第2話 遭遇 1
月
そこは、人類が遥か太古の昔より、お伽噺や崇高の対象とするほど慣れ親しんだ星である。
科学の発展と共に人類が地球を離れ、他の惑星へ移住が可能になると、各々の植民惑星で独立が始まった。
散在する植民惑星における犯罪や紛争の取締に、母星である地球連邦軍は、惑星連合宇宙軍を設立させた。
様々な犯罪や紛争に対し独自の権限を持つ。
その支部の一つがここ月にある。
いま、一隻の戦艦が軍の宇宙港へ凄まじい咆哮を立てて降りてこようとしていた。
余程慌てているのか、管制室の言葉も訊かず轟音とともに減速して艦を降ろした。
青みがかった銀色の艇体に、黒と濃紺のライン。
艦艇後方部には両サイドに赤いユニコーンの紋章。
そして何より垂直尾翼には三日月と鏃のマークが描かれている。
悪名高い特殊部隊の艦である。
「くそっ! 特務の艇かよ!」
誰かが毒づいている。
しかもその艦に向けられる冷ややかな目は一人や二人ではない。
特殊部隊はその名の通り他の部隊では処理しきれない荒事を引き受ける部隊だ。
宇宙軍の数多い部所の中でも取分け異色な部所である。
しかも任務遂行に当たっては道徳的に非合法とされない限り、あらゆる手段を使っても構わない特権を持っている。
しかしながら、そのやり方には可成りの批判もあり、規律と秩序を重んじる惑星連合宇宙軍において、軍内部の者たちからも悪名は尽きることがなかった。
エンジンの音が止み、暫くすると男が艇から降りてきた。
齢はまだ若く、少年の面影が幾分残っている。
それとは対象的に鍛え上げられた躰はがっしりとして筋肉質なうえ、広い肩幅に厚い胸、太い腕には特殊部隊である赤い腕章に大佐の階級がついている。
彼の名前は、
グロック·ザイツェンベルグ·アインホルン
18歳。
青みがかったセピア色の髪が肩にかかり、毛先が外側へと跳ねている。
その幼さの残る容貌に似合わず、冷徹で容赦のないやり方は、部隊の中でもトップクラスの実力を上回るほどの悪評ぶりである。
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