第17話 ダンジョンブートキャンプ1日目
●REC――――《GM》専用攻略済みダンジョン1階層
突如始まったコラボ企画、『ダンジョンブートキャンプ』。
ダンジョン内でブートキャンプを行い、強くなろうという企画のようだが、これヤバイぞ。
一日目午前中は、リリィ先輩の指示に従って筋トレなどをやったのだが、既に俺の死亡回数は二桁に突入しそうだ。おいおい、まだ一日目だろ?
行動が遅い。腰をもっと下げろ。腕を振れ。エトセトラエトセトラ。俺だけが注意を受けている(そして死んでいる)。
本当に大丈夫なんだろうか? コラボ企画として成り立ってる?? 初配信がバズって調子乗ってる俺への制裁だったりしないだろうか???
……ま、そんな事はあり得ない。リリィ先輩はとても優しくて良い人なのだ。これは、盲信じゃない。信頼だ。
あと、気になるのはシトリンが明らかに俺を避けている事だ。
リリィ先輩に俺だけしごかれて、ようやく入れた昼休憩。シトリンとご飯でも食べようかと思ったら――――
「ご馳走様でした。では、マスター、お先に失礼します」
――と、このように小走りで逃げていくのだ。遺物にも反抗期ってあるのかな。いや、シトリンは生後一年も経ってない。イヤイヤ期か?
とまあ、気になる事だらけの午前の部が終了し、これから午後の部が始まる。
リリィ教官がやってきて、並んでいる俺たちの前に立つ。
「よし、そろってるな! これから一日目最後の指令をだす!」
午後の部が始まったばっかりだよね? それなのに最後の指令? 早めに休んで良いって事ですか。
「今日の最後の指令は、このダンジョンの十層に、あしたの朝の集合時間までにたどり着いてる事! 先についたものから休んでよしとする!」
……え、それだけ? 十層って事は上層だろ。流石に舐めすぎだと愚考しますわよ???
「へんじは!」
『『『『「イエッサーッ!」』』』』
「さーじゃないだろ!」
『『『『「あ、イエスマムッ!」』』』』
俺達は全員一度ずつ殺された。
リスポーンした人から順次移動開始らしい。
よし、午前中でだいぶ精神的に疲れたからサッサと十層に行って休もう。
***
●REC――――《GM》専用攻略済みダンジョン2階層
走る。走る。走り続ける。
どうしてこうなったのか。
俺は、ダンジョン一層目から二層目に降りた瞬間、とあるモンスターに捕捉された。
『ブモォォオグ』
そのモンスターの名前はミノタウロス。通常のダンジョンにおける出現階層は中層。特徴はその圧倒的な筋肉。中層に入ったばかりの初心者の関門、脱ニュービー殺しと名高いモンスターだ。
そうだ。中層のモンスター程度、S級の敵ではない。固有魔法で一撃――なんなら、グーパンで瞬殺のはずなのだ。
それなのに俺は全力で逃げている。
というのも、このブートキャンプが始まった時点で、俺には四つの枷がかけられていたようだ。
一つ目の枷は固有魔法の使用禁止。さっきから指パッチンをしても、領域名を叫んでも魔法が発動できない。
二つ目の枷はスキルの使用不可。【感知】系スキルが発動してない。他のスキルも同様だ。
三つ目の枷は身体能力制限。さっきから、なんか疲れると思ってたのだ。俺の身体能力が下がっていたからだろう。
四つ目の枷はシトリン以外の遺物の使用不可。というのも、俺が遺物を収容している腕輪型遺物、インベンクスにアクセスできないのだ。このダンジョンに入った時に身につけていたのは覚えてる。先輩の固有魔法が発動して、衣服が軍服になった時に隔離されたのだろう。
これらの事に、俺はミノタウロスに追いかけられるまで気づかなかった。クソッ、間抜けすぎるだろ!?
そして、下がった身体能力だが、体感だと探索者成り立ての頃に近い気がする。つまり、俺は一般人に毛が生えた程度の肉体性能で逃げているわけだ。
一般人が中層のモンスターから逃げる事なんて、普通は出来ない。それでも俺が逃げれているのは、一年間の探索者としての経験と、ミノタウロスが比較的鈍足なモンスターだからだろう。
だが、比較的、だ。気づけば俺はミノタウロスに捻り潰されており…………一層目の拠点にリスポーンしていた。
***
●REC――――《GM》専用攻略済みダンジョン1階層
どれだけの死を繰り返したか。ミノタウロスにやられた回数は二桁に突入した。時には真正面から戦おうとした。が、幼児がオモチャを振り回して壊すように、俺はミノタウロスにとっての玩具として
死ぬ事は苦じゃない。そんなモノ、探索者になる時には克服して然るべき課題だ。いや、克服できなかった者から探索者を辞めていくのか。そんな奴、沢山見てきた。
どうするかと悩んでいると、拠点をピョコピョコ歩いてるリリィ先輩を見つけたので呼び止める。
「リリィ先輩、コレ難易度ヤバすぎです」
「……」
先輩はこちらに視線を合わせてくれない。なん――あぁそうか。
「リリィ教官、お時間いいでしょうか?」
「ん、何だねシルバーくん」
正解だ。フンスと鼻息を荒くしてる先輩を鑑賞する。可愛い。
「……ぶっちゃけますけど、このダンジョン難易度設定ミスってません? 教官の魔法のせいですよね?」
二層目にミノタウロスが出てくるダンジョンなんて知らない。絶対リリィ教官の【遊戯魔法】とやらのせいだろう。
「? そうだよ」
それがどうしたと言わんばかりの鬼畜ロリ教官さま。
「流石の僕も、いろいろ封じられたままダンジョン攻略は無理です。どれか一つでも戻せません?」
「やだ」
そうかぁ、やだと来たか。
最近の俺は機嫌が良い。理由は承認欲求が満たされているからだ。あの初配信はそれだけ俺に心の余裕を与えてくれた。
その結果、俺はどうなったか?
――――承認欲求が更に高まったのだ。もっと目立ちたい。認められたい。褒められたい。活躍したい。イイねほしい。チャンネル登録ほしい。SNSフォローよろしく。
とまあ、俺は承認欲求魔王へとクラスアップした。
その上で、現在のコラボ企画中の俺について考える。ヤバくね? なんも活躍してないし、死にすぎてギャグ要員になってるじゃん。そっち路線は狙って無いんだよ。
早急になんとかしなければと意気込んでると、リリィ教官がヒントをくれた。
「この『ダンジョンブートキャンプゲーム』はプレイヤーの成長を前提としてるの。強いモンスターからじゃなくて弱いモンスターから倒してくべき」
弱いモンスター(ミノタウロス)??
「ミノタウロスは無理じゃ無いですかねぇ」
二層目にミノタウロスしか居ないのかってくらい遭遇率高いし、他にもモンスターが居たとして倒せるかどうか……。
「なんで二層目から、いくの?」
え?
「ここは、何階層? ダンジョンの外ではないんだよ?」
待て待て、なるほど?
「一層目にもモンスターが居る……ッ?」
リリィ教官は何も答えてくれない。でも、ニコッと優しそうに微笑んでくれた。
そうだ。この人はいつも俺を助けてくれる。そんな人だから、承認欲求みたいな
よし、時代は銀髪赤目高齢ロリっ子聖母ゲーマーS級探索者だッ!!!
――俺はまだ見ぬヨワヨワモンスターを探して、一層目を駆け巡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます