2.料理を作りに来たのに、貴方に全部作られて(むす! 後……
//SE 玄関の鍵が開く。
「よっし。とーちゃく!」
//SE バタバタという光と貴方の足音。それに袋をテーブルへ置く音。
洗面台でうがいと手洗いを終えて、上機嫌。
「雨が降る前に帰って来られて良かったね。予定通り、買い物も出来たし!」
「――そう! 今日はカレーを作りますっ!! 折角のお休みだしね。何を隠そう、ボクの作るカレーは、高校の文化祭で伝説になった程の美味しさ――フッフッフッ。日頃、ボクの料理の腕に疑問を呈しがちな貴方だって、跪くこと間違いなしだよっ!!!」
「――えっ? 『また、ボク、になってるし、口調も変』??。し、仕方ないじゃないかっ。高校では、ずっとそうなんだから。あ、貴方とママとパパの前だけしか『私』って使わないの知ってるくせにっ。……あと、ちょっとだけ……その、恥ずかしいし……」
「あ~もうっ! そんな些細なことは、い・い・のっ!」
「貴方はそこで見ていること。手出しは無用だよっ!!」
//SE 光が袋から肉や野菜を取り出す。
「えーっと、まずは……」
「――あ、あれ?」
「…………カレーのルー、忘れちゃった…………」
「ダメっ! 今日はカレーを作る、って決めてたのっ!! でも、うちのもこの前試作した時に使いきっちゃったし……」
//SE バタバタと駆ける音。
「急いで買って来るねっ! あのルーじゃないと完璧な味にならないからっ!! 貴方は待っているようにっ!!!」//玄関からやや遠目に。
//SE 玄関の閉まる音。独り残された貴方が椅子から立ち上がる。
規則正しい包丁のリズムと鍋でバターが融ける音。
※※※
//SE 雨の降る音。
「……別に、迎えに来てくれなくても傘買ったのに」
「え? 『光は案外と抜けているから、傘だけじゃなく、携帯も忘れると思った』。……バカっ。意地悪っ。きゃっ」
//SE 車が走り去る音。
咄嗟に貴方が光を抱き寄せている。
「あ、ありがと……」//顔を伏せて、照れくさそうに。
「あ、うん! ちゃんと、お目当てのカレールーは買えたよっ!! すっごく美味しんから、楽しみにしていてね?」
「――ねぇ、どうして今、目を逸らしたの?」
//SE 鍋の中でカレーがグツグツと音を立てている。
そんな中、光はソファーで横になっている。
「…………ねぇぇ」//以降、本気で拗ねた声で。
「いったい、これはどういうことなのかな?」
「ボクは貴方にこう言ったよね? 『貴方は待っているようにっ!!』って。『カレールーを入れる所まで作っておいてね?』なんて、言ってないよね??」
「――なのに」
//SE 光がソファーの上に立ち上がる。
その場で地団駄。
「どーしてっ! 作っちゃってるのっ!? 今日は、ボクが作る日だったのにっ!!!」
「『カレールーを入れて、サラダを作ってくれたのは光だろ』? ――怒るよ? 寛容なボクだって、時と場合によっては怒るんだからね?」
「……何時だって、貴方はそうなんだから。二歳しか違わないのに、ボクよりも大人ぶって。ふつー、男の人はもっとズボラだと思うよ? ……ボクはずっと女子高だし、親族以外だと貴方しか親しい男の人いないから、分からないけど」
「もうっ! 何で誇らしそうなのっ!? 私は怒ってるのっ!! 知らないっ!!! 独りで食べれば?」
//SE 光が身体をソファーに投げ出し、クッションを抱きかかえる音。
雨の音とカレーの鍋の音。
く~、という光のお腹が鳴る。
「っ!?!!!」//慌ててお腹を押さえる。
「…………き、聴いた?」
「う、五月蠅いっ! カレーがいい匂いなのが悪いっ!!」
「え? 『機嫌を直さないと、食べさせないぞ。半熟卵と揚げたてのコロッケ付きだぞ』?? くっ! な、何て、卑怯なっ!! 見損なったよっ!!! 私の幼馴染がそんな人だったなんて……」
//SE ソファーから降りて、パタパタと近づく光の足音。
棚を開けて、フライパンを。冷凍庫からコロッケを取り出す。
「だけど――残念だったねっ! 私は自分で揚げ物も出来る女子高生っ!! 揚げたてコロッケを人質にとっても無駄だよっ!!!」
「――え? ちょっと前までは怖がってたのに??」
「…………だって、貴方に頼ってばっかりじゃ……イヤだったから」
「む~。な、何さぁ、そのニヤニヤした顔はぁ」
「『王子様がすることじゃないなぁ』? それはそうだよ」
//SE 棚や引き出しからお皿やコップ、スプーンを取り出す音。
前を向きながらの何気ない回答。本気でそう思っている。
「だって、此処には貴方しかいないしね。『しっかり者で頼りになる
「……調子に乗らない! あ、貴方の前だからなのは……その、合ってるけど」
「でも! カレーを先に作ったこの恨み……どう晴らそうかなぁ…………」
//SE 鍋の中にコロッケが入れられ、揚がる音。
炊飯器のご飯も出来上がる。
「出来たみたいだね。こっちも揚がるんだけど、さ」
「ねぇー? その前に私の機嫌を取ってほしいんだけどなぁー。じゃないと、揚げたてコロッケ食べさせてあげないよ?」
「うんうん。分かればいいんだよ。私が来るべき日に備えて、ちゃんと料理も勉強している、のを分かってくれていれば」
「――……え? 『来るべき日』は何かって?? そんなの、私が貴方の――」
「~~~っ!」
//SE コロッケが手早く移され、コンロのスイッチも切られる。
「――今の、今の無しだからっ! 忘れるのは……ダメ、だけど。無しだからっ!!」//SE 早口
「……もうっ。今日の埋め合わせはしてもらうから、ね?」
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