学校では王子様。だけど、貴方の前では女の子になりたい幼馴染の話

七野りく

1.貴方の前だけだから、ね?(貴方の部屋で

「あ、おかえりー。御邪魔しているよ。今日は早かったんだね」


//SE 貴方が扉を閉める音。

鞄を降ろして、椅子に腰かける。


「ふ~ん……大学の講義がお休みになったんだ。いいな。高校だとそういうことって滅多にないから、少し羨ましいかも」

「――え? 『どうして、今日も俺の部屋にいて、ベッドに寝転んで漫画を読んでいるのか』だって??」

「ん~と――……『合鍵』を持ってるから? 前にも話した通り、ボクは小父様の転勤に着いて行かれた小母様に、貴方のことを託されているんだ。『しっかり者な光ちゃんになら、あの子のことを託せるわ!』ってね。こうして、週の半分くらいは様子を見に来ないと、責任放棄になってしまうだろう? よっと」


//SE 寝ころんでいた光が上半身を起こす。

そして、軽くベッドを叩く。


「『ここ最近、学校帰りと休日は殆どうちに寄ってるんじゃ?』――そ、そんなことないもんっ! こ、今週は、月曜日と火曜日と木曜日と金曜日と……明日はお掃除と料理を作りに来るつもりだけど…………こっほん。そ、そんなことより! 椅子になんか座らないで、こっちに来なよ」

「――い・い・か・ら! 来てっ!!」


//SE 仕方なく貴方がベッドへと腰かける。


「ふふふ♪ よろしい!」//すぐさま、光も移動し、肩をくっ付けてくる。

「――……ちょっと、ね。疲れちゃったんだー。あ、『辛い』とか『嫌だな』とかじゃないよ? ――うん。みんなとっても良い子達だから」

「だけど、ね」


//SE 光が貴方の肩に自分の肩をつける衣擦れ。


「ボク、昔から背が高かったし、こういう容姿だし、性格もこうだから、どうしても女の子の間だと『王子様』扱いされちゃうんだよね。……全然、そんなことないのにさ」//少しだけ困った感じで。

「……『そうだな』って。ねぇ、ここは優しく慰めてくれる場面じゃないのかなぁ? 昔からお隣に住む貴方の年下で、女子高生な幼馴染が、こうやって儚げに困っているんだよ?? さ、もう一回!」

「――ふぇ?」


//SE ベットが軋み、光が移動。

クッションを抱きかかえる。


「ななな、何をいきなり言うんだっ! 『光はこんなに可愛いのになー』だなんてっ!! ……そ、そういうことは……その、ま、前もって、言っておいてくれないと、こ、心の準備が出来ないじゃないかっ!!! ……もうっ。貴方は何時もそうなんだから。ボ、ボクにはいいけど、他の女の子にこういうこと言うのは」

「――え?」

「『俺の前でボクは止めろって、前にも言ったよな。直せないなら、出禁にする』??」

「…………そ、そんな……だ、だって。う~」


//SE 光がゆっくりと移動する音。

貴方の肩をぽかぽか叩く。


「意地悪っ! 虐めっ子っ! 幼馴染を脅すなんて、さいてー! ……貴方は……わ、が、来なくなってもいいの……?」

「――えへ♪」

「ふ~~~ん。そっかぁ。そんなに、私に来て欲しいんだぁ。うんうん。そういうことなら仕方ないよね。だって、貴方がそこまで言うんだもん。貴方の前で『ボク』を使うのは止めるね! 約束する!! あの、ね?」


//SE 光が近寄り、耳元で。


「(――貴方の前だけだから、ね?)」//少しだけ照れくささそうに。


//SE バタバタと二人が暴れる音。

ベッドが軋む。


「あ、ち、ちょっとっ! 頭を撫で回さないでっ!! 癖がついちゃうっ!!!」

「……も、もうっ! 私は子供じゃないんだよ? 貴方も少しはデリカシーを身に着けて――え? 『でも、頭を撫でられるの好きだろ?』」

「~~~~~っ!」


//SE 何度も光が貴方の腕を叩く。

少しだけ荒い息。


「謝ってっ! 謝らないと、許してあげないっ!! 貴方は、私を犬とか猫とかと勘違いしていない? 噛んで、引っ掻くぞぉぉ」

「――! ふ、ふんだっ。そ、そうやって、何かあったら『可愛い』とか『綺麗』だって言えば、私が引き下がると思って…………ふぇ」

「『光は犬や猫じゃなく、普通の女の子だろ?』――……う~。う~。う~!!!!!」


//SE パタリ、とベッドに倒れこむ。

クッションを再び抱きかかえる音。


「――……貴方はズルいんだから。とっても、ズルいんだから どうして、

何時も私が言って欲しい言葉を……――」

「ねーねー。貴方の大学って楽しい?」

「――え? あ、うん。そ、そうだよ。うちはエレベーター式だし、ママもパパも『大学受験しなさい』なんて、言われたことないけど。――でも」

「あ~! もうっ!!」


//SE クッションを光が貴方に投げつける音。

ベッドが軋み、にじり寄って来る。


「皆まで言わせないでよっ! ……はいはい、そうですよ! あ、貴方と同じ大学に行きたいのっ!! …………意地悪、バカ。もう、嫌い」

「――ねぇ」//上目遣いで少しだけ不安気に。

「あ、貴方は、私が一緒に大学へ通うの、嫌、なの……?」

「――ふ~ん。へぇぇ~。そうなんだぁ~♪」//一気に上機嫌に。


//SE 貴方の腕を取る音。

光の声が高くなる。


「そっか、そっかぁ。そんなに私と一緒に通いたいんだぁ♪ なら、仕方ないかなー。うんうん♪ 外ならぬ幼馴染のお願い、だもんね」

「なら、ちょっと頑張ってみるね。私も――貴方ともっと一緒の時間を過ごしたいから」

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