第493話 敵は強いか弱いか?



 大人の事情で、ホエルンとの〝にゃんにゃん〟はお預けになってしまった。


 てっきり、そのことで怒られると思っていたのだが……。


「私たちの新婚生活を脅かそうとしているクズどもね。さっさと始末しましょう。これは、せっかく二人っきりで〝にゃんにゃん〟を楽しむのを邪魔された腹いせじゃないから」


 馬に鞭打つ鬼教官はいつも以上にやる気だ。


「あのう、ホエルン」


「なぁにパパ♪」


「怪我しないように頑張ろう」


 至極当然のことを言っただけなのに、彼女は感極まった貌をした。自身を抱きしめ身をよじっている。


「敵を前にして、いまみたいな態度だけはとらないでくれよ。何かあったら俺が悲しむ。無傷は難しいかもしれないけど、命だけは大切にしてくれ。お願いだ」


「手足の一本くらいですむ用事なら、喜んで怪我するわ。ああ、でもパパは怪我しちゃ駄目」


 戦力的に怪我するのは俺だろう。そう思ったが、口に出さなかった。それが元でご機嫌斜めになると困る。

 またがっている愛馬――デルビッシュの首を撫でながら、


「おまえもだぞ相棒。帰りはどうとでもなる、ヤバくなったら逃げろ。いいな」


 言葉が通じているかわからないが、デルビッシュは「ブルルルルッ」と返してくれた。


 俺としては自律型のセントリーガンを持ってきたかったが、移動が鈍る。時間的制約があるので断念した。


 せっかく強い兵器を持っているのにつかえないとは……。


 あれこれ愚痴っても仕方ない。現実を見つめる。


 エレナ事務官からもらった、裏切り者に関するデータをホロに出した。


 ホリンズワースの肋を折った相手――ジョンとアスマ、それにミリー、伍長と呼ばれていた男。

 伍長の名はバスカービル。こいつらは四人一組のチームだ。

 連邦の精兵で、チーム名は〈レッドスカム〉。そこそこできるようだが、犯罪者のあつまりだ。

 エレナ事務官曰く、戦闘技能は精兵でも下の部類だと言う。


 しかし、油断はできない。どいつもこいつも重犯罪者で殺しのプロだ。この惑星に順応していることから、柔軟な発想の持ち主たちだと知れる。そして、それは惑星戦にも適応される。もしかすると、俺みたいに魔法を習得しているかも知れない。


「エレナ事務官は過小評価しすぎだ」


「そうでもないわよ。あの連中なら知ってるから」


「訓練を担当したとか?」


「あんな連中の? 冗談じゃないわ。パパみたいな才能豊かな訓練生は別として、見込みのないクズとは関わらない主義なの」

 こっちは過大評価しすぎだ。


「謎の大尉ってのに心当たりは?」


「無いわね。だって、あいつら使い捨ての精兵だったから」


「その割には長生きだな」


「それって、いくつも戦場を渡り歩いているって意味?」


「そうだけど」


「パパは知らないみたいだけど、あいつらの任務はいつも汚れ仕事よ。達成率も低いし、戦果も精兵では下の下」


「でも、生き残っているんだろう。それだけでも凄いと思うけどな」


「まあ、パパがどう思うかは勝手だけど、軍上層部は煙たがっていたみたい」


「達成率か?」


「ちがうわ。あいつら、民間人を平気で殺していたから」


「えっ!」


「民間人の救出作戦の時、状況が悪くなったからって、民間人ごと味方の乗っている船を爆破したの。結構有名な話よ」


 思いっきり犯罪者じゃん!


「なんで、そんな奴らが処刑されていないんだ!」


「聞いた話だと、特赦とくしゃ狙いでワクチンの検体に志願したからだって」


「治験ごときでどうこうできる経歴じゃないでしょう」


「ところがどっこい、それが可能なのよ。浸蝕ウィルスのワクチンに関してだけはね。で、そろそろ死ぬだろうなって頃に人権団体が入ってきて、運良く軍に返り咲き。あまり公にできない治験に協力したから、過去の犯罪はチャラ。悪運がいいにもほどがあるわ。しぶとさだけが売りのGみたいな連中よ」


 なるほど、合点がいった。しぶとい連中だから、ホエルンはここで始末したいわけだ。


 ところで、エレナ事務官が声をかけた連中って誰なんだ? 戦える人たちだったらいいんだけど……。

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