第3話 遭遇 2

グロックが通路を歩いていると、前方から女性が二人近づいて来る。

おしゃべりに夢中になっていてグロックに気が付かない。

すれ違いざま片方の女性がグロックにぶつかった。


「あっ…ごめんな…ひっ!」

女性はグロックを見た途端、相手が特殊部隊と判ると悲鳴に近い声を上げ青くなった。


「と…特…特務の…ならず者…」

思わずそう口にするとその場にしゃがみこんで震えてしまった。


グロックは一瞬怒気で顔を歪めるものの、彼女たちには目もくれず歩いて行く。

自分たち [特務] に対する罵声や避難など馴れっこだ。

いちいち取り合ってなどいられない。

そんな事よりも、自分がわざわざ月へ来なければいけなくなった厄介事をなんとかするために先を急いだ。



宇宙港に併設されている施設に入ると、正面に設置されている受付を素通りし、内部へと足を進める。

制止しようとした受付嬢も、相手が特務と判ると何も出来ずに見送るしかなかった。


折しも1階では本日付で宇宙軍へ入隊する者たちが集まっている。

これから各部署へ配属されるのだろう。

「チッ!」

グロックは軽く舌打ちした後エレベーターに乗ろうと足を向けた時、自分の後ろの方から若い士官の話し声が聞こえてきた。


「おい、知ってるか?今日付けで特務に配属になる女の子がいるって」

「ああ、急に決まったから訓練所も途中のままらしい」


二人の会話に、表情にこそ出ていないもののグロックは苛立ちを覚えてた。


「そんな使い物にもならない状態で特務に行かせてどうするんだ?全く、上層部も何を考えているんだか…どうせまたヤバい仕事回すつもりなんだろうな」

「汚い仕事は特務専門だからな。可哀想に…正式に入隊出来たってのに、最初のお務めが野獣たちの相手とはね」

離れていった士官たちの話し声は聞こえなくなったが、二人の会話がこの先どんな下卑た物になるかは想像に難くなかった。



エレベーターを最上階まで登ると、目当ての部屋まで行き荒々しくドアを開ける。


突然開いたドアに驚きながらも、秘書のフレアは臆すること無くグロックに向き直った。

「何事ですか。グロック大佐」

さすがに最高責任者の秘書だ。特務相手でも動じる事はない。


「いるんだろう!」

そう吠えながら奥の部屋へ向う。

「お待ち下さい 大佐!」

制止しようと飛び出すフレアよりグロックの方が早く物凄い形相でドアを開けた。


「どう云う事だ!!アルフレッド!!」

執務室の奥には大きめなデスクがあり、幾重にも重ねられた書類の束が所狭しと置かれている。

その向こうにアルフレッドが座っていた。

背面の硝子張りの窓からは淡い光が差し込んでいる。

グロックの暴挙にも、何事も無かったように涼しい眼差しを向けている。

『相変わらずいけ好かない野郎だっ!』


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