く、ごつごつしたところとは違う

明るく、匂いが少ない、少し砂っぽいが、天井がない、壁もない、遮るものがない

背中に何か衝撃を受けて我に返った

周りを見るとわっちのしもべが誰もいない

振り返って、拳で殴ろう

次の瞬間、指などないことに気が付いた、片腕も肘から先がない

どういうことだ。


「奴ニャ、任せるニャ。」

イドゥナが小声で伝えると、槍を投げるため助走をつける

全身を反り返して、次の瞬間には物凄い速さで槍がとぶ

命中して隻眼が振り返る

自分とルジキニが大盾を持って移動する

奴が鮮血を振り撒きながら攻撃してくる

二枚の盾に押された隻眼は、前にでれない

「大槍いくぞ。」

キングストンの声がする

少し遅れて大槍が隻眼の腹に突き刺さる

隻眼が倒れる

イドゥナが槍を、隻眼の残った眼に突き立てた


胸と背中が熱い

目を潰された時と同じ感覚だ

残った腕を振り回すが、腹に衝撃を受けた

倒されたようだ、空が見える

灰色だが暗い洞窟とは違う広い大きい遠い景色だ

一瞬、柔そうで、大きくなくて、なめらかな感じの奴が視界に映った

あぁ、いい匂いがする

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