第8話 深層攻略配信

●REC――――渋谷未攻略ダンジョン31階層


 【機械人形シトリン】は、とあるイレギュラーフィールドボスを討伐した時にドロップした自律型遺物だ。

 あの日は大変だった。お気に入りの配信者のコラボグッズを秋葉原に買いに行ったら、まさかのダンジョン災害発生だ。

 とてもイラついたので全力でフルボッコにしに行ったのを覚えてる。そして、まあまあ苦戦した事も。


 そのフィールドボスの名前を【機神工房オルガンスト】。ダンジョン内のあらゆるモノを機械兵に改造して、無限の兵を創り出すという特性を持っており、もし俺がすぐに攻略していなければ凶悪な未攻略ダンジョンが生まれていた事は想像に難く無い。


 また、ボスからドロップする遺物は、そのボスの強さと関係がある事が長年の研究で分かっている。

 どういう事か? そう、俺が探索者になって一年で出会ったトンデモモンスターシリーズ、トップ5に余裕で入るボスからドロップしたシトリンも、トンデモ遺物なのである。


 シトリンのトンデモ特性その1。遺物保持者の身体能力を自身の身体能力に上乗せ可能。つまり、俺というS級の身体能力を超えた力を、彼女は自由にふるえるのだ。


▼コメント

:うわー

:モンスターがぶっ飛んでく。マンガの世界かな??

:S級レベルの身体能力を持つ遺物?ヤバすぎ

:うつくしい


 元々高めのシトリンの身体能力に、S級探索者の身体能力が合わさった結果、深層のモンスターがゴミのように消えていく。


 しかも、彼女のトンデモ特性はそれだけじゃない。

 トンデモ特性その2と3――――


「スキル同時発動、『神一閃』」


 ――遺物保持者のスキル&遺物の使用許可。

 流石に固有魔法は模倣できないようだが、スキルだけで十分すぎる。


 彼女が今使っているのは剣型遺物【夜天剣ナイトソーラ】。本来、他人には扱えない遺物を使える事の利点は言わずもがなだ。というか、彼女のメイド服も遺物の一つだし。


▼コメント

:強すぎませんか……?

:S級がもつ遺物もS級だった件について

:冗談抜きでA級上位、S級に片足踏み入れてる

:モンスターの首が飛んでく……綺麗だなぁ(現実逃避)


 そして俺的イチオシ特性――――


「シトリン! いくよ!」


「いつでもどうぞ」


「【領域魔法】、『圧塊あっかい領域』」


 俺は周囲に集まっていたモンスターを、戦闘中のシトリンごと生き埋めにした。


▼コメント

:ふぁっ!?

:え、あの……

:シルバーさん????

:メイドさんが生き埋めに……

:今流行りの遺物虐待では?


 狼狽えるコメント欄。安心してくれ、流石の俺もバズる為にそんな事はしない。


 俺が魔法を発動し、俺が立っている場所以外の全てが土で埋められたダンジョン。周囲は硬い土の壁で覆われている。

 そんな土世界の一面からヌルリとシトリンが現れた。


▼コメント

:エッ!?

:無事だったのか!

:いやぁ信じてたぜシルバーの兄貴!

:やっぱり美しい……


 これがシトリンのトンデモ特性その4。

 ――俺の固有魔法の完全無効化だ。


 領域魔法は指定した範囲内を特定の概念で満たす魔法。『灼天しゃくてん領域』だったら“炎”という概念を。『圧塊領域』であれば“土”という概念で、空間を満たすのだ。

 その領域効果からは、魔法発動者の俺ですら逃れられない。

 つまり、領域範囲指定をミスれば俺は火だるまにも生き埋めにもなるという事だ。


 そんな領域魔法を無効化できる仲間というのは、とても頼もしい事この上ない。


 領域魔法を解除する。辺りに今倒したモンスターの魔石や素材が散らばる。


「ここら一帯のモンスターはこれで倒せたかな」


「はい。私の索敵領域には一匹もモンスターはおりません」


 深層の洗礼。モンスターの百鬼夜行を倒せたようだ。これで一息つける。


「どうだい? シトリンは凄いだろう??」


▼コメント

:凄すぎて

:なんならシルバーより凄かったよ

:シルバーより綺麗だし

:もっとシトリンさんを映して!

:美しい……


「私の功績は全てマスターのモノです。賞賛ならばマスターに」


「いやいやシトリンの功績はシトリンの物だよ。僕が後衛で、シトリンが前衛。そういうパーティなんだ僕ら」


 コメント欄を眺めて困惑してるシトリン。顔を傾けているだけでも絵になる。視聴者の人気はだいぶ持ってかれたかもしれない。


「(だがそれも全て計画通りッ)」


 男だけの配信は映えない。それが俺が探索者になってから悩み続けていた事だ。シトリンが手に入ったのは幸運だった。いや、天啓か。


 これで俺の配信に華が彩った。俺は、シトリンとのコンビ探索者として配信界を生き抜くッ!!


 シトリンはチョッピリ感情がにぶい。まだ、産まれてドロップして間も無いからだろう。だが、その鈍さが彼女の神秘性を底上げしているのだ。

 俺の好青年的キャラと、シトリンの美人メイドキャラなら世界を獲れるに違いないッ。現に視聴者数が露骨に増えている。最高!!


「よし、この調子で深層攻――――わっぷ」


 シトリンが抱きついてきた。え、何? そういうのは炎上の原因になるからちょっと待ってもらえません――――


「マスター、来ますッ!!」


 背後。俺の【感知】スキルでも捉えた。ナニカが爆速で近づいてきてる。


「【領域魔法】、『圧塊領――ハハッ」


 魔法の発動をやめる。

 ダンジョンの壁をぶち抜きながらやってきた、その牙だらけの大口に笑いかける。


 そのモンスターは深層でも最大級の巨体を誇っている。

 そのモンスターは固有魔法すらも飲み込む大喰らいである。

 そのモンスターは無限にも思える胃袋を持っている。


 そのモンスターの名は――――


「――オーバーホールワーム」


 俺達は“異次元カバン”とも呼ばれる、怪物の胃袋の中の別世界へと送られた。

 

 

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