第5話

次の日、鋸とかいうものを扱っている

何種類もあるのだが、自分と相方が使っているのは2人で使うものらしい

「おら、合わせろ、トラフォード。」

「引く、押す、引く押す、ちぃっ。」

「キングストン、早いって。」

なぜキングストンと鋸を引いているのか

航空眼鏡に切り屑が落ちてきて、視界が悪くなる

鼻と口を覆うように皮を当てているが、息苦しい

背中に皮を引いているが、何かを挟んでいる

少し痛む

下にもぐるのは嫌だ

アガルタに行くのじゃなかったのか

「キングストン、交代しろ、自分が上をやる。」

「待て、俺は航空眼鏡が無いから、上じゃないとダメだ。」

悪戦苦闘しながら、平らな板を作っていく

「頑張るニャ~」

絶対に遊びに来ただけのイドゥナが笑い顔で見ている

「それが盾になるニャー。」

そう、キングストンが提案したのは片目の豚鬼オーク討伐

そしてこれは防具になる予定だ

一人で使う盾らしい

とてもじゃないが、丸太で盾を作ったら重くて持てない

一人では移動させるためには、板を使って軽くした盾が必要だった

洞穴迷宮ダンジョンからは卑小鬼ゴブリン軟粘涅スライムのようなモンスターが次から次へと湧いて出る

豚鬼オークもたまに出現する

しかし、片目の豚鬼オークは戦い慣れした結果、賢く強くなったらしい

洞穴迷宮ダンジョンに居座っている

キングストンはそう考えている

「最近、洞穴迷宮ダンジョンの獲物が少ない。ヤツのせいだと思う。」

「そうなのか、知らなかった。」

洞穴迷宮ダンジョンの奥深くでモンスターが生まれる。そいつらは外の世界を目指して、洞穴迷宮ダンジョンから出てくる。そう言われている。」

「本当かニャ~。」

「ヤツは異端だ。何かが起きる前に、殺るしかない。」

何かが、一瞬だけ頭をよぎる何かがあったが、すぐにそれをどこかに追いやる

結局その日は下にもぐって一日を終えた

「よし、まずは葉っぱを取ってこい。」

今日は予備班に混じって、様々な補助業務を受け持つ

プラモールに指示され、採取に刈りだされる

「この葉っぱだ、よく見ろ。」

その形状を記憶し、集めたものを皮袋にしまい込む

「この木が卑小鬼ゴブリンから生えたって、信じられないな。」

「木も草も大概のものはそうだな。」

「はぁ~。」

「眉唾物の話だが、世界は一度滅びたらしいぞ。」

「うんっ?!」

戻ると、臓物の廃棄処分

葉っぱと草を軟粘涅スライムに給仕

軟粘涅スライムの捕獲と運搬

解体場と炊事場を掃除手伝い

新しくできた食卓の設営手伝い

汚れた皮前掛、道具の掃除と手入れ

翌日の準備で薪を集め終わったところで、ヴィカレージがやってきた

「明日からは私のもとに来てもらおう。」

その内容が何を意味しているかすぐには解らなった

「何をするのでしょうか?」

「君の戦いを観てみたい、穴倉に潜ってもらう。」

朝の行事が終わった後、訓練場にいる。

「まずは訓練を受けてもらう。」

相手に紹介される

短い角を2本生やし濃い茶色の短毛を持った、がっちりした男だった、不釣り合いな細い尻尾を持っている

「ルジキニと申す。」

「トラフォードです。」

「これは殺し合いではない、が、実力を知るための戦いだ、手抜きはなしだ。怪我をするな、そして怪我をさせるな。」

難しいこと言ったヴィカレージが数歩下がって見守る

訓練、いきなり戦えって、どういうことだ

「…。」

言葉を発する前にルジキニが突っ込んでくる

姿勢を低くして頭突きをかましてくる

跳んでルジキニの上をやり過ごして躱す、着地して振り返る

ルジニキはすぐさま突進してくる、今度は頭突きではない

大振りだが拳が伸びてくるこちらの膝蹴りが入る前に頭を守った腕ごと意識を刈り取られる

「悪かったでごわす。」

ルジキニに介抱される

時間が経ったのか、2人だけだ

「いや勉強になった。聞かせてくれ、あのあと何をしようとしたんだ?」

ルジキニはちょっと考え込み、たたんだ片腕を下から突き上げる。

「こうだな。」

「それを食らって、生きてられると思うか?」

少し非難するように言う

ルジキニは少し考えこむが、返事がない

考えなしか、こいつ

ヴィカレージがやってきた

「トラフォード、見事だった、強いだけでなく、冷静であることを証明した。ただ、洞穴迷宮ダンジョン卑小鬼ゴブリンだけではない。体格に勝る豚鬼オークがいる。彼らは強敵だ。しかしすごいな。大した跳躍力だ。飛んでいるようだ。」

「自分は、負けましたよ。」

「謙遜することはない、君は私の指示を守ったのだ。」

「ルジキニにも何か指示したでしょ。」

「分るかね。賢いな、あまり種明かしはしない主義だが。手加減するなと伝えたよ。」

こいつもか

それから本格的な訓練が始まった

組手はルジキニとだ

皮を拳や爪に取り付け、体中に皮を巻き付ける

ルジキニも頭に皮を巻いている

ヴィカレージは喜んでいる

「空中戦ができる君は貴重だ。いい訓練になる。」

次の日、奴がやってきた

「トラフォード、やろうぜ。」

違う、そうじゃないだろ

半分以上に皮が巻かれ、両端もぐるぐると巻かれた棒を持っている

体中に皮を巻いたキングストンと対峙する

ルジキニが呟く

「おいも早く対戦したい。」

何かあったら対応してくれるよな。

不安だ

「準備がいいなら、始めるだ。」

槍が揺れる、後ろへ下がる

動きを止めないようにする

攻撃は速い突きからだ

胸元を狙った棒を両拳で受ける

かなり痛い

上半身、頭を狙って、槍をひたすら叩き込まれる

後退しながら避けるか、拳や前腕で受ける

連打を受けながら機会を待つ

ほんの少し大降りになった

躱して槍を掴み、大きく踏み出し、体を回転して裏拳をだす

「参った。」

当たる前にキングストンが叫ぶ

「この卑怯者。」

「俺は勝てる勝負じゃないとやらないんだ。」

笑いながら言う

殴りたい

すげえ痛かったんだが

「自分に武器の使いかたを教えてくれ。」

不機嫌なまま言ったが、キングストンは気にしない

「まずはこん棒からかな。」

「教えなくていいぞ。」

ルジキニが何か言っている

いくつかのこん棒を試してみる

片手で持ってみたり、両手で持ってみたり、慣れない

「聞いた話だが、この世界は一度滅びたって本当か?」

「あーっ、もっと大声で言ってくれ。」

ルジキニと戦っているキングストンが答える

卑小鬼ゴブリンを相手だと考え、短めのこん棒を2本持って、振ってみる

「世界が滅びたって話だ。」

手を止めて、キングストンとルジキニがやってくる

「ビセンテが言うてるやつだな。」

「おいも聞いた。」

こっちも手をとめて、3人で話す

「俺にはよく分らんが、ボンボネーラ以外は人が生きていけるような環境なのか。」

「自分はほとんど何もないようなところをひたすら歩いた。」

ここに来る前を思い出して答える

キングストンの話は続く

「アガルタとか、他の洞穴迷宮ダンジョンには人がいるらしい。」

「トラフォードはどこに居ただ?」

ルジキニの問いに答える

「自分がいた場所は、もう誰もいない。自分が最後の一人だ。」

「きっと、それが答えだろう。」

珍しくキングストンが力なくつぶやく

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