第7話
キングストンが大声で叫ぶ
「誰か、誰か来てくれ。人を呼んでくれ。」
ほっとして、足がゆるむ
「う~っ。」
「ルジキニ、どうした?」
見ると皮の防具に何か刺さっている
腹から出血している
怪我をしている
「矢が刺さってるニャ。どうして。」
キングストンは誰かと大声で話している
負けじと大声を出す
「ルジキニがやられた。手を貸してくれ。怪我の治療を。」
荷車が運ばれて、ルジキニを載せる
「運ぶぞ。」
「俺に任せろ。」
「こっちだ。」
何人かが手伝ってくれる
運ばれたのは割と大きい天幕で、荷車から台の上に載せられる
防具が外される
やがて、草か何かをすり潰したようなものが練り付けられる
葉っぱが当てられ、木の皮を薄く剝いたもので巻かれる
ルジキニは寝ている
外に出ると、イドゥナが居た
「ちょっと付いて来て。」
そこにはキングストンが何かを説明し、グディソン、ビセンテ、ヴィカレージが集まっていた
「話はおおよそ理解できました。どうも隻眼が余計な知恵をつけたみたいですね。」
「どうする。一応、装備的なものは準備が終わっているが。」
「ルジキニの離脱は他の人員を回すしかないだろうな。」
グディソンが言う
「トラフォードさん、少し予定が変わりました。隻眼を倒します。」
「怪我をするなよ。隊商のこともある。」
「ルジキニの分まで期待してるぞ。」
4人は再び頭を寄せ集めた
「さて具体的にはどうしましょうかね。」
「班の編成と役割まで決まっているのだろう、今すぐは無理なのか?」
「馬鹿を言うな。戻ってきてない人員もいる。総力戦だ、全員を投入すべきだ。」
「じゃあ、人員を見直して、明日の朝から突入でしょうかね。」
「朝の掃討作戦は決行するのか。」
「やつらか湧いて出たら退治せにゃならん。」
キングストンが言う
「あいつら出てきますかね。」
わっちは、穴の奥底から生じた
気づいた時には意識があった、外へ出たい、と
まず、はいずりながら外へ、出口へ
やがて立ち上がることができた
他のなにか、転がっている不定形な、流体か固体かわからぬようなもの
わっちと似たようなそれでいてわっちよりも小さい、何か
そういったものと一緒に外を目指す
空を飛ぶものも居たが、上から別の出口を見つけたようだ
いつのまに居なくなった
何か底知れぬほど大きな存在もいたが、そいつは外へ出る様子はなかった
なかなか外までたどり着けず、途中で腹が減ったら、何でも口に入れた。空気が変わって、外の世界が近くなったことを知った
そして外から来たあいつらに出くわした
はじめて出会った外から来たあいつらは情け容赦もなく、仲間を虐殺した
皆殺しだ
なんと常識知らずな、わっちらは食べる分しか殺さない
一番弱そうなものしか殺さない
そうやってここまで来た
あと少しで外のはずだ
このままでは死ねない
頭を殴られ、目をつぶされても死ななかったのは、一旦引くことを選択したおかげだった
外へ出たいが、それは今ではない
邪魔をするあいつらはなんなんだ
あいつらをどうにかしなければならない
あいつらが来ない深い闇まで戻って、傷が癒えるのを待った
外へ出たいが、このままでは無理だ
しばらくはあいつらを遠くから見るだけだった
やがて、あいつらと戦うようになった
負けそうになれば退く、勝ってあいつらを追い返すこともあった
よりいっそう、外へと望むようになったのは、何度目かのあいつらとの戦いのときだった
あいつらの中に、見たことない、別の何かが居た
今まで、あいつらを捕らえて、食事にしたことはあった
どれも固くて、大きくて、ごつごつしていた
しかし、その別のなにかは、柔そうで、大きくなくて、なめらかな感じがする奴がいた
これは是非とも手に入れなければならない
食べてしまいたいほどに欲しい
そのころには、忠実なしもべと呼べるような者達ができた
一緒に居て、一緒に行動すれば、生きて、生き続けられる
弱ったら、残念ながら、文字通り仲間の血と肉になってしまう
だが、弱いものは、そうなるのが当然だ
少々犠牲があっても外へ出たい
是が非でも行かなければならない
そのためには、そいつと居ることが、最も適したことだ
それがしもべ達だった
しもべ達も、そいつが戦い以外の何かを欲していることを匂いで察した
外へ出ることに加えて、柔そうなやつを手に入れることも、目的となった
数多くの戦いを学び、あいつらは規則的に攻めてくることを知った
初めて外への境にたどり着いた時のことをよく覚えている
その近くは、壁が光っていて、境の何かは、岩でも土でもなく、あいつらの武器に使われているものに似ている
正直、あんな武器など使う意味もないと思っていた
片目になったが、長生きして大きくなった体は、あいつら一人ぐらい腕の一振りで始末できる
しかし、自らの周りを見渡すと、小さい貧弱な体ばかりだ
わっちだけではダメなのではないか、武器や他のやつらにも利用価値がある
何度か外への境に挑戦した
外にいるあいつらは思ったより手強い
あるときは仲間を盾にして身を守った
その後は、体中に刺さったあいつらの武器を仲間に抜いてもらった
もっと仲間を集めて、もっと武器を集めて、もっと賢くあらねば
そこで始まったのが前後からあいつらを挟み撃ちにする作戦だ
きっかけは、どうすればよいのか歩きながら考え、うろうろしていたときだ
良い考えも浮かばないまま諦めて、奥のねぐらに戻ろうとしていた
分岐で曲がっときにあいつらを発見した
あとは大声をあげて、それから一方的だった
奥の仲間も現れ、大勢であいつらを狩った
そうさ、大勢で、みんなで取り囲め
ここしばらく、おかしい
どうしたことだ、あいつらが来ない
この前取り逃がしたのが不味かったのか
あいつらの中に、柔そうで、大きくなくて、なめらかな感じがする奴がいた
気を取られて燃えるものをぶつけられ、狩り損ねた
どうする
仲間の数も増える一方で統制がとれない
当然か、奥から次々と押し寄せてくるのだから
若いやつらに我慢させることなどできない
ぶん殴って、蹴りつけて、ただじっと待っていることを強制させた
歯向かうやつを食料にもしたが、限界だ
一匹が、出口目指して走り出した
取り逃がした。次いで数匹が、逃げ出す
どっちつかずだった連中も外へと向かう
わっちの側のしもべ達もそわそわして、少しずつ離れていく
「ウガゴア―ッ。」
全力のけん制も無駄だった
わっちを無視して出口へ殺到する
違う、外に出るな
狩られてしまう
もっと準備が必要なんだ。
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