第15話 S級ロリ、リリィの思考回路

 後輩二人を見送ったゴスロリ少女、リリィはファミレスに一人で残り、ある事を考えていた。


 ある事とは、今日、ダンジョン協会を訪れた際に言われた一言についてだ。


「(あたらしいS級未攻略ダンジョンの攻略禁止令)」


 攻略を依頼されるのなら分かる。でも今回の指令は真逆だ。

 数年前、S級未攻略ダンジョンが確認された時は、速やかに複数のS級探索者が派遣されて、一瞬で攻略済みダンジョンにされた。


 ダンジョン協会にとって、未攻略ダンジョンというのは不確定要素の塊だ。なにせ、人が死ぬ可能性があるのだから。

 

 人が死ぬか死なないかという事は大事だ。

 

 攻略済みダンジョンではリスポーンシステムがあり、人が死んでも生き返る。ダンジョン探索者や、配信者制度もリスポーンがあるからこそ一般に開放されているのだ。

 

 もちろん、それだけが全てでは無い。ダンジョン産の魔石や素材の回収には人手が沢山いる。現代人にとってダンジョン探索者とは死の危険がない炭鉱夫みたいなモノだ。


 一攫千金どころか、一攫億金すら狙えるのがダンジョン。それは人が死なないからこそ成り立っている。


 そんな『命の危険がない一攫千金』を売りにしているダンジョン業界にとって、未攻略ダンジョンほど要らないモノはない。


 もちろん、未攻略ダンジョンの方が手に入る素材も魔石も質が良い。

 でも、死ぬかもしれないけど稼げるダンジョンと、死なない上にそこそこ稼げるダンジョンだったら後者を選ぶのが人のサガだ。


 だから、ダンジョン協会は『未攻略ダンジョンの早期撲滅』を掲げている。

 具体策を挙げるなら、探索者人口の多い都市にダンジョンが出現した場合、上位の探索者達に依頼を出す等して、速攻で攻略済みに変えたりする。

 他にも、未攻略ダンジョンの解放者には、多額の報償金を与える制度まで設けているのだ。




 そんなダンジョン協会が未攻略ダンジョンの攻略禁止令を出した。

 

 ――古参探索者であるリリィはダンジョン協会の事を設立初期から見てきている。ダン協がどんな働きをしてきたのか知っている。


 例えば、早期撲滅をうたう程に、ダンジョン協会は未攻略ダンジョンをうとましく思っていながらも、国内に無数に存在する全てのダンジョンを攻略済みにしようとしている訳ではない事を。

 それが、未攻略ダンジョンでしか手に入らない、質の良い素材や魔石が魅力的だから、という理由以外である事を。

 ――もっとも、その理由が何なのかは知らないが。長年の探索者活動で、なんとなく気付いただけだ。




 それらの経験を踏まえた上で、だとしてもダンジョン協会が攻略禁止令を出す事は異常だという事を、リリィは理解している。

 

 そして、リリィはかつて、今の状況と似たような事を経験している。


「(たしか、S級になってすぐの子が、ダンジョン協会からS級未攻略ダンジョンの攻略を指名依頼されて死んじゃった時も、他のS級たちは攻略禁止っていわれてたんだ)」


 S級の中でも、その事件を知ってるのはリリィのような古参探索者くらいだろう。

 

 S級認定されてすぐの探索者が、ダン協からの依頼で、新しく出来たS級未攻略ダンジョンに挑んだ結果、死亡した。

 当時、世間は驚くほどその事件に触れなかったのを覚えている。まるで、そのS級の子を忘れてしまったかのように。


 もし、今回の攻略禁止令が、その時と同じ思惑で出されていたら。


 もし、新しいS級未攻略ダンジョンに新人のS級探索者をあてる気なら。


 選ばれるのはシルバーに違いない。そして、シルバーが奈落で命を落とした場合、世界はシルバーを忘れてしまうのだろう。


「(シル坊の配信はみた。今のシル坊じゃ奈落はきびしい)」


 シルバーが弱いのでは無い。シルバーの探索者としての強さは上から数えた方が圧倒的に早いくらいだ。

 だが、未攻略ダンジョンの奈落というのは、そんな最強を容易く捻り潰す異世界なのだ。


 であればどうすべきか?


 見捨てる? あり得ない。


 シルバーは見た目ロリっ娘なリリィを、出会った時から先輩と呼んでくれた。敬意を払ってくれた。優しくしてくれた。


「(わたしがたすけなきゃ)」


 おそらく、シルバーへのS級未攻略ダンジョン攻略依頼は確定だろう。新たなS級探索者の誕生と、急に発令された新たなS級未攻略ダンジョンの攻略禁止令。あの時の事件と結びつけない方が無理がある。

 

 そして、ダンジョン協会内で、そんな無茶苦茶な依頼をゴリ押せるのは一人しかいない。リリィと同じく古参探索者、それどころか、最初期のダン協設立メンバー。


「(《天帝くそじじぃ》の依頼は動かせない)」


 前々から思っていたけど、ダン協はシル坊に依頼を任せすぎじゃないかとリリィは考える。いや、シル坊が面倒ごとに突っ込みすぎなのか?

 シル坊は強いが、探索者歴一年。先輩がしっかり導かなければならない。

 

 

 シルバーでは奈落は厳しい? でも、依頼の撤回はできない?

 

 それならば――――


「わたしがシル坊をきたえる!」


 ――――シルバーを未攻略ダンジョンの奈落でも問題無いレベルまで引き上げる。


 探索者歴たったの一年、S級になったばかりのシルバーは、最強集団であるS級の中でも最弱だ。でも、たったの一年でS級に至ったシルバーのポテンシャルは、S級の中でも上位なのだ。足りないのは経験値。


 そして、リリィの魔法ならば短期間で経験値を稼ぎまくれる。


 リリィは頭の中で、コラボと称して日程を押さえたシルバーをどう調理するか考える。

 シルバーを強化して、その上でコラボとして成立する企画は何か。

 

 必須条件はシルバーの強化。攻略禁止令うんぬんが偶然のタイミングのモノであり、シルバーに攻略依頼が出されないのなら、それでも良い。

 でも、ダンジョン攻略依頼の有無を問わず、シルバーの強化は急務だ。

 あの初配信を思い出す。自身のドッペルゲンガーとは言え、深層試練ボスとソロでやり合って苦戦するS級はダメだろう。だから、成長の場をシルバーに与える。

 


 アレはダメ。コレは良いかも。ソレもアリ――――


「……よし。創るのは『ダンジョンブートキャンプゲーム』にしよう」


 リリィは両頬をパチンと叩き。ファミレスから飛び出していった。

 今、《GMゲームマスター》の二つ名をもつ高齢ロリっ子少女の本領が発揮される。


 ――なお、少女のブートキャンプ知識はゼロである模様。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る