第11話 過去 後篇
独り立ちしたグロックが最初に引き受けた任務は要人の護衛だった。
何故彼がその任務を引き受けたのか、それは要人の中にかつての義父の存在を見つけたからである。
反政府軍に対応すべく首脳会議が開かれる事となり、各星域からの要人を乗せた巡洋艦の護衛が独り立ちしたグロックの初陣となった。
首脳陣を乗せた巡洋艦の元へ護衛艦が到着すると、艦内の大型モニターにその艦艇が映し出された。
今回の護衛はその腕を見込んで、特務へ依頼されたのだ。
モニターに映し出された艦艇は、青みがかった銀色の艇体に黒と濃紺のライン。
艇体後方部には両サイドに赤いユニコーンの紋章が一際目立つ。
水平離着陸型の見事な200メートル級の戦艦だ。
そして何よりも、この艦が特殊部隊の艦艇であることは垂直尾翼に描かれた三日月と鏃のマークが物語っている。
宇宙軍の戦艦は殆どが軍からの貸出艦である。
にも拘わらず連合宇宙軍の要人でさえ誰一人見たことがない艦艇に、おそらく個人所有の物とその場の誰もが推測した。
モニター画面が切り換わり、艦の責任者であろう人物が映し出されると、要人たちはさらに驚愕の表情に変わった。
まだ、どこか幼さが残る少年の姿だったからである。
あれだけの戦艦がこの少年の持ち船だと云うのか?
少年は、モニターの向こうから鋭い眼光で睥睨しながら話し始めた。
「今回の任務を担当する特殊任務捜査処理部隊、
ザクレウス独立隊、
グロック・ザイツェンベルク・アインホルン中佐だ。
貴艦を地球まで護衛するにあたり、航行中は全てこちらの指示に従ってもらう。 以上だ」
連合宇宙軍の高官たちに対し、その高慢とも思える態度に怒りだす要人もいたが、特殊部隊においてトップクラスを示す赤い腕章と、
「俺が気に入らないなら他を当たってみればいい。俺が降りた案件を引き受けるヤツがいればだが…」
その幾分嘲笑気味に言い放たれた一言にこれ以上誰も異を唱えることは出来なかった。
特殊部隊トップクラスが降りた案件を引き受けるもの好きなど、軍内部は勿論、民間企業からでさえ容易に見つける事は困難だろう。
仕方なく彼等は今回の護衛任務を受諾するしかなかった。
しかし、彼等の思惑をよそに、グロックは反政府軍の二度の攻撃をものともせず無事要人たちを地球に送り届けた。
たった一人を除いて。
言わずもがな、あの義父である。
グロックはこの攻撃を利用し、義父を亡き者にした上で反政府軍の内通者と云う汚名まできせたのだった。
「父さんの無念をその身でよく味わいながら死ね」
それが義父に対する最後の言葉だった。
グロックは復讐を誓ったのだ。
私欲のため父を殺し、母を死に追いやった義父に!
そして
伯父と妹を無惨に殺した反政府組織に!
最初の配属先である特務のリーダーが退役した時、同じチームに残ることも、他の部署に移動することも出来た。
だが、改めて自分を見つめた彼は、伯父と共に農場で働いていた頃の、とっくに忘れかけてた記憶の一片に命の代償を見出した。
グロックは暫く休暇を取り、伯父の農場を訪れた。
人々が無差別に殺戮され、一面が焼け野原となったその場所も、月日の流れの中で新しい芽が吹き始め緑の大地へと変わりつつあった。
グロックが再びこの地を訪れたのには、ある確信があったからだった。
あの頃、伯父のところへ頻繁に若い夫婦が滞在していた。
そして、伯父がその夫婦から預かり物として使われていない農地の地下にある格納庫へ封印した物…
解除すれば、後戻り出来ない曰く付きの艦艇がそこにあるはずだった。
起動キーもパスワードも自分は知っている。
「あれが…始まりだったのかもな…」
そんな呟きと薄れていた過去の記憶と共に、己の命運をその艦艇に賭ける覚悟を決める。
凄まじい攻撃だったにも拘わらず、地下にあるその空間は無事だった。
電源を入れると、何年も死んだようなその空間に、様々な機械音が鳴り出した。
グロックはその空間に封印されていた艦艇に乗り込むとブリッジに上がる。
これを起動させてしまったらもう後戻りは出来ない。
しかし、何も持っていなかったあの頃の自分とは違う。
眼の前には肉親の仇をうつカードがあるのだ。
グロックは迷わなかった。
「豊穣神、スヴァンヴィート起動」
音声認識と共に艦に命が吹き込まれていく。
スヴァンヴィートと云えば軍神と思われがちだが、
戦艦に敢えて《豊穣神》と名付けたのだ。
幸せだった幼い頃の自分が…
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