第4話 遭遇 3
「伝令を送ってから3日か…随分早いご帰還じゃないか。確か今回の任務は惑星コリントスの内部紛争鎮圧じゃなかったか?」
「任務は完遂してる」
「そうだろうね。先方のマーカス首相から首都近郊が全て焼け野原になり、列島の半分が地図から消えたと大騒ぎしながら抗議が来てたよ」
まるで関心がないのかあっさり話す。
「瓦礫撤去の予算を組む必要がなくなった」
仮にも一国の首相からの抗議でさえ、まるで意に介さない様子で、飄々としている態度に内心イラつきながらも表情には出さずグロックは答える。
「相変わらずだな、まぁ…この程度なら問題はない」
グロックの返事に声を立てて笑っている。
元々聡明で才に長けていたこともあるのだろうが、この若さでここまでの地位に収まるには可成りの苦労があったはずだ。
甘いマスクに、それを引き立てる様な長い髪。
一見軟弱そうな風体でいながら実は可成りの切れ者で、不必要と判断すればその処分に容赦はない。
しかし、そんな事を微塵も感じさせず、いつ如何なる時も完璧にして、完全無欠であるこの男がグロックは苦手だった。
もしこの男を遣り込める奴がいたら見てみたいものだ。
それが自分で無い事は十二分に承知している。
だからこそ、この男の顔を見ると無性に腹が立つのだった。
しかも、自分の所属している“特殊部隊”は、このいけ好かないアルフレッド准将の統括するお抱え機関であり、彼はそこに帰属する独立艦の一つだと云う事実もそれに拍車をかけている。
「俺は他の
それを選りに選って相手は女だと!?
ふざけるな!!」
今まで平静さを保っていた分、溜まっていた怒りを一気にぶちまけた。
「女性とパートナーを組んで仕事をしている者は大勢いる」
「他の奴が誰と組もうが勝手だが俺はご免だ!!」
特務の荒くれ者が目の前で吠え立てようが一向に動じない。
「そこら中でどんな噂が流れてるか知ってるのか?女を宛行って懐柔するつもりだとまで言われてるんだぞ!!」
その言葉に一瞬アルフレッドの手が止まったが、怒りで顔を紅潮しながら吠え立ててるグロックは気が付かなかったようだ。
「随分お門違いな意見だね。人事に関しては私でも介入出来ないし、ましてや、そんな事で君を懐柔出来るならとっくにしてるさ」
アルフレッドは前に垂れた長い前髪を、右手の人差し指で直しながら笑った。
「生憎、君の女性の好みを知らなくて申し訳ない」
その言葉にグロックは益々顔を紅潮して怒鳴り始めた。
「彼女の配属を変えろ!!
お前なら出来るだろ!こっちは訓練生のお守りをしながら出来るほどお気楽な仕事が回ってくる訳じゃないんだぞ!」
それでも、冷静に手元の仕事を淡々と片付けているアルフレッドに、グロックも自棄になった。
「その女が一体何の役に立つって云うんだ!噂同様ベッドでの相手が関の山だろうが!」
苛立ち紛れに、皮肉を込めたセリフだったが、予想だにしないことがおきた。
「いい加減にしないかグロック!
君に言われるまでもなく、変えられるものならとっくに私が変えている!」
あまりの豹変ぶりにグロックの方が不意をつかれた。
「誰が好き好んで君の艦などに乗せたいものか!それをベッドの中でだと?彼女に指一本でも触れてみろ!
軍法会議にかけるだけじゃすまないからな!」
これがあのアルフレッドか?
この男が声を荒げているのを初めて見た。
いつものすまし顔は何処へ行ったんだ?
今の顔は怒りで引きつりながらグロックを睨んでいる。
冷静沈着で、神色自若な鉄壁の貴公子とまで言われた彼の、これ程動揺した姿を一度たりとも見たことのある人間は…少なくともこの宇宙軍にはいないであろう。
さすがにこれには内心グロックも驚きを隠せなかったが、何とか表情には出さずに済んだ。
アルフレッドの狼狽した姿を目の当たりにしたことで、幾分溜飲がさがったのだ。
「俺が軍法会議ぐらいで驚くとでも思ったのか?それでも俺と組ませるなら覚悟しとくんだな。
何せお前も知ってる通り俺の艦は狭いんでね」
アルフレッドの顔が、不安と焦燥の色で濃くなったのを見ると、益々可笑しかった。
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