第二章 S級コラボ動画

第14話 《GM》先輩との遭遇

 俺の記念すべき初配信が終わって数日後。俺の初配信は控えめに言ってバズっていた。SNSや動画投稿サービスなどでは俺の活躍が世界中に、着々と広まっていっている。

 そんな余韻に浸っていた俺は、ダンジョン協会本部へ呼び出された。

 

 用件は二つ。

 

 一つは俺が配信しながら調査した渋谷ダンジョンについて。

 月宮からは『良くやってくれた!』と褒められた。まあ、イレギュラーが多かったので、S級以外の探索者が挑んでいればヤバかったのだろう。俺的に、あれくらいのイレギュラーは日常茶飯事だが。

 

 あと、改めて認定された渋谷S級未攻略ダンジョンは誰が攻略するか本部のお偉いさんが話し合ってるらしい。

 恐らくは俺以外のS級に割り当てられるのが濃厚。だってまだ、俺は新人だし。常識的に考えて、新人に任せる訳ないだろう。

 

 配信してみたくもあったが仕方あるまい。未攻略ダンジョンの奈落はダン協の許可が無ければ突入できないのだ。

 

 それに、俺の実力で攻略できるのかも怪しい。未攻略ダンジョンの奈落はそれだけ危険だ。俺はこれといった壁にぶち当たらずにS級になった訳だが、更なる飛躍が必要な時が来たのかもしれん。


 二つ目の用件は従魔の登録。

 遺物を持っているとはいえ、ただのゴブリンなので比較的早く認定がおりるだろうと言われた。認定と言っても、獲得時の状況や、従魔のデータを取るだけなのでゴブリン君は既に手元にある。まあ呼び出したり出来るのは認定後なわけだが。


 そうだ。ゴブリン君の名前も考えないと。俺の名前がシルバーなので、鉱石宝石関連の名前が良いな。シトリンも名付けたのは俺だし。

 遺物は獲得時点で、既に名称が決まってるが、所有者がコレだって思った名前を強く念じると名称が変化するのだ。不思議。


 ちなみに俺の探索者名は本名だ。よく分からずに書いたらソレで登録されてしまった。ギンではなくシルバーが本名。親は何考えてこんな名前にしたんだ。でもそのおかげで誰にも探索者名が本名だとは思われてないだろう。




 さて、諸々の用事も終わった事だし、帰るか。

 シトリンとお昼でも食べよう。シトリンも俺も大食いなのだ。というか、探索者は基本的に大食いだ。消費するカロリーが桁違いだかららしい。専門家じゃないので詳しい事は知らないが。

 え? シトリンは人じゃなくて機械人形じゃないのかって? 機械がご飯食べて何がマズイんだ? あ?


 何を食べるか考えながら、シトリンを連れて本部の出口に向かっていると、見知った顔を見つけた。


「ん、シル坊」


「リリィ先輩じゃないですか」


 銀髪赤目。ゴスロリ美少女探索者リリィ。

 こんな小さい姿で、俺よりもずっと年上の先輩だ。そして、探索者になったばかりの頃から、とてもお世話になっている人でもある。

 

 上位の探索者ほど見た目と実年齢が噛み合わない事が多い。原理は不明だが、ダンジョンを攻略すればするほど、実力が上がれば上がるほど探索者の寿命は伸びていく。全盛期が維持され続けるのだ。

 日本の象徴である最強探索者、《天帝》様はダンジョンが発生した約百年前から変わらぬ姿だと聞く。


「どなたでしょうか?」


「あぁ、シトリンは会った事ないもんね。僕の先輩のS級探索者だよ」


「リリィ先輩と呼ぶがよいぞい?」


 腰に手を当て、小さな胸を前に出して威張る先輩を見る。

 《GMゲームマスター》リリィ。その愛くるしさで世間からの人気を獲得した自他共に認めるロリっ娘。俺の他に配信活動をしているS級の一人でもある。ちなみに人気は新人配信者の俺よりも彼女の方が上だ。

 くそッ、ロリになれる遺物かスキルでもあれば……。


「今日は何か用事でもあったんですか?」


「ん、二つ用事があった。一つはおわったし、もう一つはそっちからやって来てくれた」


「そっち?」


「そう。シル坊とシトちゃん、――――――」


 彼女は小首を傾げ、衝撃的な提案を言い放った。


「――――コラボ、しよ?」


 それってバズりますか???






 ***


 場所を変えて近場のファミレス。

 ちなみに【変装】スキルを発動してるのでS級探索者だとはバレていない。

 

 俺は配信以外の活動時――プライベートの時は【変装】スキルを使ってる事が多い。

 街中でも目立ちたい、という思いはある。『キャーッ(黄色い歓声)』って叫ばれながら写真とかサインとかを求められたい思いもいっぱいあるッ。


 だが、世の中にはコンビニに行っただけで炎上する有名人もいるし、過去の言動を引っ張り出されて叩かれる有名人もいるのだ。

 俺が配信者として有名になった後で、そういった事により炎上してはたまらない。


 なので、俺が配信者を目指すと決めた時に、炎上リスクは限りなくゼロにしながら探索者として活動すると固く心に誓った。

 その決意の結果、【変装】スキルは俺のスキル習熟度ランキング、トップ5に入るほど極まったのだ。余談だが、【ポーカーフェイス】スキルもトップ5入りしている。

 スキルの中には使い続けていると成長するものもある。例えば【ポーカーフェイス】スキルは無表情以外の表情も出来るようになったし、【変装】スキルは俺の骨格や性別すらも超越して変装可能になった。

 

 まあ、極まった【変装】スキルも発動しなければ意味無いんだけどね。発動するのを忘れたままトラブルに巻き込まれた事も何度かある…………。

 

 ……思考がズレたな。俺のプライベートでの行動は置いておいて、こんな道端で目立つ事よりも、もっと目立ちそうな案件が転がり込んできた。


「それで、コラボですか? 先輩」


「そう。ダメ?」


「僕は良いですよ。シトリンは?」


 続々と運ばれてくる大量の料理をペロリと完食していくシトリンにも確認する。


「私はマスターの忠実なメイド。マスターの決定に従います」


「じゃあきまり。こんどの日曜ひま?」


「暇ですよ」


 どんどん予定が埋められていく。


「ちなみに企画内容は?」


「ふふ、ひみつ」


 こうして爆速で次の配信日程が決まった。

 コラボ相手はS級探索者リリィ。話題性もS級。

 ちなみにファミレスの支払いはリリィ先輩が全部払ってくれるらしい。なんか、申し訳なかった。うちのシトリンが大食いでごめんなさい。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る