第496話 イレギュラー



【おいフェムト、予測と行動がぜんぜんちがうぞ! どういうことだッ!】


 心のなかで怒鳴り散らすと、相棒は澄ました口調で返したきた。

――アクシデントです。さすがのAIもそこまでは予測できませんからね――


【わかっている。しかし、戦闘態勢でこっちに向かっている理由は?】


――バレたのでしょう――


 …………最悪だ。


 ホエルンたちに知らせようも、ここら一帯には強力な妨害電波が展開されていて、通信をすべて阻まれてしまう。光による通信も敵に発見される恐れがある。それに岩場では障害物が多く、届くかどうか……。

 下に落とす指示用の色つき石も、用意したのは攻撃用と撤退用だけ。


 石柱から降りて合流するか悩む。


 高所に陣取っているアドバンテージを捨てるのは惜しい。かといって、もしバレているのであれば、戦力を集結させるか、撤退を指示せねば。

 どちらにせよ相手の出方によるのだが……。


【撃ってこないということは、バレていない可能性もあるな】


――そうですね。もしくはここまで届く兵器を携帯していない可能性も……――


 だったら先に仕掛けよう! 全滅は無理でも、数は減らせるはず。


 予定と異なる場所に、移動の足――魔導器を停めた一行へ照準を移す。


 銃身を横へ移動させると、その拍子に身を隠すため積んでいた石ころが崩れた。石ころを適当に選んだのが仇となった。丸みを帯びたそれは積んだ山から落ちると、石柱の端へと転がっていった。そして、落ちる。


 いま、石柱のてっぺんにいるのは俺だけだ。とうぜん、潜んでいたのがバレてしまい……。


 撃たれる前に撃とうとスコープを覗いたとき、ちいさな輝きを捉えた。どこがで見たことのある兵器が輝きを明滅させている。


 とっさに身を伏せる。


 頭上を何かが掠めていった。遅れて音が鼓膜を叩く。実弾による銃声だ。音が送れて届いた。それなりに距離がある。距離から威力を割り出す。自律型セントリーガンと似たような数値だった。


【…………俺たちの相手はセントリーか?】


――正確には、セントリーの武器を装備すた兵士ですね。セントリーの遅い機動力よりも、持ち運びやすさを重視したといったろころでしょうか。良い発想です――


【敵を褒めてる場合じゃないぞ。勝てるのか?】


――無論。実弾は極めて連射速度の高い兵器ですが、レーザーのように追尾はできません。長距離だと、レーザー式狙撃銃に軍配が上がります――


【当てられればの話だろう】


――当たります。この距離であれば、まず外さないでしょう――


【自信ないけど……】


――では、こういうプランはいかがでしょう。ホエルン教官を囮にする――


 …………。


――多少の怪我は仕方ありませんが、まず死なないでしょう。うまくいけば、ホエルン単体で片がつきます――


【おまえ、本気でそれを言ってるのか?】


――戦術的にはアリかと――


 AIが提案するのだ。成功の可能性は高いだろう。しかし、そうなってしまうと夫としてのプライドが……いや、それ以前の問題だ!


【男の意地がある。打って出るぞ!】


――公私混同ですよ、ラスティ――


【こういう時は上官思いの部下と言ってくれ】


 遮蔽物の石ころを腕で払い退ける。目障りなチェーンガンに銃口を向けた。


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