4.試験勉強の日(……今晩泊まっちゃ、だめ?
「あ、おかえりー。雨に降られた? いきなりだったね。タオル、玄関においておいたけど、使ってくれた? ――そっか、良かった」
//SE 貴方が入り口の扉を閉める音。近づいて椅子を引く。
外からは遠くに雷の音。やや強い雨。
マットの上に座り、問題集を解いていた光が顔を上げる。
「あれ? 今日は『勝手に入って云々』って怒らないんだ。珍しい」
「――……え?」
「えええっ!?」
「ま、まさか…………え、駅で、み、見かけたのっ!? ボクが、学校の友人達と一緒に帰ってるところっ!?!!!」
「そ、そんな、気付かなかった…………」
//SE バタン、と光がテーブルに突っ伏す。
その場でジタバタ。
「う~……うぅ~…………うぅぅ~……………」
「あ、貴方にだけは、見られたくなかったのに。だから、体育祭も文化祭も招待しなかったのに…………」
//SE 光が顔を上げた拍子にテーブルが音を立てる。
「笑いごとじゃなーいっ! ……ボクだって、別に好き好んで、あんな風に『王子様』を演じているわけじゃ……」
「…………」
「……ねぇ。やる気が全部なくなったんだけど?」
「週明けから中間試験なんだけど? ボクが赤点取ったら、どう責任取ってくれるの??」
「え? 今までの最低順位??」
「――んーと、確か去年、貴方の部屋でゲームをし過ぎた時で、二十位だったかなぁ?」
「あ、うん。うちの学校は一学年、二百人位だけど。それがどうかした?」
「! ち、ちょっとぉ! いきなり『隣の家へ帰れ、秀才!』だなんて、ひっどーいっ! それが傷心の幼馴染に対する態度――あれ? もしもーし??」
「ち、ちょっと、無視するの止めてよ! ボク、悪くないもんっ!! 悪いのは貴方だもんっ!!!」
「――え?」
「貴方と会っている時はどうするのか、って?? …………う~。意地悪」
//SE 光がクッションを抱きかかえる音。
少しだけ時間を置いて、口を開く。
「わ、私は秀才じゃないしっ! 第一、あ、貴方と同じ大学の推薦を貰うんだったら、手は絶対に抜けないし」
「……なのになぁ。まさか、幼馴染の男の子がやる気をなくさせるなんてなー」
「お、王子様、言うなぁー。……はぁ、もうっ」
//SE クッションを投げつける音。
外では雨が降っている。
光がノートにペンを走らせる。
「ねー」
「中間テストで、さ」
「良い順位を取れたら……お願い一つ、聞いてくれる?」
「……えっと、ねぇ。内緒」
「こ、こういうのは、サプライズで発表した方がいいのっ! 少女漫画にもそう書いてあったしっ!!」
「むっ! 取れない、と思ってるなー?」
//SE ペンが停まる音。
そして、再び動き出す。
「フッフッフッ……甘いんじゃないかなぁ?」
「中学時代、私はとある幼馴染さんから『一夜漬けでも、ほぼ確実に平均点を取れる方法』と『そこから更に得点を上積みする方法』を教えてもらっているのを忘れたのかなぁ?」
「――覚えてるよ。貴方に教わったことだもん。全部覚えてる」
「だ・か・ら」
//SE ペンの速度が上がる。
問題集やノートを捲る音。
「この勝負は勝たせてもらう――ひゃんっ!」
//SE 外から大きな雷の音。
光が全力で椅子に座る貴方の傍へ近寄り、抱き着いてくる。
「ち、違うんだからね? こ、高校生にもなって、雷が怖いとかないしっ、ひゃんっ!!」
//SE 外から再び大きな雷の音。
光が更に密着して、声が近くなる。
「え、えーっと……天気予報、見て?」
「――……え? 当分、続く、の?」
「……御相談があります」
「雷怖いし。雨凄い振ってるし。濡れたくないし」
「……今晩、泊まっちゃ、だめ?」
「大丈夫っ! ママは分かってくれるしっ!! パパは――……頑張って」
「あーあーあー! う、嘘だからっ!! 『駄目』って言われたら、私が説得するからっ!!」
//SE バタバタと光が暴れる音。
「あ、着替え?」
「大丈夫! こんなこともあろうかと、小母様が前に用意して下さってるから♪」
「――フフ、知らなかったのぉ? 私、とっても仲良いんだよ?」
「寝る場所??」
「貴方の隣でいいよ? ダメ?」
「今更だよー。大丈夫、襲わないから。……多分」
//SE 先程よりも大きなバタバタ。
光が逃げ回る音。
「ご、ごめんなさいっ! そ、そんなに怒らないでよっ!! 冗談、冗談だからっ!!!」
「――あ、でも」
「独りで寝るのは寂しいし、怖いから、一緒の部屋では寝て、ね?」
「……む!」
「そ、そうだけど……普段は夜、犬と猫の人形と一緒だけど、何か?」
「――え? 『小さい頃、縁日で取った』?」
「…………」
//SE 光がベッドに倒れこむ。
クッションを抱え、小声。
「捨ててないよ。捨てるわけないじゃない。貴方にもらった子達だもん。あの日からずっと、ずっと、ずーっと、私と一緒にいるよ」
「それにしても、覚えてるなんて。……もう。変な所で記憶力がいいんだから」
「と・に・か・く!」
//SE 光がベッドの上で起き上がる。
「今晩はお世話になります。よろしくお願いするね♪」
「むっ! お、王子様、言うなぁっ!」
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