第15話 宿敵
アキは何の変哲もない部屋に連れてこられ、縛られた両腕を上から吊るされた。
丸裸こそ免れたものの下着にタンクトップと云うあられもない姿には違いなかった。
先ほど男たちの手を止めた指揮官らしい男が手に鞭を握り近づいて来る。
「おい、お前シュナイゼルと云う名前を訊いたことはないか?」
男は細長い鞭の先をアキの頬にあてた。
「えっ…?!」
アキの顔色が変わる。その人物の名前をよもやこんな所で訊こうとは思いもしなかった。
彼女は驚愕の面持ちで言葉を詰まらせる。
「ふんっ! お前のような下っ端に訊いたわたしが悪かったか…
では、独立思考型回路巡洋艦についてはどうだ?未だに表舞台に出て来ないところをみるとやはり宇宙軍では完成させられなかったか…」
アキは男が放つ言葉のひとつひとつを信じられない思いで訊いていた。
「プロトタイプ艦と設計図を奪えなかったのは残念だったが、未だに完成していないところを見ると軍も手を拱いているしかないのだろう」
男は暫くアキを凝視すると、ニヤリと笑った。
「お前に良い仕事を与えてやろう…
軍に戻ってデータを盗み出して来い。
下っ端には勿体ない仕事だろう?」
そう言って男が顔を近づけた所へアキは相手に向かって唾を吐いた。
「なっ…何をする!」
男の顔が怒りで見る間に紅潮してゆく。
そして、その怒りは彼女の躰へと
何度も鞭が振り落とされた。
鞭が当たった箇所は痛いなんて生易しいものではなかった。
刀で斬り刻まれているような鋭い痛みで気が遠くなりそうだ。
「あ…れは…」
アキは必死で痛みに耐えた。
「あれは…父様の艦だ! お前なんかにやるものか!」
その言葉に振るっていた鞭が止まり、今度は男のほうが驚いた。
若い特務兵を捕まえたと云うから捨て駒として利用しようと思っていたが、とんだ瓢箪から駒であった。
「シュナイゼルに娘がいたとは…
言われて見ればその髪の色…なるほどな…
ふっ…ふふ…」
男は大声で笑いだした。
アキは何度も打たれた痛みでボンヤリとその状況を見つめていた。
「娘!巡洋艦についてシュナイゼルは何か残していないか?!有れば正直に言うんだ!」
先程とは打って変わり、鋭い形相で頭を鷲掴みにされたアキは躰を強張らせたが、それ以上に憎しみを込めた目で男を睨みつけた。
「フザケないで!!
皆してわたしから何もかも奪ったくせに!
わたしにはもう何も残ってない!
返せ! 父様を返せ!
父様の艦を返せ!」
鷲掴みされた頭は動かせないまでも、彼女は飛びかかるような勢いで言い放った。
その態度が癇に障ったのか、鷲掴みしていた頭を思いきり後ろの壁に打ち付けた。
「あーーーっ!」
激痛で一瞬目の前が真っ白になる。
「いいか?よく訊け!あの戦艦は個人の持ち物にするには手に余る代物だったのだよ!
それをあの男は平和利用の為などと寝惚けた事を言うから早死にする羽目になったんだ」
男はまるで嘲笑うかのように鷲掴みした手に力を込めて語りかけた。
「お前もバカでないなら父親と同じ轍は踏みたくないだろう?何か知っているなら素直にはけ!」
何度も何度も、頭を強く壁に押し付けられ意識が飛びそうだ。
「わたしは…何も知らない…たとえ…知ってても…あんたみたいなクズには言わない…」
激しい痛みに耐えられず目を閉じながらも、アキは虚勢を張った。
しかし、その事で逆鱗に触れたのか、再度容赦のない鞭が彼女の白い肌を赤い筋で染めていく。
「言え! 何もかも言うんだ!」
苦痛で意識が消えそうになったその時、凄まじい音と共に建物が揺れ天井が崩れ落ちてきた。
「どうした?!」
男が声をあげた。
「何者かに上空から物凄い勢いで攻撃されています!既に建物の半分が機能停止状態です!ここも時間の問題かと思われます!」
部下の一人が早口で伝えている。
アキは意識が朦朧とする中相手の男を見ると、天井が崩落した時何かが彼の頭に落ちて来たのだろう、着けていたバイザーが外れ額から血が流れている。
「ア…アプリコット…ラベンダー…」
譫言のようなその言葉に男はアキを凝視した。はっきりと目にした男は見事なプラチナブロンドの髪にオッドアイの瞳だった。
「オッドアイの金獅子…?!
ハイゼンスレー?」
その名前と二つ名を訊いた途端、男が冷酷な笑みを彼女に向けた。
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