第6話

数日がたった

2本のこん棒でキングストンとやりあえるようになったころ、大勢が荷車に何かを載せて来た

グディソン、ビセンテ、ヴィカレージが居る

「皆さん、ちょっと集まってもらえますか。」

「これが大楯だ、使い方を説明しよう。」

「キングストン、お前の発案だ、お披露目しろ。」

キングストンは前にでて、大楯を荷車から取り出す

それは人の背丈より大きく、板を組み合わせて作られている

「この大楯は、背中に担いで移動できる。」

背負えるようになっており、体の前で地面に突き立て、両肩で支えるようにも出来ていた

「敵の攻撃をこうやって受け止める。」

なぜかルジキニが移動している

「ルジニキ、頼む。」

「わがった。」

全力で走りこんで、肩からぶちかます

ガズンッと鈍い音が響くが、跳ね返されたのはルジキニだった

「「「おおっ!」」」

どよめきが聞こえる

「これも紹介しよう。」

ヴィカレージが指し示すのは小さな荷車に載った丸太だった

しかし、それは何人かで持つように取っ手がついており、先端には刃が取り付けてあった

「見ての通り、複数人で扱う大槍だ。」

ヴィカレージが叫ぶように言う

「この大槍と大楯で“隻眼”を倒す

これから実戦形式の訓練を行う

まず、大槍班は…。」

片目の豚鬼オークは隻眼と名付けられた

「トラフォード」ビセンテとグディソンが近寄ってきた

「出発が決まったのです。ドクター,ビセンテ,カルデロンの指示に従ってください。」

ビセンテに連れられて、ひときわ大きな天幕に入る

木で作られた棚があり、所狭しといろいろなものが置いてある

使い道が全く分からない物がほとんどだ

「ビセンテ様、お客様ですか。」

入り口から声をかけられる

「そうだヴィラ、彼がトラフォードだ。」

「トラフォード様、私はヴィラと言います。」

ヴィラは、茶色い短毛、少し大きめの垂れた耳をした青い瞳の女だった

「彼女は、そうだな、いろいろと手助けしてくれる優秀な人材だ。細かい話は彼女に聞いてくれ。」

「分りました。お任せください。」

「ヴィラさん、お願いします。」

ヴィラの丸い瞳が一瞬だけ大きくなったような気がする

大きい幕屋、そこを工房というらしい、そこを出てヴィラから説明される

「こちらから持ち込むのは、木材、骨、皮、干し肉です。アガルタからはいろいろな道具や物資、塩を受け取ります。」

「塩?」

「食べ物の調理に使うものです。」

「塩か、調理した時に見たあれは。」

頭の中に、焼豚鬼オークが浮かぶ

「…、話を元に戻します。荷物を荷車に載せて、約10日ほどで中継基地に着きます。」

「中継基地?」

「はい、水等を補給して、さらに10日ぐらいの移動でアガルタに着きます。」

「自分の役割は荷車を引くことか。」

「それもありますが、交代で護衛もします。」

「護衛、敵がいるのか?蛾人間モスマンか。」

蛾人間モスマンもそうですが、中継基地付近には虫がいるのです。」

「虫?」「虫、蒙古死虫モンゴリアンデスワームです。」

「それはいったい、どんな虫だ。」

ヴィラはちょっと嫌そうな顔をしてから詳しい説明を始めた

それは、動くものなら何でも食らう危険なもので、大きさも人を丸呑みできるくらいのものが居るらしい

「とりあえず、危険な旅になりますわ。あなた、卑小鬼ゴブリンとか豚鬼オークに勝てるのかしら。」

「…豚鬼オークは、判らないな。」

キングストンに相談し、キングストンはルジキニに相談し、休みのイドゥナを連れ出して、洞窟にやってきた

ルジキニは手に皮のグローブ、自分は2本のこん棒、キングストンとイドゥナは短槍だ

全員が防具を身に着けて、干し肉と皮の水筒を背嚢に、少しの道具と一緒に入れている

「せっかくの休みだったのに~。」

「どうせお前は寝てるだけだろ。」

「キングストンは働きすぎニャ。訓練し過ぎで頭が筋肉ニャ。」

「それは良いかも。」

なぜかルジキニが嬉しそうに答える

「いいか、目的はトラフォードが集団戦に慣れること、あとくれぐれも無用な危険は避けること。」

「隻眼が居てもか。」

つい口をはさんでしまった

「強敵がいるばあいは、速やかに撤退する。」

ついに初めてボンボネーラの洞穴迷宮ダンジョンに入る

どうなることか

扉の前の守備班に確認する

「キングストンとルジキニ、イドゥナ、トラフォードの4人だ。」

「気を付けろ、今は3つの班が行動中だ。昨日から一組、未帰還の班が居る。」

「判った。ありがとう。」

キングストンとルジキニが前で、少し離れて自分とイドゥナだ

「この前まで出入りは記録がなかった。」

キングストンが言う

「獲物の数を記録するため、始めてもらった。」

「キングストンの提案ニャ。」

守備班から渡された松明を自分が持つ

割と歩きやすい

それほど凸凹してない

壁が少し光っている

「これは光苔ニャ、うちらが張り付けて増やしたニャ。」

「静かにしろ、音が聞こえない。」

ルジキニが行き先を身振り手振りで指示し、ときたま地面をキングストンが確認している

耳を当てている

腐臭がする

ひどい匂いだ

洞窟は4人が手を伸ばして並べばいっぱいになるぐらいの幅で、高さは幅よりももう少し高い

分かれ道がいくつもあり、どういうわけか十字路になっているところもある

そのたびにキングストンが足跡らしきものを確認し、様子を伺う、ルジキニと相談し、先に進んでいく

松明は大丈夫だろうか、これまで軟粘涅スライム以外には出会ってない


不意にイドゥナが立ち止まった

キングストンが立ち留まる

ルジキニと自分も止まって辺りを見回す

「待ち伏せニャ!」

「何かおかしい。撤退だ、引き返すぞ。」

「「「ギジッ」」」

前方に隠れていた卑小鬼ゴブリンが立ち上がり、こっちに向かってくる

5、6匹ぐらいか

キングストンが槍でけん制しながら後退する

引き返そうとする自分とイドゥナの前にあいつが現れる

「奴だ、隻眼だ!」

「ヤバいニャ、キングストン!」

卑小鬼ゴブリンも一緒だ、6匹いる。2匹が両脇、後ろに4匹か

「キングストン、自分が“飛ぶ”、ルジキニは先行、イドゥナ援護してくれ。」

一瞬だけ振り返ると、キングストンと目が合った

1匹の卑小鬼ゴブリンが、顔を血まみれにしている

地面に伸びているのが2匹、だが、まだまだいる

反論がない、実行あるのみ

「ルジキニ頼む!」

ルジキニが隻眼に向かっていく

自分も走る

ルジキニが奴の左目に見えるように回り込もうとする

隻眼は体をずらす

自分は反対側に、走りこむ

勢いを殺さぬように、隻眼の死角側に跳び、壁を蹴る

卑小鬼ゴブリンが反応したところに、槍が飛んでくる

そいつは槍を食らって倒れる

着地時に別の卑小鬼ゴブリンの胸を狙い、足の爪をぶち込む

イドゥナが後ろから走り込みながら渡していた松明を隻眼の頭めがけて放り投げる

一瞬だけ隻眼は躊躇した

ルジキニは卑小鬼ゴブリン2匹を殴りつけて包囲を突破した

キングストンは前後から卑小鬼ゴブリンにはつかみ掛かられている

隻眼が動く

自分は2本のこん棒を振り上げながら跳び、隻眼の振り下ろされた腕にこん棒をぶち当てる

その剛腕にこん棒ごと吹っ飛ばされ、キングストンと卑小鬼ゴブリンをなぎ倒す

「いてえ」

「早く逃げるぞ。」

卑小鬼ゴブリンを相手にしていたイドゥナとルジキニに合図して走る

卑小鬼ゴブリン達を振り切った、分かれ道から次々と卑小鬼ゴブリン達がでてくる

相手にせず、強引にすり抜ける

さらに走る。出口が見えてくる

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