第12話 作戦

 スヴァンヴィートは、二度目のワープドライブに入ろうとしていた。


グロックが発信前の確認を行なっている間、

アキは自分に割り当てられた座席に座り一心に祈りながら自分に言い聞かせていた。


『大丈夫…大丈夫…今回はちゃんと酔い止めも飲んだんだから…

どうか…どうか…艇酔いしませんように………』


発信準備が終わると、グロックは彼女の様子をそれとなく窺う。

突然出された今回の辞令には、いくつか懸念するところがあったからだ。


『どう云うつもりで俺の艇に乗ってきたかは知らないが、折角だから俺たちがどれだけ汚い仕事をしてるか存分に堪能してくれよ』


二人の思惑を乗せて《スヴァンヴィート》は目的地に向かってワープした。




標準時間十四時二〇分

《スヴァンヴィート》はカイラル星系ラゴスまであと三時間程の距離にいた。


「今度の任務は惑星ラゴスで勃発している紛争でのテロリスト剿滅だ」

グロックから、ラゴス到着後の作戦行動について細かな説明を受ける。


アキは訓練所さえ教育課程を終えていないズブの素人だ。今更ながら特務に配属された緊張感が襲ってきた。

そんな彼女に構わず、グロックは淡々と説明していく。


「現在、奴らが拠点としているのはこの三ヵ所…」

グロックはアキ前に地図を広げて見せた。


「首都グレジア、そしてキレウ、リュブラナ」

ひとつひとつ、地図の上を指で指してゆく。

その度にグロックの指先を目で追いながらアキは何度も頷いた。

その様子を静かに彼は注視する。


「俺は本拠地の首都グレジアを敲く。ノース訓練生は残りの2箇所を攻撃してくれ」

攻撃と云う言葉で、一気に彼女の顔が強張る。


「真っ向から攻めてもダメだ。上手く誘導して…」

惑星ラゴスの衛星軌道に到達するまで、攻撃手順について綿密に教え込まれる。

作戦が決まると、ラゴスへと艦を進め、夕闇に紛れて郊外の軍港へ着陸する。


決行時間は明日の一〇時〇〇分。

二手に分かれて着手する。




アキは、格納庫にある重戦車アレスの前に来ていた。明日、自分はこれに乗ってテロリスト等を殲滅しに行かねばならない。


『やらなきゃ…やらなきゃ…わたしがられる…』

アキは震える両手をアレスの装甲に触れると、その場にしゃがみ込み自分の額を装甲に当てた。

『こんな事で怖気づいてたら…何のために宇宙へ出たのか判らない……が…頑張れわたし!』

アキは固く目を閉じて自分に言い聞かせた。


「そんなところで何をしている!?」

薄暗い格納庫に、突然グロックの声が響く。

アキは心臓が口から飛び出すのではないかと思うほど驚いた。

元々アレスの横にしゃがみ込んでいたのが、あまりに驚いたので体勢がくずれ、その場で尻餅をついてしまう。

そんな彼女のところへグロックが静かに近づいて来る。


「今、何時だと思ってる…明日の作戦の為、十分な睡眠を取っている時間だろう?」

どう見てもこんな時間に格納庫へ来るなど怪しい事この上ない!

グロックは彼女に詰め寄って行く。


「あ…あの…明日…明日の為に…」

アキが口を開くと、グロックは改めて彼女を見据えた。

「明日の為にアレスと親交を深めていました!」

「…?!」


一瞬、空気が固まる。

『何を言い出すんだこの状況で…』

アキはパニック気味にあたふたと繰り返す。

「あ…明日は…アレスと一緒に作戦を実行するので、す…少しでも仲良くなろうと挨拶させていただきました!!!」

もう、自分でも何を言ってるのかよく判らない。


グロックは暫く彼女を見据えた後、深い溜息と共に声を掛ける。

「アレスと親交が深まった様だからもう寝ろ…」

その言葉にアキは立ち上り、彼に向かって敬礼の姿勢で返答する。

「アレスとの親交が深まったので、これより就寝いたします!」

緊張した顔付きで言い終わると、足早に格納庫から自分の部屋へと向かって行った。

その様子をマジマジと見つめている。


「…ったく!子供でも、もう少しマシな方便を考えるぞ…」

グロックは視線をアレスの方へ向けると呟いた。


「お前と親交を深めたかったそうだ。明日は頑張ってくれよ」

肩を叩くような感じで、アレスの装甲にグロックはポン、ポン、と二度叩いた。





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