第5話 アレキライト•ノース 1

1年程前、それまで浮いた話ひとつ無かった彼が婚約したと云う噂は、幾分世間に疎いグロックの耳にも届いていた。

しかし、銀河系屈指の名門デリウスフォード家嫡子であり、28歳と云う若さにも拘わらず行政官としての地位も備わっていて、その上女性なら誰でも見惚れるほどの容貌の持ち主とあっては、自分の娘を彼の元へ嫁がせたいと願っている高官たちは数多くいたのである。

差し詰め釣り合いの取れた何処かの令嬢とでも婚約を結んだのだろうと気にも留めなかった。


ところが、いざ自分と組む相手がその女かもしれないとなると、話は別である。

無関係ではない。

その女が、あの堅物を絵に描いたようなアルフレッドにとってどれ程大事な存在か、彼のこの状況を見れば一目瞭然である。

ただでさえ誰ともチームを組みたくないグロックにとって、そんな女など天地が逆さまになっても御免被りたい。



そこへ、重苦しい雰囲気の中突然人が入ってきた。

二人の視線は一斉にその人物へ注がれる。


そこには赤毛の長い髪をポニーテールにし、途中をもう一度結わえた女の子が所在なげに立っていた。


「すみません。ドアが開いていたので…」

グロックを見て、女の子はまごついてる様子だ。

そこへ丁度お茶を持って秘書のフレアが入ってきた。

彼女を女の子に気付くと慌ててアルフレッドとグロックに謝った。

「申し訳ありません!」


部屋の隅にあるテーブルにお茶を置くと、小走りで女の子に近づいた。

「統括管理官はただ今グロック大佐とお話中です。別室でお待ち下さい」

女の子はフレアの言葉に頷くと、その後に着いて歩こうとしたが、足を捻ってグロックの前に転んで倒れた。

あまりの無様な格好に呆気にとられたが、起き上がろうと急いで上半身を起こした彼女にグロックは手を伸ばしてやった。

その手に一瞬躊躇するものの、彼女は申し訳なさそうに俯き加減でその手に掴まり立ち上がった。


「転属願いでも出しに来たのか?」

「えっ? ち…違います」

いきなりされた質問にびっくりしたのか目を丸くし、その手を握ったまま彼を見上げて言った。


「所属に関しては大体希望通りでした。

特殊部隊は予想外でしたけど…」

最後の方は、少し困った表情を笑って誤魔化している。

“特殊部隊” やっぱりそうか…

彼女が部屋に入って来た時から嫌な予感はしていた。

それがドンピシャリと当たったのである。


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