第7話 休憩配信

●REC――――渋谷未攻略ダンジョン30→31階層


 30層のボス部屋から、31層――深層へと降りる道すがら、質問コーナーを設ける事にした。

 ここまでノンストップで攻略してきたので一旦休憩というわけだ。俺の深層攻略準備もあるし。


「という事で質問コーナー始めるよ。気になる事あったらコメント頂戴?」


▼コメント

:何でも聞いていいの?

:休憩タイムね

:驚きの連続だったからな〜

:質問。なんで配信しようと思ったの???


「配信始めた理由? 幾つかあるけど、他のS級の先輩達がさ、楽しそう配信してるのを見たからかな。僕もやってみたいな〜って」


 あながち間違ってない。他のダンジョン配信者が目立ってたから俺も目立つ為に始めたのだ。ビバ、承認欲求。


「あと、ダンジョン攻略講座って裏テーマがこの配信にあるんだよね。参考になってる?」


▼コメント

:(なって)ないです

:いやさ、やってる事は凄いと思うけど、真似できないよね

:なんならモンスターの方が参考になるレベル笑

:割と有用な情報多かったよ

:他のS級の配信はエンタメ一辺倒って感じだしね〜


 あまり参考になってないようだ。俺が今日の配信でやった事を振り返ってみる。……うん、無理だな。俺がコレを参考にしろと言われたらキレてる事案だ。

 確かにバズりという面では上出来だが、攻略講座にはなってない気がする。


 そもそもダンジョン探索者は、上位に行くほど各人によって固有のスキルや遺物、魔法を所持してる事が多い。誰かの真似では頂点には立てないのだ。


 ダンジョン攻略講座(笑)みたいなのを参考にするんじゃなくて、本当に実力あるダンジョン探索者になりたいのなら、探索者専門学校にでも行った方が早い。


「んー、そこら辺は今後の課題かな。次の配信までには考えとくよ。他の質問ある?」


▼コメント

:どうやったらS級になれますか!!


一欠片ひとかけらの才能と、それを芽吹かせる為の無尽の努力、も大事だけど、S級になる人間はどこか狂ってるんだよ」


▼コメント

:才能の世界

:シルバーも狂ってるって事?

:やっぱり頭S級じゃないとなれないんだガクブル


「普通に考えて、命の危険がある場所に好んで突入する人間がマトモだと思う? 僕に至っては、そこで配信してる訳だしね」


▼コメント

:それはそう

:頭のネジが外れてるよね

:攻略済みダンジョンは死んでもリスポーンできるけど死んだ時の感触はそのままらしい

:そんなダンジョンにゾンビアタックする狂人集団=探索者


「ま、僕的にはダンジョン攻略する事は日常の一部なんだよ。登山家が『そこに山があるから』って言うのと同じで、そこにダンジョンがあるから僕らは攻略するんだ」


▼コメント

:ダンジョン「許してェ」探索者「許しません」

:登山よりも何倍も危険なダンジョン攻略でそう言われても(白目)

:強者(狂者)の余裕

:質問です。休日何してますか!!

 

「休日? 配信巡りかな。ダンジョン配信だけじゃなくて、色んなとこ巡回してるよ」


 これはガチ。ダンジョン配信の参考にならないかなと見ていたら、いつの間にか習慣になってたのだ。学べる事は多いぞ。


▼コメント

:つまり、S級が紛れ込んでる配信があるってコト!?

:【速報】S級さんは俺らだった!

:休日もダンジョンに潜ってるのかと思った


「休む時はちゃんと休むよ」


 さて、そろそろ深層に突入だ。下層までは余裕があったが、ここからは俺でも足をすくわれかねない領域。

 調べたが深層の攻略配信は貴重らしい。それもそうか、深層ともなれば最低でもA級は必要なのだ。


 これはバズるぞ。S級による未攻略ダンジョン深層攻略配信。伝説の神回ってやつだ。


「もうすぐ深層だから、質問コーナーは一旦やめにするよ」


▼コメント

:とうとうか

:気をつけなよ

:深層は魔境

:ま、俺らじゃ下層すら攻略出来ないんだけどねwww

:俺は出来ます

:私も

:上位探索者の溜まり場かよ笑

:同接エグいなぁ

:深層生攻略とか一生見れないかもしれんからな

:新しいS級ってのも話題になってる


▶︎同時接続者数101,567


 この長いトンネルを抜ければ深層に出る。質問コーナーをしてる間に視聴者数は十万人を超えていた。

 

 手が震えている。十万人が俺の一挙手一投足を見ているのだ。とても良い。興奮しているのを感じる。俺が世界で一番目立っているのではとすら思えてしまう。


「(アァ、最高じゃないか)」


 多くの人間が俺という存在に興味をもって見に来ている。それだけで、俺はどこまでも戦える。


「あ、深層に入る前に遺物だけ出しとくね」


 忘れてた。深層からはマジで危険なので本気の装備で行かないと。


▼コメント

:新しい遺物?

:その腕輪に遺物が収容されてるんだっけ

:何が出るかな、何が出るかな

:ワクワク


 浮き足立つコメント欄。俺は遺物【異次元収容腕輪インベンクス】から、その遺物を取り出した。

 俺が持つ遺物の中でも、最も希少で最も異色なその遺物の名は――――――


「イレギュラーフィールドボスからドロップした、【機械人形シトリン】ちゃんでーす」


 現れたのは、一人の女性だった。

 光輝く長い金髪。まるで、宝石の黄水晶シトリンのような金の瞳。神が調整したかのような美貌とプロモーションは、見る者全てを魅了する。


 そんな女性――遺物、【機械人形シトリン】はメイド服を身につけていた。

 そして、綺麗に一礼して視聴者へと言い放つ。


「初めまして。マスターの雑用メイドロボ、シトリンと申します。どうぞ、よしなに」


「じゃ、深層攻略始めまーす」


 ――こうして、俺とシトリンは深層へと足を踏み入れた。


▼コメント

:はぁあああああああ!?!?!?!?

:メイド、ロボ……だとッ!

:シルバーテメェ俺たちと同じオタクかと思ったのに!!

:いや、ある意味オタクなのでは?

:めっちゃ綺麗。彫刻みたい

:好きです

:あー、月が綺麗だなぁ(昼間)

:え、自律型遺物??レアすぎん??

:これがS級クオリティ、惚れちまうぜェ

:なんで今まで出さなかったッ!

:俺、探索者なります

:今から未攻略ダンジョンボス討伐してくるわ!

:自殺志願者続出案件

:美しい……

:私もメイドにしてください


 今日一の速さで流れるコメントを見て思う。


「(あれ、俺なんかやっちゃいました?)」

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