第10話 過去 前篇

 戦艦技師だったグロックの父は、出撃中の攻防戦で命を落としている。

しかも、戦犯容疑がかけられた。


まだ乳飲み子だったグロックを抱えて、母は身に覚えのない夫の容疑をはらすべく奔走したが徒労に終わることが多かった。

途方に暮れている母を救ったのは、父の上官であったハウスベルゲンである。

彼は父の無実を証言し、名誉を守ってくれた。


その後、母はハウスベルゲンに望まれ再婚。

だがそれは、ローズレッドの瞳を持つ母を自分のものにするための策略だった。


軍人の家系であったハウスベルゲン家において、グロックにも幼い頃より厳しい鍛錬が強いられた。

元よりグロックに愛情など微塵も無かったハウスベルゲンにとって、グロックは駒の一つにしかすぎなかった。


争いを好まない優しい気質のグロックには、執拗なまでの義父から強要される鍛錬は辛いものだった。

だが母の為、産まれてきた躰の弱い妹の為、

どんなに無体な行為をされようとも泣き言を漏らす訳にはいかなかった。


そんな様子に母は心を痛めた。

恩人だと思っていた男が、実は愛する夫を死に至らしめた張本人であり、自分はその策略にまんまとはめられたと気付いた時には既にどうする事も出来なかった。


心労がたたり、寝込む事が増えていく中、子どもたちの身を案じ、療養と偽ってグロックと妹のアリサを連れ、実兄がいる木星近くの衛星に身を寄せた。

実兄であるアインホルン氏はそこで農場を営んでいた。


実兄に子どもたちを託し安心したのだろう、母は幼い兄妹を残して半年もせずに旅立ってしまった。


母が亡くなってからグロックは伯父の農場を手伝った。多分彼にとってはこの頃が一番幸せだったのかもしれない。


彼が11歳の年、再び悲劇は起きる。


敵の艦隊が木星を中心に無差別攻撃を仕掛けてきた。

優しい伯父も大切な妹も失いグロック自身も瀕死の重傷を負った。

傷が癒えた後彼を待っていたのは、火星における少年兵養成所での訓練だった。


肉親を失ったショックもさることながら、どんな小さなミスも犯す事無く任務を完遂させる能力を叩き込まれ、次第に自我を喪失していった。


一番初めに脱落すると思われていた少年は、訓練が終る頃には任務遂行のためには女性や子供でさえ平気で殺せる殺人兵器に変わっていた。


そんな彼を変えたのは配属先であった特務のリーダーだった。


ある任務で民間人に銃を向けたグロックをリーダーは有無を言わさず殴り飛ばした。

「バカ野郎っ!

いくらなぁ、非合法な事にも手を出す俺等でもやっていい事と悪い事の区別くらいつけろ!」

ある意味で熱いおとこだったのだ彼は。


そのチームリーダーが任務遂行中の事故で退役したのを機に、グロックは独り立ちをした。

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