第10話 深層試練ボス攻略配信①
●REC――――オーバーホールワームの胃袋
目の前のゴブリンが消えていく。モンスターを倒した時に塵になる光景とは異なり、光の粒となって指輪型遺物に吸い込まれている感じだ。
「いやぁ初の従魔だよ。嬉しいなぁ」
「おめでとうございます」
「ありがとねシトリン」
▼コメント
:おめでと
:本当にゴブリンでよかったの??
:深層を生き抜いたゴブリンさんやぞ
:剣戟カッコよかったよな
:誰も言ってないけどシルバーと剣で打ち合えるレベルのゴブリンさんwww強い(確信)
確かに配信映えを意識するなら奈落のドラゴンでも従魔にした方が良かったかもしれない。それでもこのゴブリンを選んだ理由は二つ。
一つ、強力すぎるモンスターだとダンジョン協会への従魔申請が通らないかもしれないから。ゴブリンならまず間違いなく通る。
二つ、深層の修羅場を一匹で潜り抜けた生き様に、憧れたから。だってそうだろう? ゴブリンなんて最弱と名高い存在が、深層の魔境を生き抜く。どれだけの修羅場に出会ったのか想像もできない。
他人の配信を見るようになって、何かを成そうとする人間に胸を打たれるようになった。このゴブリンは俺の琴線に触れたのだ。
それが主な理由。それに、最弱種族という事は、伸びしろがあるという事だ。
「このゴブリンを鍛え上げて、S級ゴブリンを生み出そうと思うんだ」
▼コメント
:え?
:なんかやばい事言ってて草
:S級ゴブリン……強そう()
:マジで怪物が産まれそうで笑う
「私も尽力しましょう」
「お願いね。あ、他のS級の先輩達にも頼もうかな」
▼コメント
:今更だけどシトリンはシルバー全肯定だよね
:やめとけやめとけ
:S級のS級によるS級のためのゴブリン育成講座
:楽しみにしてる
さて、従魔獲得配信もひと段落したとこで、そろそろオーバーホールワームの胃袋から出るか。
「じゃ、オーバーホールワームの討伐解説しまーす」
▼コメント
:ようやくか
:気になってた
:どうやって出るの??(2回目)
「ソレはね――――【領域魔法】、『
俺とシトリンがいる空間以外を、大量の水で埋め尽くす。
突如発生した激流は胃袋の中を縦横無尽に押し流した。
「オーバーホールワームの胃袋は有限なんだよ。だから――――」
▼コメント
:怖
:津波みたい
:そんな魔法もあるのかよ
:天災じゃん
:また参考にならないシリーズ
「――――大量の水で埋め尽くすと破裂するんだ」
【感知】スキルで胃袋にヒビが入ったのを感じ取った次の瞬間、その小さな世界は崩壊した。
***
●REC――――渋谷未攻略ダンジョン40階層
胃袋の中から叩き出された。
ダンジョンはオーバーホールワームが暴れまくったのか軽く崩壊していた。
「前もこのやり方で脱出したんだけど、他にもやり方あるのかな」
入り口があるなら出口もあるだろう。知らんけど。
「マスター、回収しました」
「ん、ありがと」
シトリンが特大の魔石と、手の平大の小袋を手渡してくる。
「見える? これがオーバーホールワームの胃袋。時価十桁のレアアイテムだよ」
俺にはインベンクスがあるから良いやと売り払った素材がまさかの十桁越えだ。大変驚いたのを覚えてる。そして、これが配信中だったらなぁ……と凹んだのだ。
今回オーバーホールワームに飲み込まれたのは、貴重なレアモンスター討伐風景を見せる為だ。オーバーホールワームを配信中に討伐した人間なんて世界初だろう。
バズり間違いなしだな!
現に視聴者数は――――
▶︎同時接続者数200,394
――――20万人を超えていた。
いやぁ嬉しいッ! 俺の語彙力が無さすぎて嬉しいとしか言えないッ! 思えば濃厚な一日だった。体感一週間くらいの濃度だ。視聴者ゼロ人からよくぞココまで来れた!
探索者になって一番嬉しい日かもしれないな。
さて、喜ぶのもそれくらいにして、現状を考えようか。
「これ、ボス部屋だよね」
▼コメント
:だね
:一気にスキップ
:オーバーホールワームは階層間を移動できる……?
:特急列車、オホワ
:これもS級さんの策略……?
「全てマスターの思惑通りです」
「
シトリンはアレなのだ。ちょっとアホの子なのだ。
「それじゃあ行こうか。この長い初配信も終わりだよ」
▼コメント
:いかないでぇ
:深層で終わり?奈落は?まあないか
:シトリンさーん!
:誰も深層ボス戦について心配してなくて草
:シルバーなら余裕だろ
:怪力のシトリン、魔法のシルバー
:何が来ても大丈夫
ウヒョッ、賞賛が身に染み渡るッ。今の俺なら、深層ボスなんてデコピンで倒せるねッ! そんな凄みがあるッ。
こうして、俺とシトリンはボス部屋の扉を潜った。
ボス部屋に入り、そのボスの姿を確認した瞬間、部屋の温度が数度下がった気がした。
発信源は俺の真横。シトリンからだ。凄みがあるッとか言ってる俺なんかよりも凄みがあるッ綺麗な顔でそのボスを睨んでいる。
あ、走り出した。はっや。
だが、ボスも黙ってこちらを見ている訳ではない。
俺に向けて左手を伸ばし、その指をパチンと鳴らしてきた。
既視感しかなかった。
次の瞬間、俺の身に
――マジかよ。
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